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7話 魔王様もスキンシップが激しい

 レオノーラに「残った料理は給仕のつまみになるので気になさらないでくださいまし」と事も無げに言われ、食べ残しを渡すなんてとんでもないと頑張って食べ続けましたが、普段からあまり多く食べることが無い私のお腹は早々にギブアップをしてしまい、結局食べきることが出来ませんでした。


 申し訳なさを感じながらも、今はレオノーラの勧めで浴場へ案内されています。


「それでは、我が城が誇る自慢の湯を楽しんでくださいませ。(わたくし)は後で入りますので」


 そう言い残すとレオノーラは脱衣所から出て行ってしまいました。

 あまり待たせるのも悪いですし、手早くお風呂を済ませてしまいましょう。


 タオルを体に巻き、お風呂場へ続く扉を開いて中へ入ると、その圧巻の広さに言葉を失いました。

 魔導連合のお城にあったお風呂もかなり広かったですが、それに負けず劣らずの広さを誇っています。備え付けのシャワーの数も多く、ざっと見ただけでも五十人前後は同時に入ることが出来るのではないでしょうか。


 広々とした空間を独り占めと言えば聞こえはいいかもしれませんが、あまりにも広すぎるので心なしか寂しさが込み上げてきます。


 いえ、いけません。せっかくレオノーラが気を使ってくださっているのですし、広いお風呂を堪能させていただきましょう。


 洗い場で体の汚れを落とし、湯船に浸かります。肩まで沈むと、お風呂特有の心地よさが全身に広がりました。そこまで疲れてはいないつもりでしたが、全身の疲労感がお湯の中に溶け出していくようです。何か特殊な効果でもあるのでしょうか。


 自然と上向きになる顔で天井を見ると、一部ガラス張りの天井から魔王城の外の景色が見えました。今夜も綺麗な星が煌めく夜空です。


「魔族領でも、星の輝きの見え方は同じなのですね……」


「何を当然のことを仰いますの?」


「へっ?」


 頭上から聞こえた声に顔を向けると、いつかのレナさんさながらなレオノーラが私を見下ろしていました。そして、あろうことかバスタオルすら身に纏っていません。


「れ、レオノーラ!? 後で入ると言って――」


「ええ。シルヴィが先ほど言いかけていた部屋の様子を確認しておりましたの。すぐに原因が分かったので、私もお風呂を頂くことにしたのですわ」


 そのままレオノーラは、私の隣で湯船に浸かり始めます。


 ま、また初対面も同然の人とお風呂に入ることになりました……。

 私は気まずさから少し距離を置くと、レオノーラはすっと距離を詰めて何事もないような顔をします。


「……」


 再び距離を置き、その隙間を詰められ、もう一度距離を置いてみたところで、レオノーラがついに抗議の声を上げました。


「なぜ私から離れようとするんですの!?」


「だ、だって、私達は今日知り合ったばかりなのに、一緒にお風呂だなんて」


「初対面でも私達はお友達なのでしょう!? 裸の付き合いというものをご存じでは無くて!?」


「言葉は知っていますが、レオノーラは魔王様なんですから、そういった行為は控えた方が……」


「魔王であっても、それは表の顔ですわ! 私、内面はただの三千と少しの乙女ですのよ!?」


「それは乙女って言って良いのですか!?」


「乙女に年齢なんて関係ありませんのよ! この……っ!」


「わあぁぁぁ!? ちょ、ちょっとレオノーラ! なんで私のバスタオルを剥がすんですかぁ!?」


「布切れで体を隠すなど、湯船に対する冒涜ですわ! ……あら? あらあらあら、シルヴィ。貴女、こうして間近で見るととてもいいスタイルをしておりますのね」


「ひゃぁ!? やめ、やめてください! 触らないでくださいぃ!」


「触るな!? そんなことを言われてしまっては、ますます触りたくなってしまいますわ!!」






 結局、レオノーラの気が済むまで滅茶苦茶にされてしまった私は、彼女には敵わないと諦めて体を密着させられる形で湯船に浸かり直しています。

 心なしか、レオノーラの肌のつやがすごく良くなっているような気がします。何か魔法でも使われたのでしょうか……。


「はぁ~、至福のひと時でしたわ。これからは毎晩、シルヴィとお風呂に入ることにしますわ」


「ほどほどでお願いします……」


 どことなくフローリア様に似た何かを感じるレオノーラは、私を笑うと話題を切り替えます。


「そうでしたわ! シルヴィが騒いでいた原因ですけれども、貴女、光属性の適性が強いとシリアに言われたことはございませんこと?」


「え? そうですね……。そう言えば昔、シリア様からそのようなお話をされた気がします」


 あの頃は魔法の適性とかよく分かっていなかったので、半分ほど流し聞きしてしまっていましたが、言われてみればそのようなお話があったことを覚えています。確か、私はシリア様の力を色濃く継承してはいるけど、シリア様とは異なって光属性への適性が非常に強いのだとか何とか。


「光属性……。それは癒しの力であったり、聖なる加護などとよく言われる希少な属性のものですが、同時にこの世の者ではないものも引き寄せてしまいますの。一般的にはアンデット系の魔族や死者の霊魂などは光属性を嫌うとは言われますが、中には救いを求めているものが強い光属性持ちの人に寄ってきてしまう、何てことがありますのよ」


「じゃ、じゃあ、あの部屋で私が聞いた女の人の声って」


「えぇ。クローダスが魔王城へ貴女を連れてきた際に、周囲にいたと思われる霊魂なのでしょう」


 さぁっと顔を青ざめさせる私を笑いながら、レオノーラが話を続けます。


「一応、魔王城の周囲には昇天の陣を張りましたので、先ほどのような出来事は起きることはありませんわ。ですが、城から帰る時に何があるとも限りませんし、そこは気を付けないといけませんわね」


「あ、あの。シリア様達が到着したら、転移魔法で送っていただくことって……」


「転移は実行に伴い莫大な魔力を消耗しますの。そうポンポンと使えるものではありませんわ」


「そうですか……」


 帰り道、何も起きないと良いですが……。

 でも、シリア様もレナさん達もいることですし、流石に何とかはなるでしょう。たぶん。


「少なくとも、城内及び周辺を動く分には問題はありませんわ。それと、どこかに出かける際は闇属性最強である私が傍におりますもの。よほど自殺願望が強い者でない限り、私達の前に姿を見せませんわよ」


「ありがとうございます、レオノーラ」


「礼なんていりませんわ。こちらの事情で連れてきてしまっているんですもの、それくらい当然でしてよ。……さ、長風呂はあまり良くありませんわ。今夜は寝る準備を致しましょう」


 レオノーラにバスタオルを返してもらい、彼女の後に続いてお風呂から出ます。

 着替えが無いことに気が付き、その旨をレオノーラに伝えたところ、今日はレオノーラの物で我慢してほしいと新品の下着と彼女の部屋着を貸していただけました。ですが――。


「レオノーラ、胸が入りません……」


「……上は無しで我慢してくださいまし」


 苦言を呈したところ、忌々しげに自身とサイズの異なる私のそれを半目で見つめられたので、それ以上は何も言わずに我慢することにしました。

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