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17話 女神様は水着を持ち帰る

 レオノーラは「次の星の日の朝に迎えに来ますわ!」と言い残し、転移で帰る直前までぎゃあぎゃあとシリア様と喧嘩しながら帰っていきました。


 私は私で森の皆さんに「ポーションは何本あれば安心できますか」と確認に確認を重ね、シリア様の見込みより少なめのニ十本を作り置きしたり、意外と包丁での怪我も多いペルラさん達の元にも包帯や塗り薬などの用意をしながら過ごします。


 レナさんも三日間は手伝えなくなるからと、獣人の方が数人がかりで取り組まなくてはいけない建築作業や、備蓄用の狩りを手伝ったりと精力的に取り組み、シリア様もペルラさん達の酒場でお酒を切らすかもしれないと、いつも以上に錬成されていました。


 一方でフローリア様は、いつも通りふらふらとあちこちを徘徊しながら遊び歩いているようにも見えましたが、木の日の朝にふと姿を消し――。


「たっだいま~!!」


 その日の夜に、魔導連合へ行く前の時みたいな手提げ袋を二つ腕に下げて帰ってきました。


「どこ行ったかと思ったらまた地球行ってたのね。おかえりフローリア」


「えっへへ~! 大神様にも見つからなかったし、今回は大成功よ♪」


『後で呼び出されても知らんぞ、全く。……して、今日は何を買ってきたのじゃ?』


 シリア様に促され、フローリア様は紙袋の中身を披露し始めます。


「まずはね~……はいこれ! シルヴィちゃんの水着!」


「ありがとうござい――何ですかこれ!?」


 フローリア様から受け取ったそれに、思わず声を上げてしまいました。


 これは服ではありません。最早下着です! 白いブラジャーのようなトップスの紐は青く、同じく青いフリルがさりげなく可愛らしさを引き出しています。ショーツにしか見えないものも上下で色は同じですが、腰元に来る部分に小さく添えられているスミレの花が、また可愛く…………ではありません!


「フローリア様! 水着と言うものは、水遊びをするための服だと仰っていませんでしたか!?」


「え? それが水遊びのための服よ?」


「こ、こんな下着同然の服がですか!?」


「こんなって……。ねぇレナちゃん、これが水着だもんね~?」


「うん。そんな驚くことは無いと思うけど……」


 レナさんまで当然だと言わんばかりに頷きます。私は彼女がいた異世界の常識が、余計に分からなくなってきました。

 確かに裸で遊ぶよりは多少マシとは思いますが、それでも下着同然のこの服で遊ぶのは、逆に恥ずかしさがあるような気がしてなりません。


 手渡された水着を眺めながら考えていると、紙袋から赤い水着を取り出したフローリア様はレナさんにも手渡しました。


「はいレナちゃん! 綺麗な赤いグラデーションの水着があったから買って来たけど、どうかしら?」


「わぁ~! オフショルのビキニとか可愛い! ありがとフローリア、いいセンスしてるわ!」


「いえ~い!」


 受け取ったレナさんは、フローリア様と手を高く上げてパシンと打ちました。あれも異世界でのコミュニケーションなのでしょうか。


 レナさんが発していた単語がまた理解できませんでしたが、彼女の水着は肩が大きく開けているもののようで、少しカーテンを彷彿とさせるようなデザインでした。あれはあれで胸元もかなり見えてしまいそうですが、レナさんは気にしていないようです。


「エミリちゃんはこれね~。まだお姉ちゃん達みたいなのは早いかなって思って、こんなのを買ってみました!」


「わたしも貰えるんですか!? ありがとうございますフローリアさん!」


 目を輝かせながら、フローリア様が選んでくださった水着を広げるエミリ。

 エミリが頂いたものは、ワンピースのようなデザインの物でした。全体の色は濃い紫色と白のストライプで、スカート部分は上から下へ色が薄くなっていく広いフリルが付いています。よく見ると、その内側にショーツが縫い付けられているようです。


 私もエミリの物のような肌面積の少ないものが良かったと思いますが、あれを着る自分を想像して、フローリア様から頂いた水着以上に恥ずかしく思えてしまい、慌てて頭を振ってイメージを追い出します。


 続けてフローリア様は、「じゃじゃ~ん♪」と口で言いながら一着の水着を取り出しました。


「え、待ってフローリア。まさかそれ着るの……?」


「えへへ~♪ 可愛いでしょこれ? 牛柄の水着なんてあったのね~って買ってもらっちゃった!」


 フローリア様が取り出したそれを見て、私は絶句してしまいました。

 あれは……下着としても機能していないのでは無いでしょうか? 胸を覆う面積もリボンの帯ほどしかなく、下なんてお尻に食い込んでしまいそうなデザインの細さです。それが背中側も含めて上下で一枚の布で出来ているので、最早V字のテープリボンを着ると言った方が早いかもしれません。


 頭の中で、フローリア様の暴力的なボディラインが際立ちそうなこの水着を彼女に着せ、とてもエミリに見せられないものと判断した私は、エミリの目を隠しながらフローリア様に抗議します。


「ふ、フローリア様! それはダメです! エミリに良くありません!!」


「お姉ちゃん、何でわたしに良くないの~……」


 エミリの心底不思議そうな声を聞きながらも、フローリア様に目で訴え続けます。すると彼女は、頬に手を当てながら笑いました。


「やだぁシルヴィちゃん! 私だってこれは着ないわよ~。これは記念に買っただけで、着るのは別の物よ」


 良かったです。流石にフローリア様と言えども、この水着を着るのは躊躇われるようでした。

 そう安堵していた私に、彼女は袋の中から別の水着を取り出し――。


「私が着ようかなと思ってるのは、こっち!」


『大して変わっとらんじゃろうが!!』


「やぁぁん!」


 上の部分は一見、フローリア様が普段着ている女神としての服に似ているデザインなのですが、そこにも牛の斑点模様があしらわれていて、普段の服の布面積に比べるとかなり細くなっていて、激しく動けばズレて見えてしまいそうな怖さがあります。ですが、下のショーツ部分はさっきのよりはしっかりと布面積も多く、こちらならまだエミリが見ても問題は無さそうに見えます。


 シリア様のアッパーカットを受けたフローリア様がドサリと音を立てて食堂の床に倒れ込み、彼女の顔の上に水着がひらりと被さります。


 その上から容赦なくシリア様が降り立ち、フローリア様の頬を往復ビンタしながらお怒りになり始めました。


『何故貴様はそうやって、破廉恥(はれんち)な服しか選べぬのだ!! シルヴィの水着はまだ健全であったから許すが、万が一シルヴィにも同じものを持って来ようものならば、即座に天界に帰すからな!!』


「いたっ、痛い! 爪出てるからシリアぁ~!!」


 ジタバタと暴れるフローリア様の上で、バランス良く体を動かしながら落ちないように叩き続けるシリア様は、その後レナさんに止められるまでフローリア様を楽器のように扱い続けていました。

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