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16話 魔女様は指名を受ける

 ゲイルさんの問いかけに、チョーカーをしまいながら答えます。


「え? あ、そうです。お店の手伝いとして兎人族に変身していただけですので」


 何も変なことは言っていないと思いましたが、ゲイルさんとしてはかなり異常なことだったらしく、一人でぶつぶつと呟いては頭を抱えたり、その場をうろうろとしたりと慌ただしくし始めました。


 一体、何だと言うのでしょうか……。


 そんな疑問に応じるように、私の横にエルフォニアさんが立ち、淡々と説明してくださいました。


「あの人が慌ててるのは、魔女の不文律の事についてだと思うわ。不文律には魔女として世界を乱さないようにと色々取り決めがあって、魔族と人間両方に認知はされているものがあるの」


「と、言いますと?」


「今回彼がやってしまった失態は、『魔女と勝負をしてはならない。また、関わってはならない』という内容ね」


「魔族の方は、私達とは勝負してはいけないのですか?」


「そうらしいわね。確かこれが明確に暗黙のルールになったのはここ数百年くらいのことらしいけど、世界大戦が収束して二百年くらい経った頃に、魔女の力を危険視した人間達が魔女狩りを始めて、一年も経たずに領土全体の七割が焼け野原にされたって歴史があるのよ」


 塔の中では知ることの無かった世界の歴史に驚かされている私に、エルフォニアさんは視線をゲイルさんへ移しながら続けます。


「それを見た魔族は変に刺激して人間の二の舞になりたくないから、互いに不干渉を貫こうって決めたらしいわ。魔女側としても絡む理由も無いから、いつの間にか不文律の仲間入りをしていたってところかしら」


「なるほど……。そんなルールがあったのですね」


「なんかめんどくさいわねー……。不文律とか不明瞭な形じゃなくて、明確な条約みたいなのにしたらいいのに」


「人間にも魔族にも、それぞれ抱えてる事情があるんじゃないかしら。それと、あなた達はもう少し、世界の事情について学んだ方がいいと思うけどね。今度の座学の日にでも詳しく教えてあげるわ」


「ありがとうございます」


「何よ、えっらそーに……」


 しかし、そんな不文律があったと知らなかったとはいえ、彼を騙す形で破らせてしまったことは事実です。魔族にとって、不文律を犯すということはどのくらい重いものなのでしょう。


「ちなみになのですが、この不文律に背いた行動を取った場合はどうなるのですか?」


「どっちから仕掛けたかにもよるとは思うけど、今回なら魔族側から魔女側に対する宣戦布告に繋がるんじゃないかしら」


「せん……っ!?」


 想像より遥か斜め上を行く規模の大きさに、言葉を失ってしまいます。

 自分がやってしまった事の重さに戦慄していると、ゲイルさんが突然小さな悲鳴を上げました。


「は、はいっ! こちらゲイルです! はい! はい! いえ、それが……」


 私がメイナードと連絡を取る時に使うような指輪を通して、誰かから受けた連絡に応じているようです。

 ゲイルさんは領主なのでかなり地位の高い方だと思っていましたが、そんな彼でも怯えながら話す人物だと言うことでしょうか。


 しばらく畏まり続けていた彼でしたが、連絡が一方的に切られたらしく、呆然としながら立ち尽くしています。


「あの、ゲイルさん……。どうかされましたか?」


「あぁ……。とんでもねぇことになった……」


 虚ろな表情で天井を仰ぎながら顔を覆い、連絡のあった内容を口にします。


「今回勝負を吹っかけてしまった魔女……つまりお前だが、魔王様から直々にお前にお話があるから連れてくるようにとの仰せだ」


「「魔王!?」」


 私とレナさんの声が被ります。魔王と言えば、世界大戦で魔族を率いて人間領を滅ぼそうと動いていた人物のはずです。如何に平和になっているとは言え、その存在感は圧倒的なものと思われます。


 私は不安になり、エルフォニアさんに尋ねてみます。


「あの、エルフォニアさん。魔王様というのは、本に出てくるあの魔王様なのでしょうか」


「そうね。この世界には魔王は一人しか存在していないから、彼が言う魔王は遥か昔から君臨し続けている魔族の王で間違いないと思うわ」


「そ、その魔王様が、なぜ私に……」


「さっきも言ったと思うけど、魔族から見た魔女という存在はそれだけ脅威なのよ。例え些細なきっかけで仕掛けられた勝負だったとしても、それが魔族領を滅ぼすことに繋がる可能性がある以上、原因となった貴女をどうにかしたい。と言ったところじゃないかしら」


 どうにかしたい。それってつまり、口封じに殺されてしまうのですか!?

 エルフォニアさんから得た回答に、私とレナさんの顔がサァっと青ざめました。


「ど、どどどうしましょう!? 私まだ死にたくないです!!」


「お、おち、落ち着くのよシルヴィ! まだ殺されるって決まった訳じゃないわ!!」


「でも、でも!」


「もぅ! レナちゃんもシルヴィちゃんも慌て過ぎよ! たかが魔王でしょ? そんなに怯えることないじゃない」


 フローリア様のその言葉に、私達はじとーっと半目で見つめてしまいます。


「な、なに?」


「……女神様って、こういう時ずるいですよね」


「……そうね。人間とは違う次元の生き物だから、何されても無傷なんでしょうね」


「もぉ~! 何なのよ二人ともぉ!」


 フローリア様に深く溜息を吐きつつも、どこか冷静さを取り戻すことが出来た私達は、ゲイルさんから今後の流れを軽く聞くことにするのでした。

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