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11話 ご先祖様は利用する

 村で行われた宴は華やかさこそないものの、贅沢過ぎない程度の内容でした。村の住民の方々が腕を振るった料理の数々はどれも美味しくて、人が作った料理を食べると言うだけでも、一際幸せを感じられます。


 そして食事会の後には、村の筋肉自慢の方々によってよく分からないダンスが行われ、事あるごとに筋肉を見せつける姿をシリア様が大変気に入ったらしく、終始隣で涙を流すほど笑っていました。

 私が個人的に好きだったのは、村の子ども達によるお遊戯です。塔に閉じ込められていたお姫様を王子様が助けに行くという物語で、見始めた最初は少し見るのが辛くなりましたが、子ども達が元気いっぱいに役を演じる姿と物語のハッピーエンドに、つい胸を打たれてしまいました。


『さながら、妾はお主という姫を救い出した王子様じゃな?』


「シリア様、事実ですが感動が薄れてしまいますのでやめてください」


『なんじゃつまらぬ。妾に恋しても良いのじゃぞ? 答えてやれることはないがのぅ……くふふっ』


 と言う感じに、催していただいた出し物もとても楽しめるもので、私は初めての宴を満喫していました。


 一通り出し物も終わり、各々が談笑や食事を楽しんでいると、私の元へ村長と呼ばれていた初老の男性が近づいてきました。


「魔女様。此度は村の皆を助けてくださり、ありがとうございました。宴は楽しんでいただけておりますかな?」


「はい。美味しいお料理や出し物までご用意していただけて、とても楽しませていただいています」


「それは何よりです。村の者も張り切った甲斐があると言うものですぞ」


 ほっほっほ、と髭を触りながら笑う村長さんは、続けて私へ問いかけてきます。


「魔女様にこうしたお話を伺うのはどうかとは思うのですが、魔女様はこの地へどのようなご予定で訪れられたのですかな?」


 答えに詰まる内容です。どう答えるべきかと考えていると、「あぁ、お答えしづらいのであれば無理にはお聞きしませぬ」と付け加えて頂けました。

 すると、シリア様が横から助け船を出してくださいました。


『やれやれ、そういうことか。お主も随分と気に入られたものじゃな』


 それは一体どういう意味でしょうか、と尋ねようとした矢先に、シリア様が『いいから今は妾の言う通り答えよ』と言葉を遮って続けられたので、それに倣って村長さんへ回答していきます。


「私は遠く離れた森の奥でひっそりと魔法の研究を続けていた者ですが、諸事情で引っ越しを余儀なくされたので、良質な地脈のある場所を探していました」


「たまたま立ち寄ったこの森はあまり人の手が加えられていない上に、探していた地脈の上に位置していたので、拠点をここに移そうかと考えていたところ、村の方々を偶然見つけた次第です」


 シリア様からの言葉をそのまま復唱する私に、村長さんは少し驚いたような、喜んでいるような表情を浮かべました。


「ほほぅ。たまたま訪れられていたところを、助けて頂けたという訳ですな。このような偶然の巡り合わせをしていただけた神に、感謝を」


『うむ。妾をもっと崇めると良い』


 た、確かにシリア様が行った略式転移による偶然ではありますが……。

 何とも言えない気持ちで微妙な顔を浮かべていると、村長さんが続けて尋ねてきました。


「それでは、魔女様はお住まいをこの森に移されるということですかな?」


「そうですね」


「であればぜひ、我々の村にお住まいになられてはいかがでしょうかな? このような小さな村ではありますが、生活するには何ひとつ不自由はございませぬ。お住まいになられる家も、我々でご用意させていただきますぞ」


 その申し出は非常にありがたいとは思います。しかし、誰かに見られている場所で住むと言うのは、塔での生活を彷彿させられてしまいそうです。


 私が渋っていると、シリア様も同じ考えであったようで首を振っていました。


『やめておくのじゃ、お主に共同生活と言うのはまだ負担が大きすぎる。じゃが、村長の申し出は利用できるやも知れぬな……。よし、言葉を続けよ』


「ありがたい申し出ですが、我々魔女は群れて生きることを良しとしないものなので、どこかの街や村に身を置くということができないのです」


「さ、左様でしたか。それは申し訳ない……」


「いえいえ。ですが、近くに拠点があるということは、必要に応じて物資の調達が行えるということです。そこで提案させていただきたいのですが、少し離れた場所に私の家を作っていただけるのであれば、今後も治療が必要となった時には助力させていただこうと思います」


 なるほど。村長さんの目的は恐らく、怪我の手当てをできる人がいないからという理由で、私の治癒魔法を今後もお願いしたいというものなのでしょう。そこで何とか村に私を留めておけないかと模索した結果、村での住居を提供するということになったのだと思います。


 そこを逆手に取ったのが、先ほどのシリア様の提案です。

 村長さんの目論見は分かっている。そちらの希望を飲むことはできるが、ならばこちらの希望も飲んでもらおう。という具合に、とても上手く折り合いをつけた案だと思います。


 私――もといシリア様の提案を受けた村長さんは、少し考えこむように髭を触り、大きく頷いて答えを出しました。


「分かりました。それでは明日からにでも、魔女様が望まれる場所に家を用意させていただきましょう。……ですが、それですと魔女様の家に我々共が度々お邪魔になるかと思われますが、よろしいのでしょうか?」


「はい。負傷された際に訪れていただければ、治療させていただきますのでご安心ください」


「ありがとうございます……! 魔女様にご満足いただけるような家を、村の総力を挙げて作らせていただきますぞ!」


 こうして、私の新しい家を作っていただける運びとなりました。

 家が出来上がるまでの間は、さっき休んでいた客間を好きに使ってほしいとのことで、しばらくは村の中で生活することになりそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レビュー全文 【簡単なあらすじ】 ジャンル:ハイファンタジー 忌み子として産まれてすぐに幽閉されていた王女。16歳の誕生日に突然現れた2000年前の先祖「シリア」から、実は自分が忌み子で…
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