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13話 魔女様は正体をバラされる

首無し騎士(デュラハン)……とは、何でしょうか?」


 御者台の女性騎士――コレットさんが口にした単語が理解できずに尋ねると、横にいたレオノーラが説明してくれました。


「その名の通りですわ。アンデット族の中では比較的、人の体と遜色ない種族ですけど、人と大きく異なるのが首が無いこと」


「ですがレオノーラ。彼女は普通に首があるように見えますが」


「首はあっても無い、ということですの。コレット、彼女に首無しと言われる所以(ゆえん)を見せてくださいまし」


「はい」


 コレットさんはレオノーラに頷くと、おもむろに自分の顔を両手で掴み。


 まるで鎧の兜を外すかのように、その顔を持ち上げるではありませんか!!


「きゃああああああ!? あ、頭が、頭が取れて!!」


「シルヴィ! 騒ぎすぎですわよ!?」


「だ、だって! 頭が! スポッて!! むぐぅ!?」


「静かにしてくださいませ! 周囲の者が見ておりますわ!」


 騒ぐ私の口を押えながら、レオノーラが私を咎めます。

 口を塞がれながら周囲を見渡すと、通りかかった街の人の注目を浴びてしまっていました。


 レオノーラが愛想笑いを浮かべ、周りの人達に釈明しだします。


「ご、ごめんあそばせ! 少しじゃれていただけですのよ! そうですわよね、シルヴィ?」


 私の方を見ながら同意を求めて来る顔は、有無を言わせないものでした。

 コクコク、と頷きながら目元だけで愛想笑いを浮かべると、私達が遊んでいたのだと思ってくださった街の皆さんが、微笑ましそうに見ながら人波の中へ溶けていきます。


 そんな街の方々の様子を見て安堵の息を吐いたレオノーラは、私の口から手を外しながら疲れたように言いました。


「もう、やめてくださいまし。いくら視察を名目として動いているとは言え、(わたくし)は魔王ですの。注目を集めてしまうと後々面倒でしてよ?」


「す、すみません……」


「ははは。感情豊かな兎人族のお客様で良いではありませんか、魔王様」


 腕で抱えている生首のままそう笑うコレットさんに、再び悲鳴を上げそうになりましたが、寸前のところで何とか抑えることが出来ました。


「昨日と言い今日と言い、シルヴィはホラー要素に弱すぎますわ。さぁ、客車に乗ってくださいまし」


 レオノーラに手を引かれて車内へと乗り込み、ふかふかなシートに腰掛けます。

 私の対面にレオノーラが座り、背後の壁越しにコレットさんへ話しかけました。


「出してくださいませ」


「かしこまりました」


 コレットさんがゆっくりと馬車を操り、窓の外で街並みが流れていきます。

 こうしたゆったりとした時間も良いものです。と楽しんでいると、御者台の方から声を掛けられました。


「しかし魔王様。そちらのお客様から、どこか懐かしい感覚を覚えるのですが……気のせいでしょうか?」


「うふふ。コレットにはやはり気づかれてしまいますわね。では、ネタばらしと行きますのでどうか驚かないでくださいませ? シルヴィ、一瞬だけ失礼いたしますわ」


 そう言いながらレオノーラが私の首のチョーカーを取り外し、兎人族の変身が解除されます。

 すると、コレットさんが突然大声を上げながら取り乱し始めました。


「この魔力の感覚!? まさか、グランディア王家のものですか!?」


「コレット! 車体が揺れておりましてよ!!」


「し、失礼いたしました!! ……申し訳ございません。何分、全く予想もできていなかったもので」


「魔族領を探索するにあたって兎人族の恰好をしてますけど、シルヴィは人間領を統べる王家の血筋の末裔。貴女がかつて仕えていたという、正統な王族のお姫様ですわ」


 私の首にチョーカーを付け直しながらさらっと素性をばらすレオノーラ。

 隠していたつもりでしたが、魔王である彼女にはお見通しだったようです。


「私が元王女だと知っていたのですか?」


「知っているも何も、あのシリアの血縁者で魔力の波長もほぼ同じとなれば、導き出される答えはひとつのみでしてよ? 貴女が言いたく無さそうにしていたから、こちらからは探りませんでしたけど」


「それは……すみません。シリア様からあまり口外にするなと言いつけられていたのもそうですが、魔族と人間は昔敵対していたと聞いていたので、本当のことを話せないと思っていまして」


「ふふ、お気遣いに感謝ですわ。でも、大戦をしていた昔ほどは悪くはありませんのよ? ねぇ、コレット?」


「え? あぁ、はい。私が仕えていた頃には既に大戦も終結していて、敵対はせずとも互いに不干渉を貫く関係にありましたね」


「そこまで漕ぎつくのに払わされた代償は大きかったのですけれども、まぁそれは昔の話ですわ。魔王である私個人としては、シルヴィが魔女であれお姫様であれ気になりませんわ」


 どうでもいいと仕草でも表現してくるレオノーラですが、彼女に隠しごとをしていたという事実が少しだけ後ろめたい気持ちになります。そんな考えがまた表情に出てしまっていたのか、レオノーラが私の鼻先を指で突きながらむっとした表情を浮かべます。


「私に罪の意識を感じる必要はありませんわ。ですが、どうしても後ろめたいというのであれば、貴女の王家に仕えていたコレットに自分の話をしてあげてはいかがですの?」


「い、いえ! 自分はそんな――はい! シルヴィ様さえよろしければ、お聞かせ願えると嬉しいです!」


 否定しようと口を開いたコレットさんが、凄まじい手の平返しを見せました。

 恐らく、御者台が見えるように設けられている窓に向けて、レオノーラが凄い顔で脅しているのでしょう……。


「レオノーラ、面白い話でもないので無理やり聞かせなくても……」


「面白いかどうかは聞いた側が決めることですのよ? それに、私個人としてもシルヴィの出自には興味がありますわ」


「結局そこではありませんか……。コレットさんが可哀そうですよ」


「そんなことありませんわ! コレットなんて、シルヴィが王家のお姫様と聞いてからずっとソワソワしておりましてよ? そうですわよね、コレット?」


「自分としても、生涯忠誠を誓った王家の末裔であるシルヴィ様の生い立ちについて、可能であればお聞かせいただきたいとは思っています。ですが魔王様、シルヴィ様が気乗りしておられないのでまた別の機会に――」


「聞きまして? コレットもどうしても聞きたいと言っておりますわよ?」


「ぜ、ぜひ、今お聞かせいただけると幸いです、シルヴィ様!」


  レオノーラ、またそうやってコレットさんを威圧して……。

  私はひとつ溜め息を吐き、シリア様がいない場所では一度も自分から話したことのない、塔での話をすることにしました。


「本当につまらない話ですし、王家とはほぼ無縁の私ですので期待に沿えないと思いますよ?」


「構いませんわ! さぁ、早く聞かせてくださいませ?」


「ええと、では。私は確かに、グランディア王家の王女として生まれたのですが――」

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