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9話 魔女様は橋渡しをする

 スピカさん達に頂いたスイカはとても美味しいものでした。どのくらい美味しかったかと言うと、普段自分が食べづらい料理には一切手をつけようとしないメイナードが、『主よ、これを少し凍らせて我に出して欲しい』と頼んでくるくらいには味と香りも最高峰だったと言える出来栄えでした。


 食べ終わって一足先に戻っていったスピカさん達を見送り、後片付けを終えた私はシリア様と共にメイナードに乗り、スピカさんの家へとお邪魔しています。


「すまないな魔女殿、シリア殿も」


「いえいえ。私こそお時間を頂いてしまってすみません」


「なに、魔女殿からの話なんてそうそうないからな。気にしないでくれ」


 そう言いながら笑う彼女に微笑み返し、案内されたソファに腰掛けます。テーブルの上にシリア様とメイナードが並び、対面にスピカさんが座る形です。


 私はスピカさんが座ったのを見計らい、レオノーラから預かっていた相談事を話してみることにします。


「まず少しお聞きしたいのですが、スピカさん達から見て魔族はどう映っていますか?」


「魔族か。そうだなぁ…………」


 スピカさんは顎に手を当て、視線を空中に彷徨わせながら考えること数秒。


「さっきも少し話したが、我々ハイエルフは大戦中も大戦後も、人間や魔族からは何も干渉は受けていない。正直に言えばどうも思っていない、と言う所だな」


 いつも私に接してくださる時のような表情ではなく、真面目な雰囲気を感じるそれで答えてくださいました。

 その答えを聞いた私は、まずは話を進めて大丈夫そうですねと安堵します。


「私が預かってきた話が魔族に深く関係していたので、その答えを聞けて安心しました」


「そうか。しかし、魔族が深く関わっていて、我々に頼みたいことなんてあるのだろうか? 我々は森の中でひっそりと作物を育てるくらいしかできることは無いぞ?」


 スピカさんの疑問に、私は頷いて続けます。


「魔族領へ行って教えて頂いたり、実際に目の当たりにして分かったことなのですが、向こうは大気中の魔素が濃すぎて野菜が育たない環境にあるらしいのです。そのせいで、料理にも彩が少なく栄養バランスも偏らざるを得ない状況にあると」


「あぁ、そう言えば魔族領に移民する際に偵察に行ったエルフが、そのようなことを言っていた気がするよ。魔素濃度が高いから、エルフの体組織や魔力回路に影響があるかもしれないと」


「それは初耳ですが、エルフの方にも影響が出るくらいには魔素濃度が高いので、食卓に野菜を並べられないのだそうです。そこで、もし可能であればスピカさん達が作ってくださっている野菜を分けて頂けないかというお話でして」


 スピカさんは私の言葉を受け、腕を組んで瞳を閉じ、熟考を始めました。

 しばらく沈黙を守っていたスピカさんでしたが、やがて考えがまとまってきたらしく、顔を上げて私に答えてくださいました。


「……別に提供すること自体は構わない。我々の作物の味が如何に素晴らしいかと広めることもできるからな」


 私が口を開こうとするよりも先に、スピカさんが「だが魔女殿」と釘を刺してきます。


「知っているとは思うが我々ハイエルフの総数は、この森に住んでいる二十人弱で全員だ。とてもじゃないが、魔族領全域に行き届くように作物を作るのは不可能だ。それは魔族も分かっているのだろうか?」


「はい、そこは魔族としても理解はしていました。もし魔族側にも分けて頂けるのなら、スピカさん達が望む物は可能な限り応えるとも言っていました」


「可能な限り応える、か。魔女殿、もしかしてだが相手は相当な商人なのか? たまに取引をしている人間の街の長からも、そんな話は聞いたことは無いぞ」


「商人……ではありませんね。レオノーラは魔王ですし」


「まっ!?」


 サラッと私が言ってしまった魔王という単語に、スピカさんが動揺しました。


「ま、待ってくれ魔女殿! 相手は魔王なのか!? しかも、魔女殿は魔王ですら呼び捨てにできるのか!?」


「え、えぇ……。魔王ですが友達ですので、親しみを込めて名前で呼ぶようにと」


「はは、ははは…………」


 やはり魔王という存在は、魔族と関わりを持たなかった彼女達にとっても相当なもののようです。

 そう言えばゲイルさんから呼び出しが入ったと聞いた時の私も、今のスピカさんのように慌てていましたね。数日前の出来事なのに懐かしくすら感じてしまいます。


「大丈夫ですよスピカさん。レオノーラは悪戯が好きですが悪い人ではありませんから」


「魔王の悪戯とか、言葉だけでゾッとするぞ魔女殿」


 スピカさんの言葉に、シリア様が息を吐きながら応じます。


『案ずるなスピカよ。あ奴の悪戯は文字通り、子ども染みたタチの悪い悪戯じゃ』


「魔王が子ども染みた悪戯なんてするという事実に、私の中の魔王像が崩れそうだよシリア殿……」


『会って見れば分かるが、お主が思い描く恐怖の象徴とは大きく外れておる。あんな奴、面倒な子どもじゃよ』


 酷い言われようだとは思いますが、私も事前に描いていた魔王像が瓦解させられたばかりなので何とも言えませんでした。

 乾いた笑いをしてしまっているスピカさんに、シリア様が尋ねます。


『してスピカよ。お主の都合のいい日はいつじゃ? 細かな話は奴自身がしたいと言っておったが故、お主の都合に合わせて奴を呼ぶが』


「わ、私に魔王が合わせるのか!? 大丈夫なのか!?」


『うむ。日がな一日、視察と言いながら遊び回っておる阿呆じゃ。日中ならばいくらでも時間を作れようぞ』


「そ、そうなのか……。今週は収穫を終えたばかりだから、時間に余裕はある。だが来週となると、また新しい作物を育てたいから少し厳しくなるな」


『ふむ……。ならば明日は空いておるか?』


「明日か。私は問題無いよ」


『あい分かった。シルヴィよ、加工してやったペンダントで奴に連絡するのじゃ。明日我が家に来いと』


「え、うちで話し合いをするのですか?」


 てっきりこの集落でやるものと思っていたので驚いてしまいました。すると、シリア様が当然のように答えます。


『当り前じゃ。事情も知らないハイエルフと魔王であるアレが相対してみよ。何事かと腰を抜かす者も出るぞ?』


「それはそうですね」


『ならば我が家に来させて、邪魔の入らぬように静かに話を詰めさせた方が良かろう。お主は普段通り診療を下でやれば良いし、何かあれば妾が呼んでやる。妾もスピカと話をする間に入って見てやる。それで構わんな?』


「シリア様がそれでよろしければ、そのままレオノーラに伝えます」


『うむ。では明日の午前に来るようにと伝えよ』


 シリア様に頷き、私はポケットの中から加工していただいたペンダントを取り出します。金の装飾が施されたレオノーラに通じる蒼い魔石に魔力を込め、レオノーラからの魔力の繋がりが伝わるのを待つこと数秒。魔石に彼女の魔力が流れたことを感じると同時に、元気なレオノーラの声が聞こえてきました。

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