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11話 魔女様は城下町を散策する(前編)

 何とか他の服に交換させてもらった服は、胸元から足元にかけて青い生地で彩られている、魔族領の街娘が着るという落ち着いた物でした。

 私としては最初からあんな露出の激しいのではなく、こうした地味目な服の方が落ち着きます。


 ちなみに、レオノーラは流石に魔王らしい服装で出かけるのは憚られるらしく、黒のキャスケットに私と似たような黒の服を着ています。「シルヴィとお揃いにしますわ」と楽しそうにしていましたが、仮に私があの露出の激しい服のまま行くと言ったら、レオノーラも着たのでしょうか。


「せっかくですから、もっと可愛らしいのを着ればいいと思いますのに」


「いいんです……私はこれがいいんです……」


 城下町を歩きながら未だに服の事を言ってくるレオノーラに、私は頑として聞き入れません。

 次レオノーラに乗せられようものなら、とんでもない服を着せられる気がしてならないのです。


 残念そうにしながらもクスクスと笑っていたレオノーラは、私の腕を引いて城下町をずんずんと進み、大通りに差し掛かったところで足を止めました。


「さぁ、まずはこちらをご覧くださいませ! 魔族領の中でも最大の規模を誇る物流の要、商業区アレグロア街ですわ!」


 レオノーラが誇らしげに指し示すその大通りは、魔族の数もさることながら、至る所に店が立ち並ぶ綺麗な街並みでした。

 仕立て屋や飲食店、武具店など本当に様々な種類のお店があって、軽く眺めただけでも凄まじい数のお店があることが分かります。


 こうして実際の街に入るのが初めてだった私は、塔から見下ろすしかできなかった街並みに感動してしまいました。


「わぁー……!!」


「ふふん、驚きのあまりに言葉も出ないようですわね!」


「凄いですレオノーラ! 私、こうした街に入ったのが初めてなので、ワクワクが止まりません!!」


「あら、そうでしたの? ならばじっくりと堪能してくださいませ! 街を歩く時は、食べ歩きをするのが定石ですのよ!」


 そう言いながらレオノーラは私の腕を再度引き、店外にカウンターの付いている店へと向かって行きました。


「もし。(わたくし)達に、この店で一番自慢の料理を出していただけるかしら?」


「ん? おぉ!? 誰かと思えば魔王様じゃあないですか! 今日も視察ですか?」


「えぇ。ですが、今日はこちらの可愛いお客様もいらっしゃいますの」


「こ、こんにちは……」


「はぁー! これまた随分と別嬪(べっぴん)さんな兎人族ですね! 魔王様が直々にと言うことは、相当な方なので?」


「そんなところですわ。ですので、街中で食べ歩きができる軽めの料理が欲しいのです」


「そう言うことならお任せください! 今ご用意致しますので!」


 店員さんは張り切って店の奥へと向かって行きました。

 私は少し気になり、レオノーラに尋ねてみることにします。


「レオノーラ。今日も、ということはやはり頻繁に街に出かけているのですか?」


「うふふ! 私はあくまでも、王として自ら領地を視察しているだけでしてよ? 私情なんてありませんわ」


 あっけからんと言い放つレオノーラに、私は嘆息してしまいました。

 私、さっきはそれの失言と言うことで責められたはずだったのですが……。


 やや不服ですが、変に突いて蛇が出て来ても嫌なのでそれ以上は言わないことにします。

 そのまま二人で軽く談笑していると、包み紙に入れられている何かを持った店員さんが、奥からいそいそと戻ってきました。


「お待たせいたしました! こちらが当店自慢の、特級ミノタウロスのサンドと焼き串セットです!」


「まぁ! 香ばしい香りですわ!」


 店員さんから受け取ったレオノーラは、それぞれ中身を確認してから私に尋ねてきます。


「シルヴィ。貴女、お腹は空いていまして?」


「そこまでしっかりは食べられないですが、小腹程度なら」


「ならこちらを」


 手渡されたのは、焼き串セットと言われた熱々の袋でした。

 中身を覗いてみると、竹串に刺さっている分厚いお肉がこんがりと焼きあげられたものが三本入っていました。何か特別なソースを使っているようで、焼いただけでは出せない美味しそうな香りがふわりと漂っています。


「特級ミノタウロスとは、なかなか贅沢な素材を使いますのね」


「仕入れるのも大変ですが、結構人気商品なんで頑張ってますよ! それはその中でも、特に美味いと言われているヒレ肉でして、口の中で蕩ける触感を楽しめるものです!」


「それは楽しみですわ! こちらのお代はおいくらかしら?」


「二点で銀貨四枚ですね!」


「良心的な価格ですわね。……はい、ではこちらで」


「ちょうど戴きます。それでは魔王様、お気をつけてー!」


 笑顔で手を振ってくださる店員さんに手を振り返し、レオノーラに続いて歩き始めます。

 包み紙を剥がして早速食べ始めたレオノーラに、私は気になったことを聞くことにします。


「魔王様でも、しっかりお金のやり取りは行うのですね。てっきり、王様だから支払いはしないものと思っていました」


「むぐ……。当然ですわ。献上品ならまだしも、(あきな)いとして扱っている物を無償で提供させるなど、強奪行為以外の何物でもありませんわ。商売である以上、どのような相手であろうと買い手と売り手が存在する。そこに上下関係を持ち込むのは論外ですのよ?」


 そう言いながら表面もこんがりと焼きあげられたサンドを口にし、幸せそうに顔を歪めるレオノーラ。

 何かと悪戯好きな彼女ですが、立派な王様なのですねと実感させられてしまいます。


 レオノーラはそんな私を見て首を傾げました。


「どうかなさいまして?」


「いえ。レオノーラは魔族の皆さんを大事にしているのですね、と思っていたところです」


「何を変なことを。民を統べるのが王であり、民を想うのもまた王なのです。王である以上対等にとは言えませんが、どの魔族であっても私の家族のようなものでしてよ」


 レオノーラは再びサンドを口に運び、私にもそれを差し出してきました。


「ほら。私の愛する民が一生懸命作った味、食べてみてくださいませ?」


「ふふっ。では、いただきます」


 差し出されたサンドを一口齧ると、カリッとした感触に続いて柔らかなお肉の感触が口の中に広がります。濃厚なソースの味付けとパンに塗られていたバターに加え、お肉にぎっしり詰まっていた肉汁が壮大なハーモニーを奏でています。


「ん~……! とっても美味しいです!」


「そうでしょうそうでしょう!? シルヴィのそちらも、私にいただけます?」


「もちろんです。……どうぞ、レオノーラ」


「はむっ……。んん~! こちらもこちらで、芳醇な味わいですわ……!」


「もぐ……。本当です、こんなに柔らかなお肉は初めて食べました!」


「うふふ! 肉料理に関しては、魔族は随一の技術を誇っていると自負しておりますの! もっと美味しいお店もたくさんありますから、ぜひ紹介させてくださいませ?」


「これ以上があるのですか!? 楽しみです!」


 二人で笑いあいながら交互に食べる食事は、とても美味しくて幸せな味がしました。

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