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10話 ご先祖様は気が短い

『まぁシルヴィ! かなり早く連絡をくださいましたのね!』


「こんにちはレオノーラ。今、連絡をして大丈夫でしたか?」


『ふふっ! シルヴィからの連絡なら(わたくし)、全ての仕事を後回しにしてでも時間を作りますわ!』


 それは仮にも魔王としてどうなのでしょうかと思ってしまいましたが、有難いことではあるのでそのまま話を続けることにします。


「ありがとうございます、レオノーラ。ええと、この前話をしてみて欲しいと頼まれたハイエルフの方への件なのですが」


『えぇ、何か進捗がありまして?』


「はい。引き受けても構わないと仰ってくださいましたので、その連絡にと」


『ほ、本当ですの!?』


 魔石越しにも、彼女が勢いよく立ち上がったことで机が激しく動いたのだと分かる音が聞こえてきました。紙が大量に滑る音と小さな悲鳴も聞こえましたが大丈夫でしょうか……。


「レオノーラ、大丈夫ですか?」


『だ、大丈夫ですわ! ちょっと書類が崩れただけですの。クローダス、整理を頼みますわ』


 またクローダスさんが命令されて使われているようです。本当にレオノーラに付きっきりなのですね。


『ふぅ。それで、私はどうしたらいいのでしょう? いつ頃来ても良いとか、そう言う話はまだですの?』


「その話も聞いてみました。今週は空いているそうですが、シリア様が明日にするようにと」


『何故シリアが絡んできますの? あの蛮族猫……』


『聞こえておるぞ阿保魔王。また串刺しになりたいか?』


 聞き捨てならないとシリア様が口を挟み、レオノーラが『げっ』と心底嫌そうな声を上げました。


『こほん。よろしくてシリア? あくまでも私は、お友達であるシルヴィにお願いしたのです。火急の話は温かいので、猫舌である貴女には辛いと思った私の心遣いを無下にしないで頂きたいですわね』


『はっ。二枚舌のどこぞの王よりは、猫の方が事の運びをきちんと行えるわ。このたわけ』


『まぁ! 仮にも女神ともあろう方が、この世に生きる生命へ罵倒の言葉を浴びせるなんて! 信徒を増やしたいのならば、もう少し丁重な接し方を学んだ方がよろしいのではなくて?』


『自堕落に遊び惚けておる阿保を丁重に扱う価値なぞ無い。丁重にされたければ日頃の行いを改めるのじゃな。それに、妾の教徒は無暗やたらに数を増やせば良いという訳でも無い。いらぬ心配なぞする暇があれば、ちっとは(まつりごと)に精を出した方が良いのでは無いかの?』


 嫌味の応酬に苦笑いを浮かべるしかできません。スピカさんも同じように思っていたらしく、魔王相手に嫌味をぶつけるシリア様に変な顔をされています。


「すみませんシリア様、レオノーラ。話が進まなくなってしまうのでそこまでにしていただけると……」


『そうですわよシリア! 元はと言えば貴女が絡んでこなければこのような脱線はしませんでしたのに!』


『貴様……!』


 わなわなと震え始めてしまったシリア様を宥めながら、無理やり話を進めます。


「と、とりあえずレオノーラ。明日の午前に私の家に来ていただけますか? ハイエルフの長であるスピカさんもお招きしておきますので」


『えぇ、分かりましたわ。では明日の午前にお邪魔させていただきますわね』


「はい。お待ちしていますね」


 レオノーラとの連絡を終え、ポケットにペンダントをしまう私の傍らでシリア様が深く溜息を吐きました。


『ほんにあ奴は性格が捻じ曲がっておるな。あれは死んでも治らん』


「私は魔王相手にあんな物言いが出来るシリア殿が怖いよ……。魔王とは親しい仲なのか?」


『親しくなどは無い。強いて言えば、大戦時に敵対していた者同士の腐れ縁と言ったところじゃな』


「シリア殿、魔王と敵対していたのか!?」


『うむ。妾は大戦時に魔王城へ乗り込んでいった勇者一行の仲間であった。あまり知られてはおらぬようじゃがな。ちなみに、トドメを刺したのも勇者ではなく妾じゃ』


 少し鼻高々に語るシリア様。恐らく、魔王城で見せたあの滅びの槍がトドメに使われたのでしょう。

 それを聞いたスピカさんは、信じられないものを見る目でシリア様を凝視していました。


「ま、魔女殿。魔女殿のご先祖様は、とんでもない大物だったのだな」


「はい……。私もつい最近知ったのですが、もう流石ですとしか言葉が出ませんでした」


「はは、そうか……。シリア殿は勇者一行の仲間であったのか。魔女殿ではないが、流石としか言いようがないな」


『くふふっ! まぁ妾が何者かなぞ、今はどうでもよい。まずはお主と奴の会談を成立させることが先決じゃ。明日の午前、妾達の家で待っておるぞ』


「分かった。魔女殿の開業時間の後に伺わせていただこう」


 スピカさんが頷いたのを見たシリア様は、満足そうに頷き返して私の膝の上へ飛び乗りました。


『では、妾達は今日の所は帰るとするかの』


「はい。それではスピカさん、また明日。お邪魔しました」


「あぁ。また明日、魔女殿」


 軽く挨拶を交わし、寝ていたメイナードを起こして家に戻ります。


 夕焼けに染まった空を飛び、家が近づいてくると、庭先でレナさんとフローリア様が追いかけっこをしているのが見えました。

 すぐそばで降り立つと、レナさんが声を荒げながらフローリア様目掛けて飛び蹴りを繰り出しました。


「あたしのパンツ、どこにやったのよー!!」


「きゃあん!!」


 レナさんの鋭い蹴りがフローリア様の背中に刺さり、フローリア様の体が地面の上で数回跳ねながら転がっていきます。すると、地面を跳ねる彼女の体から一枚の布切れのようなものが、ひらりと空を舞いました。


 薄っすらと桃色の生地に、ところどころ花を彷彿とさせる模様とレースが付いている可愛らしいショーツです。我が家の洗濯も担っている私は、それがレナさんの物だと即座に分かってしまいました。


「あー!! やっぱり隠し持ってたじゃない! バカフローリア! 変態! 下着泥棒!」


「だって、レナちゃんがいない時でもレナちゃんを感じたかったんだもーん!」


「もっと他の物があるでしょうが!!」


「あっ、痛い! レナちゃん待って待って! そっちには腕は曲がらないの! 折れちゃう折れちゃう~!! あっ、でもこういうプレイもたまにはアリね! いつもは私に乗られるレナちゃんにこうやってあいたたたたたたたたたっ!!」


 レナさんに馬乗りにされたフローリア様が、後ろ手をギリギリと締め上げられています。女神様と言えど、あの角度に腕を曲げられるのはやはり痛いようです。


 そんな彼女達を見ながら、シリア様が今日で何度目とも分からない溜め息を吐きました。


『何をやっておるのじゃ、あ奴らは……』


「あはは……」


 くだらない、とでも言いたげなメイナードが鼻で笑う音を聞きながら、私は苦笑するしかありませんでした。

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