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29話 ご先祖様は奥の手を出す

 玉座の間へようやく辿り着くと、扉の前でも体に重く響いてくる轟音に身が竦みそうになりました。

 感じたことの無いような魔力の圧に、レナさんとエルフォニアさんまでもが若干顔色を悪くさせています。


 しかし、神様であるフローリア様にとっては何も怯えることは無いらしく。


「あら? 入らないなら先に入っちゃうわよ?」


「うえっ!? 待ってフローリア! あたしまだ心の準備が……」


「えぇ~? 準備も何も部屋に入るだけじゃない。変なレナちゃん!」


 私達の心情など知る由もない女神様は、大扉をゆっくりと引き――。


 扉の中から飛び出してきた黒焔に彼女の上半身が焼かれました。


「熱っ!? 熱ぅぅぅぅぅぅぅい!!!」


「わあぁあぁあぁあぁ!? フローリアが燃えてるっ!!」


『大丈夫ですか、フローリア様!?』


 燃え盛る黒焔にわたわたと暴れていたフローリア様でしたが、両手を強く打つと同時に、彼女を包んでいたそれが一瞬で消え去りました。

 しかし、燃えていたフローリア様も流石に無傷では無かったらしく、髪の所々が縮れてしまっていたり、お気に入りだった異世界の服が一部焦げてしまっています。


 普段はご機嫌なフローリア様と共に跳ねている、稲穂のような癖っ毛も縮れてへにゃりと垂れてしまっていて、泣き出しそうな顔をしているフローリア様の心境とシンクロしているようです。


「ふえぇぇぇぇん、この服お気に入りだったのにぃ……」


「むしろアレを受けてほぼ無傷ってやばいでしょ――ってうわぁぁぁ!?」


 呆れ顔のレナさんの元へも、今度は業火が襲い掛かりました。間一髪で避けた彼女は、慌ててチョーカーを外して魔女としての力を振るえるように準備します。それに続くようにエルフォニアさんもチョーカーを外した直後、再び私達の元へと黒焔が降り注いできました。


「危なっ! エミリちょっとごめんね!」


「わわわっ!!」


 エミリを抱きかかえて横っ飛びに避けるレナさんと、影になって躱すエルフォニアさんは被害はありませんでしたが、服が一部焦げたことを嘆き続けていたフローリア様は再び直撃し。


「やぁぁぁぁぁぁぁん!! 熱い! 熱いいいいい!!」


 騒ぎながら火を消すと、もう当たるまいと扉の影に身を隠しました。泣きべそをかきながら、少し火傷したらしい手の甲を舐める姿は少しだけ可愛いと感じてしまいます。


 意識が逸れそうになったのを無理やり修正し、シリア様達のやり取りへ向け直します。

 二人が繰り出す魔法のせいで、魔王として君臨するために威厳を出すこの部屋は悲惨な状態になっていました。きめ細やかでふわふわだった赤い絨毯は全て燃やし尽くされ、玉座は何かに抉られたような跡を残して半壊し、部屋を支えていた支柱は何本か砕かれてしまっています。


 そんな状況下でも、空中にいるシリア様は攻撃の手を緩めることはせず、業火が防がれた直後にレオノーラを凍てつかせようと彼女を凍り付かせ、それも破られると今度はフローリア様も顔負けな雷撃の嵐を繰り出します。


 レオノーラはそれらを闇魔法の力で相殺し、怒気を孕んだ声で吠えました。


「いい加減にしてくださいませ!! お菓子の名前だと何回言えば分かりますの!?」


「黙らんか! 貴様の悪戯には幾度となくやられていたが、今回ばかりは許さぬ! その身をもって贖え!!」


 シリア様は正体を教えてもらえていたようですが、それとは関係なくレオノーラにお怒りのようでした。手元に出現させた業火をレオノーラに目掛けて連続で放ったシリア様は、握っていた杖を体の前に突き出して詠唱を始めます。


「我が名はシリア=グランディア! グランディア王家の始祖にして神に至りし【魔の女神】也! 我が魔力を喰らい、我が下へ現れよ! 万物を無へと帰す滅びの槍――滅槍アラドヴァル!!」


 詠唱が終わると同時に、シリア様を中心に黒い嵐のような魔力の渦が発生しました。それは徐々に収縮していき、宙に浮いていた杖が形を変えて禍々しい槍へと変貌します。まるで血のように赤黒い槍は、激しく火花を散らせながらシリア様の手中に収まると、シリア様の体を黒い炎で包みます。


 それはまるで、呪いや滅びを体現したかのような、体の奥底から恐怖を覚える炎です。


 あまりにも禍々しすぎるそれから私達は視線を外せずにいると、レオノーラが忌々し気に吐き捨てました。


「……二千年経った今でも、見たくもない槍ですわね」


「その身を再び貫かれる感覚に恐れをなしたか、レオノーラ」


「はっ、笑わせないでくださいませ。あの時は忌々しい勇者がいましたが、今は邪魔する者がおりませんの。如何に滅槍であろうとも、(わたくし)を貫くことは二度とありませんわ!!」


「そうか。ならば、二度目の滅びの味を受け取るがよいぞ!!」


 大きく振りかぶりレオノーラ目掛けて放たれた槍は、目にもとまらぬ速さで彼女の元へと飛び。


「それをむざむざと受ける私ではありませんことよ!!」


 同時に、彼女が咄嗟に作り出した魔槍と轟音を立てながら衝突しました。

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