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23話 魔王様は遊びたい

『主よ、我もいい加減慣れては来たが……。何故事前に言わない』


「すみません……。そう言えば、契約している魔獣の種類を教えるのを忘れていました」


 メイナードに半目で呆れられながら、私は名前しか言ってなかったことを反省します。やはり魔王と言えども、カースド・イーグルであるメイナードは普通の魔獣ではないと認識しているようです。


 未だに一人でぶつぶつと呟いては考えこんでいるレオノーラに、どう声を掛けるべきかと悩んでいると、彼女の中で何かが腑に落ちたらしく、頭を押さえながら深い溜め息を吐いていました。


「どうりで魔獣が姿を隠す訳ですわ……。よくよく考えなくても、化物染みたシルヴィの魔力とその使い魔の反応を感知されれば、命の危険を感じてもおかしくありませんわね……」


 化物とは酷い言われようです。


「レオノーラ、私は化物ではありません。魔力だって普通です」


「貴女、どの口がそんなことを言いますの? 普通の魔女がカースド・イーグルなんて従えられる訳が無いでしょう」


『そこは我も同意する。この場に魔獣が我以外いないのもそうだが、あの森で生息している魔獣が鳴りを潜めているのは、桁違いの魔力を保有する主を恐れているからだ。主はもう少し、自分が異常だと言うことを自覚するべきだ』


 メイナードまでそんなことを言うのですか……。少しショックです。

 やはり軽率に【制約】の力に手を伸ばすべきではありませんでした。といじけていると、私を他所に二人の会話が進んでいきます。


「でも、未だに信じられませんわ……。あのカースド・イーグルが人間の配下になるなんてこと、あり得るんですのね」


『我も長らく天空最強を誇っておりましたが、挑む者もおらず暇を持て余していたところへ、主の呼びかけが聞こえたので応じてみたのです。よもや、ここまでとは思いもしませんでしたが』


「ふふっ! 例え主従関係があったとしても、自分の誇りは崩しませんのね。流石は天空の覇者ですわ」


『恐縮です』


「うふふ……。(わたくし)、貴方と同じく自分より強い存在というものに強い興味がありますの。ぜひお手合わせ願えませんこと?」


『くっくっく……御戯れを。ですが、我も魔を統べる王の力に興味がないと言えば嘘になります。我などでお相手が務まるかは保証できませんが、それでもよろしければ』


「まぁ! 謙遜だなんて利発な魔獣ですわ! 名実共に恐れられるカースド・イーグルの実力……ぜひ見せてくださいませ!!」


 レオノーラ達が私から離れていき、足音もかなり遠くなった頃。

 突如、いじけている私の背中にとんでもない爆風が襲い掛かってきました。


「わひゃああああああ!?」


 吹き飛ばされた体を起こし、土埃を払いながら立ち上がると。

 私が技練祭で体験したような戦いとはまるで比べ物にならないような、目で追えない戦闘が始まっていました。


 淡く広がるメイナードの燐光で中の様子が見辛いのもありますが、時折お互いが衝突する際に生じる衝撃波と、レオノーラが無茶苦茶に放つ超火力の闇魔法によって、地面が大きく抉られながら土煙が立ち昇っているせいで余計に視認性が悪くなっています。

 そんな状況でも、一瞬だけその中から見え隠れするメイナードの翼や、跳ね返されたと思われるレオノーラの闇魔法が明後日の方向へ飛んでいくことから、私ではとても追いつけない戦闘が繰り広げられているのでしょう。


「これが、最強同士の戦い……」


 天空最強と、魔族最強。どちらが勝つのかすら予測ができないその戦闘を、私は離れたところから見守ることしかできません。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 レオノーラが放つ闇魔法の槍が、宙から強襲を仕掛けようとしていたメイナードの顔横数センチを掠める。それに続くように、その目で数多の人間を屠って来たであろう、鋭い眼光を伴った彼女がメイナードに迫り、抉るように強烈な掌底を繰り出した。


 とても躱せない。瞬時に判断したメイナードは両翼で体を覆い、自身の体を硬化させる。

 だが、魔王が繰り出すそれは容易く防げるはずもなく。


『ぐおっ――!!』


 まるで防御など意味を持たせないかのような一撃に、メイナードが苦悶の呻きを上げた。軋む両翼を羽ばたかせ、宙で体勢を立て直し、再度攻撃の機会を伺う。

 先程からメイナードは幾度も、自身より遥かに小柄な体躯を狂爪で刈り取らんと仕掛けてはいるものの、子どものじゃれつきを楽しむ親のように彼女に受け流され、返しに必殺の一撃を叩き込まれそうになっていた。


(流石は魔王。これこそが我が求めていた、血が滾る戦いだ――!)


 劣勢ながらも、何百年ぶりかとなる全力の出せる戦闘に、メイナードの顔を悦楽が彩る。それは相対するレオノーラも同じだった。


「うっふふふ! こんなに派手に暴れられる相手なんて、いつぶりか分かりませんわ!!」


『我もこのような強者と相まみえるのは久しいです。昂りが抑えられません』


「抑える必要なんてありまして? それとも、私は全力を出すほどの相手ではないとでも仰りたいんですの?」


『くっくっく。まさか、とんでもございません』


 口調こそ楽しげだが、双方が繰り出す攻撃はいずれも致命傷になり得る威力を誇っている。互いに相手の命を奪わんと狙いながらも、その殺意すらも楽しめる彼女達にとっては、これ以上ないスリルを伴った遊びでしかない。


 レオノーラの挑発を受けたメイナードは、今度こそはと意識を集中させる。

 通常であれば魔法の行使の間に僅かな隙が生まれるものだが、レオノーラにはそれが存在しない。まるで主のようだな、と内心で呆れながらも彼は小さな隙を探す。


 肉体による連撃、死角を襲う桁違いの威力の闇魔法。それらを捌き、自身も牽制から繋げられそうなタイミングを狙って猛攻を仕掛け――。遂にレオノーラが足をもつれさせた。


「あらっ!?」


 ここしかない。メイナードは凝縮した魔力を双翼に込め、決着を着けんと飛び込む。その翼で二つの渦を巻き起こし、それらを盾にして自身の嘴で貫く……。体勢が崩れた今ならば、後方に跳ぶことはできないと踏んだ彼の判断は正しかった。


 だが、それは一般的な常識が通じる相手の場合のみ。


「うふふっ! 掛かりましたわね!!」


『ッ!?』


 罠か、と察した時には既に遅かった。

 動きを縛るための二対の渦は彼女の振るわれた左手によって掻き消され、急停止をかけた彼の眼前にレオノーラが飛ぶ。そのままメイナードの嘴を両手で掴んだレオノーラは、さながら一本背負いのように彼の巨体を地面に叩きつけた。


 そして、叩きつけられたメイナードの両翼を、闇魔法で作り出した魔槍で縫い付ける。


『がっ――!!』


「チェックメイト、ですわ」


 身動きが取れなくなった彼の腹の上に、音もなくレオノーラが着地し、満足げな笑みを浮かべながらそう言い放つ。


 長い月日を生きた天空の覇者が、初めて敗北した瞬間だった。

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