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十話:下校時の戦い(1)


 血を連想させるような紅い双方の瞳が二人を射抜くように見つめている。

 それは見ているだけで威圧され、狂信を感じるものだったが、それが向けられている当の二人は何の事なくそれを見ていた。

 この通りには三人以外誰もいない。不気味なほどの静けさを漂わせているが、二人の気持ちは目の前にいる化け物に向かっているためそれを気にはしていなかった。


「・・・・・意外だな。何故この通りに人がいるのやら」


 化け物の疑問。少し首を傾げるその動作さえ、二人の内どちらを食らおうかと物色している獣の動作に見える。


「何故って言われてもな・・・・・普通に歩いてきた、としか言えないんだけど。なあ雄真」

「ええ。歩いている途中、特に何も無かった様な気がしましたが」


 二人のその言葉に化け物は更に首を傾げる。


「何も無かった・・・・・? 人避けの結界を周辺に張っておいたはずだが。どういう事だ?」


 化け物の言葉でようやくこの静けさに合点が行った二人。化け物が張った結界のせいで不自然なほど人がいなかったのだ。

 基本、一般の人が術式を認識することは殆どなく、あたかも自然にその効果を受け入れる。だが、術式に長けている者であれば、それを認識し、打ち破る事が出来る。

 とはいえ、先程から特に何も感じていなかった二人。愁はともかく、雄真の場合は術式に長けているので感じないという事は殆どない。そういう場合は、術者がよほど強い力を持っているか。もしくは、


「多分ですけど、貴方が張った結界はそれほど強いという訳ではなさそうですね」


 何故か複雑そうな顔をする雄真。

 たとえ相手が的であろうと何だろうと、誰かを馬鹿にするような言葉を言うのは躊躇っている様子。

 しかし、それを聞いた愁は少し呆れた表情で化け物を見る。


「うわっ・・・・・雄真が感知できないほど低いって、どんだけだよ」


 先程までの緊張感は何処へやら、化け物に憐れむような視線を送る愁。

 その視線が送られている化け物は、


「・・・・・」


 ただ黙って二人を見ているだけだった。

 双方の瞳は相変わらずギラギラと輝き、殺気を二人(特に愁に)向けている。それ以外は特にこれといった動きをせず、じっとそこに立っている。

 どうしたものかと雄真は思ったが、その時、先程化け物が出てきた時から倒れている男の方に視線が向く。

 男はピクリとも動かず、ただそこに倒れこんでいた。顔は痩せこけ生気が感じられず、生きているのに死んでいる、そんな比喩がとても似合っていた。呼吸一つさえしていないように見えるのは気のせいだと思いたい。


(あのまま放置しておくと危険だ・・・・・。何とかしないと)


 愁を見てみると、分かっている、と相手に気付かれないように小さく頷く。

 そして、それが合図かのように二人は走り出した。

 愁は化け物に向かって。雄真は男に向かって。

 化け物はそれを待っていたかのように二人を迎い入れる。

 雄真が男に近づくのを阻止しようとして前に立ち塞がる。が、雄真は足を止めない。むしろ最初より加速し、二人はぶつかろうとしていた。


「――――っ!」


 突然、雄真は見を落とし、滑り込むように化け物の下を擦り抜ける。その動きに一瞬反応が遅れた化け物が雄真を再び阻止しようと手を伸ばす。


 パンッ!!


 強い威力で何かが当たる音。

 が、それは雄真を阻止した音ではなく。

 化け物は雄真の方に注意が向いたせいで愁の存在を数秒だけ忘れており、それが仇となり十手によって防がれる。

 左下から右上に弧を描くように薙いだ愁は、その勢いに身を任せて体を一回転。そこから回し蹴りを化け物の腹部に見舞う。

 ボンッ! と強い音を発し、化け物は再び吹き飛ばされる。が、今度はそのまま倒れずくるりとこちらも一回転し上手く受け身をとり、二人を見る。

 その間に雄真は男を担いで他の場所に移動している最中であり、愁に至っては化け物目がけて突っ走っている最中であった。


「ハッ!」


 短い掛け声と共に薙がれる十手。化け物はそれを左腕で防ぐと右手の鋭い爪を愁に向かって振るう。それを右に少し跳躍して避け、十手による追撃。それもまた左腕で防ぎ、今度は右足による蹴り。愁はそれをバックステップで回避。地面に足がついた反動を利用して追撃。あまりにも早い突に一瞬反応が遅れ、右腹部にもろに当たる。


