35話 魔女様は森に帰る
彼はそれをレオノーラに手渡し、一礼して再び姿を消します。
受け取ったレオノーラは、早速魔石に力を込めて魔法を起動させ始め、私達の足元に魔石と同じ色の大型の魔法陣が出現しました。
「なんだか慌ただしいお別れになりましたが、今度お越しになる時はゆっくり遊びにいらしてくださいませ!」
『すまんのレオノーラ。恩に着る』
「うふふ! 貸しひとつ、ですわ!」
レオノーラの言葉に、シリア様が心底嫌そうな顔を浮かべました。
彼女は続けて、私へ声を掛けてきます。
「シルヴィ。この三日間、貴女と過ごせてとても楽しかったですわ。今度は私が貴女の家へ遊びに行きますので、ハイエルフの件共々よろしくお願いいたしますわね?」
「はい。その時は私の手料理を振舞いますね」
「まぁ! それは何としてでも口にしたいものですわ!」
近い未来に二人で笑いあうと、レオノーラは左手で自分のポケットをまさぐり、中から小さなサファイアのような魔石を取り出すと、それを私の手に握らせました。
「それは私と連絡が出来る魔石ですわ。原石なのでそのままでは使いづらいでしょうし、帰ったらシリアに加工してもらってくださいまし」
「ありがとうございます。では、森が落ち着いたら連絡しますね」
「えぇ! 楽しみに待ってますわ! ご家族の方々も、今度は丁重にもてなさせてくださいませ」
「あたし、今度は船じゃなくて馬で来たい……」
「えぇ~? 私は船が良いわ! レナちゃんやエルフォニアちゃんの介護楽しかったし!」
「絶対嫌!! エルフォニアだって嫌がってるわ!」
「あら、私は次は酔い止めを作っていくから問題ないわ」
「あんたホントにそう言う所よ!!」
「ふふ。どういう所か分からないわね」
「はぁー!? ぶっ飛ばすわよ!?」
また口喧嘩を始めてしまったお二人に苦笑していると、足元の魔法陣がさらに輝きを増し始めました。どうやら、間もなく本格的に転移が行われるようです。
私はエミリを前で抱きしめ、肩にメイナードがちゃんといることを確認し直し、レオノーラに改めてお礼とお別れを告げます。
「お世話になりました、レオノーラ。また遊びましょう」
「魔王様、ふういん外してくれてありがとうございました!」
「うふふ! あの程度造作もありませんわ! シルヴィ、シリア、エミリ、メイナード。それからレナとフローリア様、エルフォニアも。また会えるのを楽しみにしてますわね!」
『我もまた戦えるのを楽しみにしております。またお手合わせください』
「えぇ! いつでも受けて立ちますわ! ……では、転移!!」
魔法が発動し、レオノーラの笑顔や周囲の景色がぐにゃりと歪んだかと思うと、私達は自宅の前に転移していました。
初めての転移魔法に少し感動を覚えているのも束の間、少し遠くの方から獣人族の方の物と思われる怒声が聞こえてきました。
『やはりあちこちで戦闘になっておる! レナとフローリアは兎人族の酒場の方へ向かえ! エルフォニアはハイエルフの方へ! シルヴィ、お主は妾に体を貸すのじゃ!』
「はい!」
「おっけー、行くわよフローリア!」
「待ってレナちゃーん!」
「それじゃシルヴィ、また後で」
それぞれが指示された方へと移動を開始し、私もシリア様へ体を明け渡します。
私の体に入ったシリア様は、即座に私の魔力の大半を凝縮させ始め、天高く手を突き出して一気に放出させました。それは間近にいる私やエミリをも吹き飛ばしそうになる衝撃波でしたが、咄嗟に元のサイズに戻ったメイナードが自分の翼で衝撃から身を護ってくれました。
シリア様の衝撃波が辺り一帯に広がっていくと同時に、木々のざわめきに混じって聞こえていた怒声や何かの咆哮が一瞬で静まり返ります。
「これで良し。メイナード、すまぬが妾達を乗せて獣人共の村まで飛べぬか?」
『構いません。お乗りください』
私をエミリが抱き、エミリをシリア様が抱く形でメイナードの背に乗り込みます。私達を乗せたメイナードは、気持ち急ぎめではあるものの振り落とされないようにと優しく飛んでくれました。
彼の背中で風を浴びながら、私はただ願います。
皆さん、どうか無事でいてください…………!!




