14話 ご先祖様は羽を伸ばしたい
ここから数話、ご先祖様を主軸にしたトラブルが続きます!
ご先祖様から見た森の住人達と、その反対側から見る景色はどう映るのか・・・。
ぜひお読みいただき、くすっとして頂ければ幸いです!
今日は3話投稿予定ですので、お楽しみに!
『のう、シルヴィよ……』
ハイエルフの集落の治療をした翌日の早朝。朝食に向かうために着替えようとしていた私へ、珍しく実体化をしているシリア様が話しかけてきました。
「どうされましたか?」
『そこまで大したことではないのじゃが。いや、大したことではあるか。うーむ……』
「シリア様が悩まれているのは珍しく思いますが……。私でお力になれそうでしょうか?」
『こればかりはどうにもならぬとは、理解はしておるんじゃがな? じゃが……』
どうやら、よほどお困りのようです。無理やり自分を納得させようと、腕を組みながら唸り続けているシリア様でしたが、しばらくすると吹っ切れたように声を上げました。
『もう我慢ならぬ! 妾も飯が食べたい! 風呂に入りたい!!』
――お困りの内容は、とても小さい物でした。
「お気持ちは分かりますが、猫の姿で話すと混乱させるからと、姿を消すように決められたのはシリア様ではありませんか」
『それは分かっておる! じゃから今の今まで何も言わず耐えておったのではないか!』
どこか逆上したようなシリア様は、鋭く私を指さしながら続けます。
『それもこれも、お主が悪いのじゃぞシルヴィ!! 美味そうにハイエルフの果実を頬張っては顔を緩ませおって! お主が幸せそうに食べるからと、村の者がどんどん食事のクオリティを上げてきおるし!』
「そ、そんなこと言われましても……」
『それにお主、塔の風呂と比べて不満はないのか!? シャワーだけで満足しておるのか!?』
「お風呂が無かったのは残念でしたが、湯船に浸かるという風習がないようですので仕方ないかと……。それに、お風呂は新しい家に作っていただいていますし、もう少しの辛抱だと思います」
獣人は体の汚れはシャワーで流す。ハイエルフは川で清める。というのが彼らの風習のようで、人間のようなお風呂に浸かるという行為はしないようでした。
ですが、お風呂の楽しみを知ってしまっていた私としても、この問題は何とかしなければと思い頼んでみたところ――。
「ま、魔女様、お湯に入るんですか!?」
「自らの体でダシを!? いや、もしかしたら俺達がダシに!?」
「魔女様のダシ……! あ、いやすんません、ほんとすんません。杖を下ろしていただけませんか……」
三者三様に驚かれてしまったものの、何とか用途を伝えお風呂の建造もお願いすることが出来ました。
私としてはシャワーが浴びられるだけでも十分だとは感じますが、食事やお風呂の楽しみを奪われているシリア様からすると、今の生活はとても不満なようです。
『妾はもう我慢ならぬ! どうにかして風呂と飯を楽しめぬものか!』
「シリア様、何故そこまで食事とお風呂に拘るのですか?」
『何故じゃと!? お主、飯と風呂は生きる上での楽しみというものじゃろう!?』
「確かにそれは思いますが、そこまで固執するようなものでは……」
私の返答を聞いたシリア様は、盛大に溜め息を吐くと首を振りながら熱弁を振るいます。
『分かっておらぬなシルヴィ。よいか? 人の営みの上で重要なもの、それが食事じゃ。食べることにより己が力とし、食べる楽しみを覚えることで幸福を得る。そしてまた美味い食事にありつけるならばと、日々の勤労ですら安く思えるものじゃ。食を中心に人が動いていると言っても過言ではない』
「は、はぁ……」
『そして風呂じゃ。日々の疲れを癒すものにおいて風呂に勝るものはあるか? 妾は無いと断言してもよい。程よい熱さの湯に己を溶かし、至福のひと時を得る。そこに酒などあろうものなら無敵じゃな! もう風呂の魔力から逃れられぬぞ!』
お酒を嗜んだことが無いので、そこは同意するのが難しいです。
ですが、シリア様が今の状況にかなり強い不満を感じられていることは分かりました。
「では、今日は私の体を使われますか? お風呂は無いのでそこは楽しめませんが、食事とシャワーなら楽しめるかと」
『それもいいのじゃが、お主に負担を掛けてまで我を通すというのも気が引けてのぅ……』
いつも自信に溢れ、神様としてかご自身の性格からか分かりませんが上から口調なところがあるシリア様ですが、シリア様なりに私のことを案じてくださっているのです。
私はシリア様に微笑みかけ、両手を広げて受け入れる形を取ります。
「恐らくですが一日くらい大丈夫ですよ。たまにはシリア様がやりたいように、自由に過ごしてください」
『よいのか? 半実体というのは中々に暇じゃぞ?』
「シリア様の一日を逆に体験する、いい機会だと思います。気兼ねなく私の体を使っていただいて構いません」
シリア様は考えこみ、さらに考えこみ、唸るほど深く悩み始め、答えを出すまでに相当時間を要しましたが、観念したような笑みを浮かべながら小さく嘆息しました。
『全く、お主はほんにお人好しじゃな。もう少し自分の体を大事にしたらどうじゃ』
「いつも助けてくださっているシリア様だからですよ。今日は私が、シリア様の力になる番です」
『やれやれ……。ならば、お主に甘えさせてもらうとするかの』
そのまま私に抱き付くように、シリア様は私の中へ入っていきます。入れ替わりで私が半実体で外へ出て、シリア様に向き直りました。
『それではシリア様、今日一日楽しんでください』
「うむ、恩に着るぞシルヴィ。今日はめいっぱい羽を伸ばさせてもらうかのう!」
シリア様は慣れた手つきで私の魔女服を身に纏うと、半実体時のいつもの髪型に整え始めました。シリア様と入れ替わると両目が深紅色に染まるのですが、この村でも私は常に髪で片目を隠していたので違和感が出てしまっています。
『し、シリア様! それだと私だと思われなくなってしまいます!』
「む? おぉ、そうか。お主は前髪で目を隠すのじゃったな、少々鬱陶しいが致し方あるまい。それに、目の色も変えておかんとな」
不満げながらも、私とお揃いの髪型に揃えてくださるシリア様。後ろもハーフアップにしてくださる辺り、私のことを常々よく見ていらっしゃるのだと嬉しくなります。
「こんなもんかの?」
『はい、ばっちりですシリア様』
「うむ。では参るぞ!」
ご機嫌なシリア様の後に続いて、ふわふわと私も後に続きます。
鼻歌まで歌い始めてしまうあたり、とても機嫌がいいのでしょう。これからも定期的に、シリア様に体をお貸しした方がいいのかもしれません。
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