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19話 魔女様は攫われる 【レナ視点】

 エミリが言うには、シルヴィを見つけた時には既に見たことのない男の人と揉めていたらしくて、急に飛んできた剣にびっくりして縮こまっていたところへ、シルヴィの悲鳴とその男の怒声が聞こえてきて、その直後に二人ともいなくなったみたい。


「ねぇエミリ。その男の人って角とかあった? 肌の色が変だったとか、なんか他に特徴は無い?」


「えっとね、頭にくるくるしてる角はあったよ。あと、ちょっと黒い体だったと思う……」


「それを見たのってちょっと前? それとも結構経ってる?」


「ちょっと前。お姉ちゃんが連れて行かれちゃって、でも剣が怖くて立てなくて、追いかけられなくて……うえぇぇぇぇん……!」


「よしよし。もう大丈夫だからね~エミリちゃん。怖かったよねぇ」


 ちょっと前であれば、シリアなら魔力の痕跡とか言うのを追えるかもしれない。

 あたしはエミリをフローリアに任せて、ウィズナビでエルフォニアを呼び出した。


「エルフォニア? こっちでエミリを見つけたわ! シルヴィのことも情報掴んだからこっちに来て!」


『今行くわ』


 短く返事を返したエルフォニアが、通話を切ってから数秒後にあたしの影から姿を現した。今言うことじゃないけど、この移動方法、改めてやられるとちょっと気分が悪いわね……。


『エルフォニアよ、せめて転移するならばもう少し説明をせよ。いきなり過ぎて心臓に悪い』


「ごめんなさいシリア様。でも、そう言ってられる状況じゃ無さそうだったのよ」


『まぁよい……。してレナよ、説明を頼む。そこで泣きついておるエミリも含め、どうなっておるのじゃ』


 シリアに促され、あたしはエミリから聞いた話をありのままで伝えた。

 一通り話し終えると、シリアは怪訝そうな表情を浮かべて周囲を見渡し始めた。


『ふむ……。僅かではあるが、魔族の残り香がある。シルヴィの魔力が辿れぬということは、またチョーカーを使っておったな、あ奴め……』


「まぁまぁ、シルヴィちゃんだってあれだけ怒ってたら追いかけられたくないって気持ちにもなるんじゃないかしら。大人びてるように見えて、内面はまだまだ子どもだもの。仕方ないわよ」


『その点については妾も悪かったと思っておるし、シルヴィを責めるつもりはない。……どれ、少し追ってみるか。レナよ、少し魔力を借りるぞ』


「え? 借りるってどうやって――」


 あたしの言葉を遮るようにあたしの頭上に飛び乗ったシリアは、ポンポンと小さな足で頭を叩いてきた。

 その直後。体の中身が吸われるような奇妙な感覚に襲われた!


「うわぁ!? 気持ち悪っ!!」


『我慢せい! シルヴィという魔力リソースを使えない以上、無理やり引き出すしかないのじゃ!』


 嘘でしょ、シルヴィこんな感覚を毎日受け続けてるの!? 化物!?


 膝から崩れ落ちそうになる気持ち悪さに耐えながら、シリアの作業が早く終わることを祈り続けること数分。

 頭の上に持って行かれ続けていた感覚が収まり、シリアが足元へ飛び降りて行った。ようやく終わったみたい……。


『これは面倒なことになったぞ……』


「行先は分かったのかしら」


『うむ。転移の痕跡を手繰ったが、シルヴィが連れ去られた先は――魔王城じゃ』


「魔王城!? なんで!? 夕方に昨日の魔族が迎えに来るはずだったんじゃないの!?」


『分からぬ。じゃが、迎えを寄越すよりも先んじて、何者かが連れ去っていったのは間違いはない』


 なんで……? 魔王から直々に命令が下されて、夕方にって話じゃなかったの……?

 それに、エミリの話だと攫われる時もシルヴィが抵抗してたみたいだったし、本当にシルヴィとあの魔族を秘密裏に殺すつもりなの……!?


「ねぇシリア、今からでも魔王城に行かないと! シルヴィが殺されちゃうかも!!」


『阿呆。シルヴィが殺されるなど万に一つもあり得んわ。あ奴の【制約】は、自身を傷付けんとする全てを拒むほどに強力じゃ。例え魔王であったとしても、拘束は出来ても傷を付けることは叶わんじゃろう。それ故に、悪用されないかの方が心配じゃが……現魔王が奴のままならそれも心配あるまい』


 シリアもシルヴィの身を案じているけど、さらにその先まで考えているみたいだった。

 よく分からないけど、シルヴィの【制約】のおかげで死ぬことは無いって分かった途端、なんだかほっとした気持ちになれた。


 それはフローリアも同じだったみたいで、盛大に息を吐きながらエミリの頭の上に、メロンと同じくらいの重さのそれをズシリと置いた。エミリがぎょっとした顔をしていて、いつも置かれているあたしは内心少し同情した。


「はぁ~。とりあえず行先が分かって一安心ね! 後でゲイルくんが来るんだし、その時に説明して急ぎで迎えに行きましょ!」


『そうじゃな。エルフォニアが言っておった暗黙のルールとやらがある以上、妾達が勝手に動くのは情勢的にまずい。一旦家に戻り、家を出る支度を進めておく方が良かろ』


「えっ、フローリアさん。お姉ちゃん探さなくていいの?」


「うん。もう居場所が分かったから、エミリちゃんも後で一緒に、お姉ちゃんを迎えに行きましょうね~」


「うんっ、わたしもお迎えする!」


 帰り始めた女神二人とエミリの背中を見ながら、なんだかあっさりしてるなぁって変な気分になった。もう少し心配してあげてもいいのにとは思うけど、やっぱり魔王と知り合いって言うのと、何があってもシルヴィは殺されないってことがそうさせてるのかな。


「あの子の【制約】って、そんなに強力なのかしら。敵意や悪意がある者からの攻撃は受け付けないって、相当高度なものだと思うのだけれど……」


「あたしもよく分かんないけど、シリアが言うにはそうみたいよ。その代わりに一切の攻撃は出来ないし、攻撃に該当する行動を取れば、それで負わせたダメージ以上のフィードバックを受けるらしいけど」


「【制約】ね……。あの子が見せた底力はそれだけじゃ証明できないし、まだ発展途上ということも踏まえて考えれば考えるほど、本当に底の知れない子だわ……」


 エルフォニアはぶつぶつと思考に耽りながら、フローリア達の後を追い始めた。


 確かにエルフォニアの言う通り、シルヴィには謎が多すぎる。

 あたしと初めて会った時も、結界を全部破れそうだったはずなのに、いきなり結界の強度が増して色が変わってた。エルフォニアと死闘を繰り広げた時もそう。多重詠唱という無茶をしながらも、同じように結界の強度を増して防ぎきってみせた。


 その二つの共通点は、シルヴィが隠していない右目が赤く染まっていたことくらいしか分からない。


 シリアと体を入れ替わる時にシルヴィの目の色も変わってたから、もしかしたら“先祖返り”の何かで力が増しているって考え方もできるけど、その辺りを詳しく教えてくれないからよく分からないままになってる。


 ……なーんて、色々考えても答えなんて出ないし、あたしらしくもないか。


 今はともかく、シルヴィが魔王に何かされないかの心配だけしておこう。きっと知る必要が来たら、その時はシリアも教えてくれるだろうし。


 あたしは思考を切り替え、フローリア達の後を追いかけた。

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