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31話 魔女様は再び騙される

 どれくらい泣き続けていたのでしょうか。

 レオノーラが消えてしまった跡で泣いている私へ、目を覚ましたシリア様が不機嫌そうに声を掛けてきました。


『なんじゃシルヴィ。そんな大声で泣きおって』


「それは、シリア様がレオノーラを殺してしまったから……!!」


 私の返答に、シリア様はやれやれと首を振りながら言葉を返します。


『阿呆、アレは殺しても死なんよ。曲がりなりにも魔王じゃぞ?』


「ですが、シリア様の攻撃で!」


『落ち着かんか。確かにアラドヴァルに触れた者は例外なく身を滅ぼされる。じゃが、あくまでも滅ぶのは肉体のみ。魂までは滅ばぬ』


「意味が分かりません! 死ぬことと何が違うと言うのですか!?」


「そうですわ! 殺された身にもなってくださいまし!!」


『じゃからなシルヴィ。奴は不滅の魂を持つが故に、殺せたとしても体の替えさえあればすぐに蘇るのじゃよ。ほれ、例えるならあれじゃ。お主が作っていたポーションの器が割れた際に、他の容器に入れ替えるじゃろ? それと同じじゃよ』


「命とポーションは同列ではありません! そんな非現実的なことが起きる訳無いです!」


「全くです! (わたくし)の命を飲み物と一緒にしないでくださいまし!!」


「レオノーラだってこう言って――」


 そこで私は気が付きました。なぜ、レオノーラの声が一緒になって抗議してるのですか?


 声がした後ろを振り向くと、そこには。


 ぷくーっと頬を膨らませて不満そうにしている、死んだはずのレオノーラの姿がありました。

 その体は先ほどまでの私服とは違い、魔王らしい品格のある服装に変わってはいましたが、あの槍で貫かれた体とは思えないくらい綺麗で元気な物でした。


「え……? あれ、レオノーラ……なんで…………?」


「どうしまして? ……あぁ、私が生きていることが不思議ですの?」


 コクコクと首を縦に振ると、レオノーラはクスクスと笑いながら答えました。


「私、ちゃんと言いましてよ? 不滅の魂を持つ魔王だと。魂は滅ばないと」


『妾が言った通りじゃろ? こ奴は一度殺した程度では死なぬ。本気で殺すならば、アラドヴァルが十本あっても足りるか怪しいところじゃな』


「うっふふふ! 流石に十本も撃たれたら、私と言えども死んでしまいますわね。でもシリアの言う通り、一度や二度殺された程度では死にませんので、安心してくださいまし」


 呆れるように補足するシリア様に、自分は何ともないと述べるレオノーラ。

 と、言うことは。私は無意味に泣いてしまっただけ、と言うことでしょうか。


「ですが、シルヴィが私を想ってあんなにも涙を零してくれたのは嬉しかったですわ……! 体を張ったかいがありましたわね!」


『死ぬことを体を張った一芸とか笑えぬ冗談は言うでない、このたわけ。……む、どうしたのじゃシルヴィ』


「きっと私が生きててくれてよかったと、また泣きそうなのですわ! もうシルヴィったら!」


 私に抱き付いて来ようとしてきたレオノーラを避け、シリア様を抱いてすっと立ち上がります。


「あ、あら? シルヴィ……?」


「三日間、お世話になりました。シリア様達も来てくださったので、私はこれで帰ります」


「わぁああああ!? 待ってくださいませ!! ちょっとした出来心だったんですの! 申し訳ございませんわ! ですから、まだ帰らないでくださいませー!!」





 レオノーラに謝り倒され、何故かレオノーラに同情したレナさん達にも引き留められてしまった私は、今すぐにでも帰りたい気持ちを抑えて食堂へと戻ります。


 給仕の方が並べてくださった食事を食べていると、レオノーラが申し訳なさそうに私へ謝ってきました。


「本当に申し訳ありませんでしたわ。でもシルヴィ、私もシリアも嘘は言ってませんのよ……?」


「そうですね」


「うぅ、シリアぁ……。シルヴィが冷たいですわ……」


『こればっかりはお主が悪いとしか言えぬ。事情を知らぬ者から見れば、目の前で殺されたと思われても仕方あるまいて』


 シリア様の仰る通りです。初めから死なないと教えてくれていれば、あんな思いもしなくて済みましたのに。

 それに二人とも当然のように言っていましたが、不滅の魂というものも理解が出来ませんし、有事の時用に体も複製してあるだなんて考えもできません。


 瞳を潤ませて赦しを請うレオノーラを、話半分で聞き流しながら食事の手を進めていると、流石に見ていられなくなったらしいレナさんが私に声を掛けてきました。


「ねぇシルヴィ。確かに騙されてショックだったのは分かるけど、そろそろ許してあげたら? 気まずいまま帰るの嫌でしょ?」


 レナさんの言葉は確かに一理あります。

 私だって、初めてできた魔族の友達と気まずい関係のまま帰りたくはありませんし、レオノーラとは今後もこまめに遊んだりはしたいとすら思っています。

 ちらりと彼女を盗み見ると、泣き出しそうな顔で私をじっと見つめたままでした。


 ……これ以上、私が意地を張るのも良くないかもしれませんね。


 小さく息を吐き、レオノーラに声を掛けます。


「レオノーラ。今回の件はもう気にしないことにしますが、今後はこういう大事な話は隠さずに教えてもらえますか?」


「勿論ですわ! 今後はシルヴィには隠し事はしません。魔王として誓っても構いませんわ!」


 途端に顔を輝かせ、控えめな胸に手を当てて言うレオノーラに、私は苦笑してしまいました。それにつられてレオノーラも笑い出し、二人で笑いあっているところへ、先日私を攫った魔族の方――クローダスさんがレオノーラの背後に突然姿を見せました。

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