0話 幸せな王女は夢を見る・5
今回から新章開幕です!
魔族に攫われたシルヴィを待ち受ける新たな出会いとは……!?
今日は1時間後にもう1話更新します!
大聖堂からお父様達の元へ戻ると、ちょうどお父様達と騎士の方がお話しているのを見つけました。その騎士の方は女性のようで、灰色の髪を肩で三つ編みにしているのが印象的でした。
話の邪魔をしてはいけないと思い、少しはしたないですが離れたところから話の内容を盗み聞きします。
「ご報告……軍が侵攻を…………」
「そうか。では…………せよ。直に守護神様の……」
「承り……」
所々聞き取れませんでしたが、恐らくは魔族の軍が攻めてきている件についての報告のようです。
お父様へ報告を終えた騎士の方が、胸の前に手を当てながら頭を下げ、急ぎ足でその場から離れていきました。
小さく一息入れたお父様の元へ歩み寄り、心労が蓄積しているお体を心配します。
「お父様、大丈夫ですか?」
「あぁ、シルヴィ。大丈夫だよ、考えねばならないことが多くて頭が痛いだけだ」
「あなた。民を想うのはいいけど、倒れられてはシルヴィがまた泣いてしまうわ。昨晩も遅くまで起きていたのだから、今日はゆっくり休んで……」
「すまないな〇〇〇……。では、少し横になってくるとしよう……」
やはり、お母様の名前を呼ぶ際に上手く呂律が回っておらず、お父様の言葉が聞き取れませんでした。この戦争が始まってしばらく経ちますし、騎士団からの報告や戦況の把握、財政の管理などで日々追われ続け、相当お疲れなのでしょう。
ですが、それと同時にここまで身を粉にして国民の皆さんを案じてくださるお父様の姿に、尊敬の念を抱いてしまいます。
そう言えば、夢の中でお会いした魔族の王様――いえ、女性なので女王様ですね。彼女も自国の民を常に案じ、家族のように接していました。やはり王となるお父様や夢の魔王様は、自分の愛する民を護るために日々苦労されているのでしょう。
お父様に寄り添い、お母様と共に寝室まで優しく送り届けます。
お母様の手で寝巻へ着替えさせられたお父様は、ベッドに横になるとすぐに眠りについてしまいました。
私はお母様と寝室を出た先で、ふと気になった疑問を口にしました。
「お母様。何故魔族……いえ、魔王は人間を滅ぼそうとしてくるのでしょう? やはり異種族同士なので、仲良くは出来ないのでしょうか?」
お母様はその質問に言葉を選ぶように沈黙し、憂いのある顔で答えてくださいました。
「シルヴィは知らないかもしれないけど、私達や歴代の王様達も、何度も魔族と和平を結べないかと交渉はしていたのよ。それでも、人間は信用できないと断られ続けて、こうして戦争でしか解決できなくなっちゃっているの。分かり合えないって、悲しいわよね……」
「そう、なのですか……」
争いが嫌いな私としては魔族の方とも仲良くしたかったところでしたが、やはりそうはいかないようです。
夢の中で魔王と楽しく過ごせていたこともあり、現実の魔王も彼女のような人ならばよかったのに、と残念な気持ちになります。
落ち込む私の頭を、お母様は優しく撫でながら安心させるように語りかけてくださいます。
「大丈夫よシルヴィ。あなたが毎日守護神様に祈りを捧げてくれるから、私達はこうして生きていられるの。守護神様への祈りがある限り、私達の国が滅ぼされることは無いわ」
「……はい、お母様。明日も守っていただけるように、〇〇〇〇様にお祈りしますね」
「ふふふ。それじゃあ、今日も未来の女王となれるように勉強しましょうね」
「はい!」
そうです。私はいずれ、この国を背負う王女なのです。もしかしたら、お父様や歴代の王様でも成し遂げられなかったことを成し遂げられるかもしれません。
そのためにも知識を沢山身に着けておくことが、今の私にできることです。
少し気分が明るくなった私は、お母様と談笑を交わしながら勉強部屋へと向かうのでした。




