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27話 ご先祖様も罠にかかる

 食堂へ到着した私達は、これまでの数日間の話をしながらレオノーラを待つことにしました。

 レナさんやエミリ、エルフォニアさんが船旅で楽しむどころでは無かったこと。船の中での食事が固めのパンに味の濃いジャーキーしかなく、お世辞にも美味しいとは言えなかったことなどなど。

 エミリはそのジャーキーが気に入ったようでしたが、せっかく食べても激しい船酔いで戻してしまっていたらしく、落ち着いて食べたかったと悲しそうな顔で語っていました。


 一方で、私の体験してきた話をすると。


『アラクネの紡いだハンカチじゃと!? 妾が生きていた頃は最高級品と言われておったものが、こうも簡単に手に入るようになったとは……。時代は変わるものじゃなぁ』


「ねぇシルヴィ! そのキャスパリーグの子どもの写真撮ってないの!?」


「私が撮ったものではありませんが、レオノーラに隠し撮りされたものなら……。こちらです」


「どれどれ……。やぁぁぁぁぁぁぁん!! 猫ちゃん小っちゃ!! やばっ! いいなぁー!!」


「うっふふ! シルヴィちゃん幸せそうな顔してて可愛いわね~!」


「わぁ~! 小っちゃい猫さんいっぱい! 可愛い!」


 ウィズナビに表示させたその写真を見た皆さんがきゃあきゃあとはしゃぎ始め、あまり表情を変えないエルフォニアさんでさえも顔が緩んでいるのが分かります。

 もっと見たいとレナさんにウィズナビを取られてしまったので、私はキャスパリーグの子どもと遊んでいた際にレオノーラと話していた試みを実行してみることにしました。


「シリア様、少しこちらへ来ていただけないでしょうか?」


『なんじゃ?』


 テーブルの上をとことこと歩いて来てくださるシリア様に、「失礼します」と小さく断りを入れて抱き上げます。


『む? お主、何をするつもりじゃ』


 きょとんとしているシリア様に構わず、その柔らかなお腹を私の顔の上に乗せて深呼吸をしてみます。すると、やはりキャスパリーグの子達でやった時のような、妙な幸福感が私を襲いました。

 敬愛するシリア様にこんなことをするなんて……という背徳感を感じながらも、抗えない魅力に取り付かれていると、唐突に頭上にある兎人族の耳に鋭い痛みが走りました。表と裏の両面から刺さる痛みは、たぶん噛まれたのだと思います。


「痛っ!!」


『このたわけ!! いきなり抱き上げて何をするかと思えば、妾をそこらの猫と同じように扱いおって!! お主もあの阿呆(レオノーラ)に毒されおったか!!』


「ご、ごめんなさ――ふぐっ」


 謝ろうとした口を、シリア様の可愛らしい前足で頬を叩かれて塞がれました。その後も両手で何度も頬を叩かれ、かなりお怒りであると悟った私は、せめてもの抗議として二人で話していた言い訳を述べてみることにします。


「で、ですがシリア様! シリア様だって私に悪戯してきたではありませんか! 少しくらいやり返しても――」


『その件は既にお互い様という形で話が付いておるじゃろうが! 何を見苦しい言い訳をしておるか! そこに直れ!!』


 そう言えばそうでした。これではただ、私がシリア様に悪戯をして怒らせただけです。

 机の上をたしたしと叩いてお怒りになるシリア様に、椅子の上で正座した状態でお説教を受けていること数分。ようやくお茶とお菓子を持った給仕の方を引きつれ、レオノーラが食堂へ入ってきました。


「お待たせいたしましたわ……って、何をやってますの?」


「シリア様に“猫吸い”をしたら叱られてしまいまして……」


「まぁ! 本当にやったんですの!? 貴女も中々に怖いもの知らずですのね!」


「えっ!? だ、だって、悪戯された分の仕返しだってレオノーラが……」


「うっふふふ! 私は“試してみればいい”と言っただけですのよ? 仕返しにとは一言も言ってませんわ」


 や、やられました……!!

 怒られながらも言い訳をしようとした私に、さらにシリア様の視線が突き刺さります。

 レオノーラは再び始まってしまったお説教に笑いながら席に着き、給仕の方に人数分のお茶とお菓子の用意をさせ終わると、シリア様と私の間に入ってくれました。


「もう、いつまでも怒っているとせっかくのお茶が冷めますわ。そこまでにしてくださいまし」


『元はと言えば貴様じゃろうが! 全く……』


 ようやく解放され、椅子の縁に刺さっていた脛を擦りながら座り直します。テーブルの上に並べられたお菓子を見ると、私が選んだクッキーや一口サイズのケーキなどが綺麗に並べられていました。


 それを見たエミリが近くにあったクッキーを手に取り、私に尋ねてきました。


「わぁ! 可愛い~! お姉ちゃん、この子がキャスパリーグ?」


「それはネメアライオンですね。でもエミリ、いただきますの前に触ったらダメですよ?」


「はーいっ」


 素直に返事をするエミリを微笑ましく見ていたレオノーラが、「では」と続けました。


「冷めない内に召しあがってくださいませ! 味は保証いたしますわ!」


「「「いただきま~す!」」」


 レナさんやフローリア様を始め、元気な挨拶に続いてクッキーやケーキを口にしては、お土産の美味しさに顔を綻ばせています。ここまで美味しそうにしていただけると悩んだ甲斐がありましたね、と私もお菓子を手にしようとした時。


 お皿の上に、ちょこんと黒丸のお菓子が乗っているのを見つけました。

 まさかこれ、“イエティのはなくそ”では……!?


 ハッとしてシリア様を見ると、既にそれを食べてしまっていました。

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