13話 天空の覇者はヒントを出す
彼に乗ると、あっという間に復興作業中の村まで到着することができました。
ちょうど村の方でもお昼休憩になっていたらしく、私の到着を今か今かと待ちわびていたお二人は、まだ温かいサンドイッチを受け取ると喜色満面の笑みを浮かべてくださいました。
「ありがとうシルヴィ! 今日はサンドイッチね、美味しそうだわ!」
「見て見てレナちゃん! この前のイノシシ肉もゴロッと入ってるわ~!」
「あれすっごい美味しかったのよね! 楽しみだわ! ……あ、そう言えばシルヴィ。今日レオノーラさん来てるんだっけ? スピカとの話は順調そう?」
「いえ、あまり順調とは言え無さそうです。何でも、スピカさん達は森が好きなので今あるスペース以上に畑を広げたくないらしく、代理策で魔族領で作物の育成をしてみてはとの話になってはいたのですが、魔族領の大気中に含まれる魔素の濃度が問題になって難航しているようです」
「ふーん……。魔素って言うのが高いと葉野菜が育たないくらい毒になるって言ってたし、魔族も大変なのね」
他人事のように呟きながら、サンドイッチを頬張って顔を緩ませるレナさん。すると、隣で包み紙を開きながら匂いを楽しんでいたフローリア様が何気なしに言いました。
「毒って言うくらいだし、シルヴィちゃんの浄化魔法で浄化出来たらいいのにね~。はむっ」
「それは出来ないのではないでしょうか……。流石に大気中となると対象が曖昧になりますし」
そう答えると、肩のメイナードが何を言っているという顔をしてこちらを見ていました。
『主よ。まさかとは思うが、それは本心で言っている訳では無いだろうな?』
「いえ、本心ですが」
即座に返す私に、メイナードは深く溜息を吐きました。
彼は私の肩から飛び降りて元のサイズに戻ると、私へ要求してきます。
『亜空間収納から、適当な野菜でも果物でもいいから出せ』
「はぁ……」
言われるがままに、倉庫にしまおうとして忘れていたキャベツを取り出し、彼の足元に置きます。
メイナードはそれに向けて、彼が纏ういつもの燐光を差し向け――。
その燐光が晴れる時には、瑞々しい薄緑色だったキャベツが腐ってしまったかのような色に変色してしまっていました。
「メイナード! 食べ物で遊んではいけないといつも言っているではありませんか!」
『遊んだわけではない。それよりも主、これを見て何も気づかないのか?』
彼が示すキャベツと、薄っすらと残っている燐光を交互に見比べます。
無残にも食べることができずに腐らせてしまったキャベツ……。これが使えれば、今日の夕飯に一品サラダを付け加えることもできたでしょう。本当にすみません、スピカさん。
ですが、恐らくメイナードが言いたいことはそういう事では無いのでしょう。私はこれまでに聞いた彼の話を懸命に振り返ります。
メイナードのあの燐光は、以前彼の魔力の残滓と聞いたことがあります。それがキャベツに触れてこのように変容してしまうと言うことは、やはりそれだけメイナード自身の魔力が強すぎると言うことでしょうか。
そこで私は、技練祭の演目で彼の燐光に浄化魔法を用いながら振り回されたことを思い出しました。
メイナードはあの時、『我が出す燐光は人間にとっては微弱な毒素になるのを利用し、主の浄化魔法に反応させて描いてみた』と言っていました。あれはつまり、魔族領の大気中に含まれている魔素と同等、もしくはそれ以上の物なのでは無いでしょうか?
私が答えに辿り着いたのを見たメイナードは、いつものようにクックと笑います。
『どうやら分かったようだな』
「もしかしてですが、あなたの燐光は魔素と似ているのですか?」
『半分正解だ。残りの半分は、我の方が圧倒的に強いという点だがな。だが、主ができることが見えたのではないか?』
「はい! これは私なら解決できるかもしれません!」
「え、待ってシルヴィ。あたし全然分かってないんだけど」
『小娘の知能はその程度だと言うことだ。知能の無い貴様は精々、体を動かして労働するんだな』
「はああああああ!? ぶっ飛ばすわよあんた!!」
レナさんを挑発してからかうメイナードの背に乗り、ふわりと飛び上がります。
「すみませんレナさん、フローリア様! 急ぎシリア様に伝えないといけないことができましたので、私はこれで!!」
「いってらっしゃ~い」
「シルヴィー!! あとで教えてよねー!!」
サンドイッチを片手に手を振るレナさん達に手を振り返し、メイナードと共にじんわりと暑い夏の空を再び舞います。
まさか技練祭の経験が活きるとは思いませんでしたが、私にもできることがありました!




