12話 魔女様は頼られる
今回は新しい森の住人が登場します。
その都合で2話分割して投稿しますので、夜もお楽しみいただければと思います!
新しい家の場所は、今いる村と川があった場所の中間に位置する場所に決まりました。
シリア様曰く、『遠すぎても村人が来る前に力尽きる恐れもある。じゃが、近すぎると気楽に使われる』という村人に配慮したものと、『川が近ければ息抜きも十分できるじゃろ』という娯楽の意味も込められた結果だそうです。
家は先ほどの宴の際に、筋肉自慢をしていた方々で建てて頂けるとのお話になったのですが。
「魔女様にふさわしい、立派な家を建てて見せますよ!!」
「ちょっとした庭なんかもご入用でしょう! 任せてくだせぇ!!」
と意気込んでいたのは頼もしいのですが、一々筋肉を見せびらかせていたので非常に反応に困るものでした。
これにはシリア様がまた笑いのツボに入ってしまい、挙句私の体を強引に奪ったかと思うと。
「期待していますよ。むんっ」
なんて同じポーズをしてしまったから異様に受けてしまい、凄く慕われてしまいました。戻った私が恥ずかしさで真っ赤になり顔を隠していたのに、隣でシリア様が大笑いしながらそれを見ていたのは許せませんでした。
そして家の建築が始まってから一週間ほど。
家は順調に仕上がっているようで、この前見に行った時は家が建つ予定地は広々と空間が作られていて、家の土台となる基礎工事が行われていました。
てっきり木材を組み上げるだけかと思っていましたが、この前の大熊のような大型の魔物による地ならしで家が崩された経験があったことから、大地と家を強く固定させることが重要だと分かったのだそうです。
見るからに重労働そうでしたが、私の姿を見ては筋肉アピールをしていたので全然そんなことはないのでしょう。ですが、あまりシリア様を笑わせないで頂きたいです。
私は私で、村の中で少しずつ活動を始めていました。
まずは狩猟民族である獣人の方々の治療。これはほぼ毎日で、魔物を相手に近接戦闘を繰り広げていることから、怪我無く帰ってくることがあまりないようでした。
お借りしている客人用の家の一階部分を治療用として開放し、狩り帰りの村人の方々と世間話をしながら怪我を治療している内に、治療のお返しにと果物や狩りで得た一部を分けていただくことが多くなりました。
私はお礼なんて建てて頂いている家で十分だと思っていましたが、私が来てからと言うもの村人の負傷率が大幅に下がり、村に活気が出ているのだそうです。
村の方々としては何かお礼をせねばと考えた結果、人のような金銭のやり取りをしても当分使い道が無いと言うことから、食料や生活必需品で治療のお礼をと言うことだったので、私は断らず受け取ることにしていました。
そして今日も、狩りを終えた村の方々が戻ってきました。
「魔女様ー! 見てください、今日はこんなに大物が獲れましたよ!」
「これは……何とも大きなイノシシですね」
「魔女様に毎日怪我を負った仲間を治していただけるんで、万全の状態で毎日狩りができるのが嬉しいんすよ!」
「そうでしたか。ですが、あまり無理をしないでくださいね。いくら治癒ができるとは言え、死なれてしまってはどうしようもありませんので」
「ははは! 大丈夫ですって、死なないよう気を付けて狩りしてるんで!」
豪快に笑う男性。この前熊に襲われて死にかけていたではありませんか、と喉元まで言葉が出そうでしたが、口をつぐんで苦笑いを返すことにします。
「では、今日の負傷者の方がいらっしゃいましたらこちらへ」
「あぁ、それなんですが驚いてください魔女様! 今日は誰も怪我してないんです!」
「珍しいこともあるのですね。いえ、怪我をしないことが一番なのですが……」
私が驚いていると、「いやぁー、俺達の他に彼女達が手伝ってくれたもんで!」と村の方々が横に掃け、その後ろに誰かがいることに気づきました。
その姿は本で読んだことがあるものでした。森に溶け込むような緑を基調とした服装。そして笹の葉のように長く尖った耳に、綺麗なブロンドの長髪。ですが、そのブロンドの髪は毛先に向かうにつれて、桃色がかった色味を帯びていました。
「初めまして、魔女殿。私はこの村から少し離れた先に集落を築いているハイエルフの長、スピカだ」
一歩前へ出てそう挨拶をするエルフ――いえ、ハイエルフの女性に、私も立ち上がり挨拶を返します。
「ご丁寧にありがとうございます。私はこの村でお世話になっている魔女、シルヴィと言います」
「あぁ、彼らから話は聞いている。なんでも、どんなに深い傷でも治してしまう神様のような魔女様だと」
思わぬ評判の高さにちらりと村の方々へ視線を送ると、照れくさそうに頭を掻きながら小さく会釈されました。
隣にふわりと姿を出したシリア様が、興味深そうにハイエルフの方々を見ながら私に話しかけます。
『ほう、ハイエルフの一族が近くに住んでおったか。そしてわざわざ村の者を通じて接触してきたということは、何か訳アリじゃな』
私も同意見です。私のことをどうやら良く知っているようですし、何か目的があってここへ来たと判断するのが妥当でしょう。
どのような目的かは分かりませんが、ひとまず話を伺ってみるべきだと思います。
「私には、神様のような万能な力はありませんよ。それで、ハイエルフの方々はなぜこの村へ?」
「我々はこの村と定期的に取引をしていてな。主に野菜や果物を始めとした食料を提供する代わりに、家の建築や生活物資の提供を頼んでいるのだ」
なるほど。ではこの前頂いた果物は、ハイエルフの方々が作られたものだったのですね。
「この前、村の方々から頂いた桃を食べましたが、とてもみずみずしくて美味しかったです」
「そうだろう!? あれは我らが丹念に育て上げた至高の一品でな!? 味には自信があるのだ!」
な、なんだか妙にテンションが高くなってしまったような……。というよりも、ちょっと近いです。果実の香りがふわりと香ってくるのは心地良いのですが、顔が近すぎます。
「はっ、すまない。つい熱が入ってしまった……。それでこの村とも交流があるのだが、その際に貴女の話を耳にして、こうして会わせていただいたという訳だ」
「そ、そうでしたか。私に会いに来たということは、負傷された方絡みのお話と言うことでしょうか?」
「あぁ。この前貴女が倒してくれた、月喰らいの大熊にやられた仲間が我らの集落にもいてな。もし可能であれば、仲間を助けてほしいのだ」
この通りだ、と跪くスピカさん。それに倣い、後ろに控えていた他のハイエルフの方も一斉に跪き始めます。
「できる限りの謝礼は用意する。もちろん、気に入ったのであれば自慢の果実を好きなだけ持って行ってくれても構わない。どうか、頼めないだろうか」
「お願いします魔女様! 彼女達、ちょっと気が強いけど悪い奴らじゃないんすよ!」
私としては、求められているのであれば答えてあげたいところです。それに、仲間を助けたいという必死な思いも伝わるので、村の方々が言う通り悪い人達ではないのでしょう。
『お主の好きにせい。恩を売って交流を広げるも良し、見捨てても良し。疲れるのはお主じゃから己で判断するがよかろ』
そこまで言われて見捨てる、という選択はできないと思いますが。ですが、最初から断る選択が無かったのも事実なので、特に何も言いません。
「分かりました。それでは、あなた方の集落まで案内していただけますか? 私で良ければ力にならせていただきます」
「ほ、本当か!? すまない、感謝するぞ魔女殿……!!」
ぱぁっと表情を輝かせ、頭を再度下げながら感謝の意を述べるスピカさん。私は頭を上げてもらうよう伝え、早速彼女達の住む集落へと向かうことにしました。




