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24話 魔女様は海の幸を楽しむ

 幸い、近くに流されていた水着を慌てて付け直していると、海の奥からレオノーラがエヴィル・キングクラーケンの足をずるずると引きながら戻ってきました。


「うふふっ! 思わぬ収穫ですわね……あら? 何をそんなに顔を赤らめてますの?」


「何でもないです……」


「シルヴィちゃんと私の水着が流されちゃって、皆に見られ――むぐっ」


「わあああああ!! 言わなくていいですからフローリア様ぁ!!」


 慌ててフローリア様の口を塞ぐもレオノーラには伝わってしまったらしく、クスクスと笑いながら私に言います。


「家族なのに見られて恥ずかしいんですの? (わたくし)とお風呂と寝床も一緒にしてますし、今更恥ずかしがる必要など――」


「れ、れれれレオノーラ!! そう言うことは言わなくていいですから!!」


「あらあら、シルヴィちゃんは魔王ちゃんと一緒に寝てたの?」


 フローリア様の疑問に、レオノーラの顔が玩具を見つけたと言わんばかりにあくどく歪みます。そして彼女は頬を少し上気させ、片手を添えながら体をくねらせました。


「城にシルヴィを招いた夜……私、シルヴィに体を求められまして」


「は、はぁ!?」


 レナさんの正気を疑うような視線を受け、私は慌てて否定します。


「ち、違うのです! 今のは語弊があります! 私はただ、夜寝るためにレオノーラを抱きしめて寝ようと」


「え? あ、あぁ……エミリ代わりってことね。びっくりしたわ」


「うっふふ! まさかレナ、貴女いかがわしい想像を膨らませまして?」


「あんたが勘違いさせるような言い方したからでしょうが!!」


「きゃ~!」


 レナさんの抗議をひらりと躱すようにレオノーラが逃げ出し、レナさんが怒りながらそれを追いかけます。なんだかフローリア様とのやり取りに似ている光景に笑ってしまう私の横で、シリア様も同感だったらしく深い溜息を吐かれていました。





 ちょうどお昼が近かったこともあり、レオノーラの案内でバカンス中滞在することになる宿泊施設に移動した私達は、魔王である彼女の部下の皆さんに食事を振舞っていただいていました。


「お待たせいたしました。こちらが、エヴィル・キングクラーケンを使った品々になります」


「来た来た~!」


 フローリア様の歓声に、私達の視線が一点に集まります。

 給仕服姿の魔族の方が大きなワゴンに乗せている料理は、私がいた塔や今住んでいる森では滅多に目にする機会の無い魚介類をふんだんに使った品々でした。


 キノコとイカのイカスミ焼き、ホタテとイカにクリームチーズをのせたオーブン焼き、イカとたらこのスパゲティ、イカ足の揚げ物などなど。イカが多めなのは仕方がありませんが、どれも食欲がそそられる逸品です。


 そこに遅れて、レオノーラ自身もワゴンを押しながら中に入ってきました。


「シルヴィ、貴女から預かったレシピをそのまま使わせていただきましたけど、本当にこれでいいんですの?」


 私は立ち上がり、蓋をされているそれの中身を確認します。少しだけ開けて中を覗き、見た目と匂いから概ね問題は無いと判断してレオノーラに頷いて見せます。


「はい。私も試しに一度しか作ったことはありませんが、その時とほとんど同じですので大丈夫です」


「なら良かったですわ。厨房で料理人が頭を悩ませながら作ってましたのよ?」


「レナさんの故郷の料理ですので、恐らく誰も作ったことが無いかと。後でお礼を伝えておいてください」


「料理を作るのが彼らの仕事ですわ。礼なんて言わずとも、綺麗に食べきることが彼らに対する感謝ですのよ」


 そう言いながら私にウィンクを残すと、レオノーラはワゴンを押しながら私達のテーブルへと進み、それをテーブルの中央に置いてレナさんへと笑みを向けます。


「ふふ、シルヴィからの心遣いで貴女の故郷の料理を再現させましたわ。さぁ、歓声を聞かせてくださいませ!!」


 レオノーラが大袈裟に蓋を外した瞬間。

 蓋の中から湯気がほわんと立ち昇るそれを見て、レナさんが黄色い叫びを上げました。


「うわあぁぁぁぁぁぁ!? わ、和食がこんなところで食べられるの!?」


 辺りに充満する、“お醤油”の香ばしい匂い。それに続く湯気が孕む、魔族特製の魚介ダシの芳醇な香りに刺激されたレナさんが思わず立ち上がります。

 これはシリア様にレシピを翻訳していただいたは良いものの、材料となるダシと魚介が手に入らなかったため、ごく少量だけ分けて頂いた日に味見用にと作った料理――イカの炊き込みご飯です。


「はい。レナさんの故郷のレシピを基に少しアレンジは加えましたが、恐らく味は変わらないかと」


「さぁさぁ、冷めない内にご賞味くださいませ? ただのイカとは異なる味わい、きっとご満足いただけましてよ?」


 レオノーラによそわれたお皿を前にしたレナさんは、一足先に「いただきます!」と手を合わせるとスプーンでそれを口いっぱいに頬張り。


「んん~~~~……!! これよこれ! ダシも効いててイカの歯ごたえも最っ高!! 和食大好き……」


 顔を蕩けさせ、感極まったように涙を光らせました。

 その様子を見た他の皆さんも続々と炊き込みご飯に群がり、食べたことのない味わいに喜びの声を口々にしています。ここまで喜んでいただけるなら、レオノーラにお願いして魚介を今度から分けて頂いて、レナさんの故郷料理をもっと作ってあげた方が良いかもしれません。


 私とレオノーラも皆に続いて食事を口に運び、お互いに顔を見合わせて笑いあうのでした。

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