「グウッ」


 呻き声を漏らすも耐える。愁は更に追撃しようと十手を動かす。が、そこで何を思ったのか、追撃を止めて再びバックステップ。

 刹那。愁の体が合った所に何かが振るわれる。そのまま突っ込んでいたら間違いなく、それの餌食となっていた。


「・・・・・勘弁甚だしいな」


 嘆息する愁の目の前には、いつの間にか背中から細い腕のような物を幾つも生やしている化け物の姿だった。


「全く、こっちは足も含めて四本しかないってのに、そう言うのは卑怯ってもんじゃないの?」


 こんな金箔とした雰囲気の中、緊張感のない一言。それを本当に思っている所が凄いのやらどうなのやら。


「・・・・・こうでもしないと、貴殿に勝てないと思ったからな。が、どうやらこれもあまり効果がないようだが」


 此処に来てようやく一言発した化け物。その声は、人間で言う所の中年男性を思わせる声であるが、見た目のせいどうなのか、いまいち判断がつかない。


「貴殿って、俺はそんな尊敬語が似合う人間じゃないと思うんだけど」

「そうかな。私は今日という日ほどついていないと思うよ。まさか、こんな町の道で【鎮魂の諷剣聖】に出くわすなんてな」

「うわっ、それ! その呼び名! それ言うの止めてくれよ。それこそ似合わないってのに・・・・・」


 愁は心底嫌そうな顔を作る。それに気を良くしたのか、化け物が高い声で笑う。

 郷凪家は、霽月館が出来た当初から代々、司書の役割を子の代へと受け継いでいる家であり、同時に剣聖の一門でもある。必ずと言っていいほど、神がかり的な剣舞を引き継いでおり、その名は書籍館同盟だけでなく裏側の世界に広まっている。

 郷凪の剣舞を打ち破る者無し。最強の剣聖一門、と。

 そしていつの間にやら、郷凪の中で剣舞を受け継いだものに付けられる二つ名と言う物が生まれていた。

 それが、【鎮魂の諷剣聖】。

 相手を倒すのではなく、鎮める。そして禊ぐ。穢れを洗い流し、殺すのではなく救う剣と呼ばれるようになっていた。

 が、言われている本人からすれば、それほどはた迷惑な話は無く。

 愁はその名を聞くたび、「そんな恥ずかしい名前はやめてくれ!」と何度も言っているが、それが消えてなくなるという事はこの先無いだろうと思われる。


「恥ずかしい、みたいだな。中々面白いな」

「くそ・・・・・あんた絶対にぶっ叩いてやる。絶対に」


 物騒な事を言っている者の、顔はその名前で呼ばれて真っ赤っか。普段は見られない一面を見ている化け物は更に笑い声を高める。


「愁さん! 大丈夫・・・・・そうですね」


 男を安全な場所に置いてきた雄真が戻ってくると、この場の妙な雰囲気に戸惑う。まあ無理もない。緊張と言う糸が張り巡らされた空気だったにもの関わらず、それがいつの間やら解けてしまっているのだから。


「・・・・・そこの少年。貴殿が霽月館館長、霧月雄真氏で間違いないだろうか?」

「へっ? ええ、そうですけど」


 突然の質問に少し戸惑いながらもきっちりと返答する雄真。

 その答えを聞いた化け物は少しの間、顔を俯かせて思索する。その間に雄真は愁の元へと行く。


「愁さん。あれはやっぱり・・・・・」

「ああ、戦ってみて分かったよ。やっぱし【咎人フォルタ】だな。にしてもあの外見は一体・・・・・」


咎人フォルタ】という言葉に渋面を作る雄真。それを発した愁もやりきれないと言った表情を作っている。


「ま、だからって俺らがやる事は変わらないと思うけどな」


 そう言うと、手に持つ十手を握り直し再び化け物に視線を向ける。

 普段の愁が見せている目とは違う、戦いの目。

 そこには鋭さや冷たさが宿ってはいるが、やはりその中にも優しさがある訳で。

 雄真はそれを見ていつも思う。一体いつになったら、あのような目を自分も持てるようになるのかと。

 昔からの目標と超えるべき壁は変わっていない。が、更に厚みは増した。愁と言う名前の壁が今は新たに出来ている。

 いつかそれを超えたい。いや、絶対に超す。


「ですね。どうやらあちらの方も準備万端みたいですし」


 思索を止めていた化け物は戦いの構えをとっている。それは野生の獣の如く、獰猛で、好戦的な構え。


「さて、始めましょうか」


 雄真のその言葉により、第二ラウンドが始まった。




久しぶりの更新です。最近は編集も遅れてちょっとまずいと思っています・・・・・。

今回は久方ぶりの戦闘シーンです。どうだったでしょうか?

感想、指摘など、どんどん募集しています。

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