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九話:下校時の非日常

「それにしても、珍しい事もあるもんだな」

「? 何がです?」


 帰り道。今日は放課後に用事があるとかで桜花はまだ学校に残っており、今この場にいるのは愁と雄真の二人だけである。今日は久しぶりに雄真が休める日なので、どこにも寄らずまっすぐ帰る。

 いつもの桜花とどこか様子がおかしかった様な気もしないでもなかったが、そこはあえて詮索せずに黙って帰る事に。

 

「女性恐怖症のお前があんな事を引き受けるなんて、とてもじゃないけど考えてなかったからな」

「女性恐怖症、という訳ではないんですけど・・・・・。ただ、女性に触れられると恥ずかしいというかなんというか」

「似たようなもんだと思うけどな」


 完全に否定しない、もとい出来ない雄真を見て小さく笑う愁。

 いつの頃からかは忘れてしまったが、雄真は小さい頃から女性に触れられるととんでもなく上がってしまう体質? なのである。そんな所が女子の悪戯心をくすぐるのかどうなのか、わざと雄真に触ってくる事があるため色々と問題になった事もしばしば。

 そんな大変な思いをしている雄真を、ほんの少し離れた所から愁は何もしないで笑って見ていたのだが。


「で、いったいどういう風の吹きまわしだ?」

「別に深い理由はありませんけど・・・・・ただ、言うなら」

「言うなら?」


 一拍置いて、雄真は言の葉を紡ぐ。


「自分でもよく分からないんですよ」

「・・・・・ホントに珍しいな」


 ばつが悪そうな笑みを浮かべる雄真と、ほんの少し驚いた表情をしている愁。

 少々気が弱い所もあるが、それでも自分の意見はしっかりと持ちそれを貫く雄真。そんな雄真が「自分でも分からない」なんて言うことに愁は驚きを隠せなかった。


「そんなに珍しいですか?」

「うん。まさに世界遺産級の珍しさだな」

「そこまでですか・・・・・」


 なんて会話をしている時、愁のポケットから携帯の電子音が鳴る。音が途中で止んだのでメールだということが分かる。愁は止まって携帯を取り出し、内容を確認する。


「えっと・・・・・絢姉からだ」

「絢香さんですか? 愁さんにメールなんて珍しいですね」


 雄真の言うとおり、絢香が愁にメールを送ることは滅多にない。喧嘩はしょっちゅうするが基本的には仲は良好な郷凪姉弟。夕食を食べた後で話をしたりゲームをしたりとしているが、どう言う理由からか、こうした連絡のやり取りだけは殆どと言っていいほどない。


「なになに・・・・・晩ご飯の材料を買ってきてくれ、だってさ」

「割と普通の内容ですね」

「どんなことを期待してんだよ・・・・・って、こ、これは!」


 携帯のディスプレイを見ながら悲痛な叫びを上げる愁。雄真がそれを覗くように見てみると、そこにはこんな事が書かれていた。


『追伸  今日はお父さんたちが用事で出かけるから私たち二人だけね。それと、たまには私が作るから、下記に表示されている材料を買ってくるように。じゃあ、よろしく』


「・・・・・雄真。どうやら今日は俺の命日らしい。あまりろくな働きも出来ないで死んでいくのは俺としても不本意だが、これもまた運命。どうか俺の立派な代理を見つけ出してくれ」

「ええっ。ど、どうしたんですかいきなり」


 内容を確認し終えた後の愁の顔は真っ青になっており、そこには何かを諦めたような、そんな感じも幾らか混ざっていた。


「だってさ・・・・・絢姉だぜ。あの綾姉が料理なんて、危険にもほどがあるだろ」

「そう言われましても・・・・・。そう言えば絢香さんが料理を所を見たことがないですね」


 基本、郷凪家で料理をするのは愁、俊瑛、そして眞由莉の三人であり、俊瑛は店で、愁と眞由利が家で作る事になっている。そう言えばと雄真は思い返してみると、その中に絢香は含まれていない。郷凪家とは小さいころから親交がある雄真でも、絢香が料理をしたところを見た記憶がないのだ。


「そりゃあな。なんてったって絢姉の料理はカタストロフ並の威力があるからな」

「また分かる人しか分からない例えですね・・・・・」

「それくらい破壊力が合って尚且なおかつ微妙だということなのだよ雄真くん」

「そういうものなんですね。絢香さんの料理の腕前は・・・・・」


 そんなやり取りをしながら歩いていると、前から一人のスーツ姿の男性が歩いてくる。ちょうど男性とぶつかる所を歩いていた雄真は愁の後ろへと移る。

 その男性は少し、というか結構変わっていた。鞄も何も持たず、スーツは所々よれよれでしわも多く、足取りが右に行ったり左に行ったりと、どこかおぼつかない。


「・・・・・あの男の人、大丈夫でしょうか?」

「んー、何か疲れてるって感じだな。まあ、今はサラリーマンにとっては辛いご時世だからな」


 何か変だなと思いながらも、そのまま二人は通り過ぎようとしていた。




「・・・・・かはっ」




 が、出来なかった。


「えっ?」


 雄真が驚きの声を上げたとき男性は突然立ち止り、苦しそうに喉を詰まらせて顔を上に向けている。


「ちょっ、大丈夫ですか!?」


 そう呼びかけてみるものの、男性からの反応は無い。目は焦点が定まらないのか右往左往していて口を大きく開けて低く唸っている。手や足が次第に激しく痙攣したように震え、一見しただけで何か異常が起こっていることがすぐに分かる。


「下がれ、雄真!」


 愁の厳しい一声によりハッとした雄真は慌てて後ろに下がる。愁の表情は一変して厳しいものになっていた。


「愁さん、これって」

「・・・・・ああ。もしかして、だな」


 愁がそう呟いた直後、男の体が突然、宙に浮かびあがった。

 それは舞台か何かのショーで使われているワイヤーで吊り上げられているような感じではあるが、もちろんワイヤーなどではなく何もなしに突然宙に浮かんだ。幸いにもと言うべきか、この道にいるのは愁たちだけであり他の通行人などの姿は見えない。


「・・・・・があっ!!」


 大きく激しい咆哮。

 その瞬間、男の背中からまるでさなぎから成虫に移る時のように黒い何か――もとい化け物が出てきた。

 体長は二メートルとちょっとと言った所だろうか。前身は夜の闇をそのまま取って塗りつぶしたような黒色であり、一見すると想影と勘違いしてしまうが明らかな違いがあった。その体はまるで黒い天幕で包みこまれているようであり、想影のようにのっぺらとしていなく細部に至るまで人の姿に酷似している。

 だが、そのどれよりも一番目を引くのはその巨大な口。人の倍はあると言ってもまかり通るそれは、これの凶暴さ、獰猛さを象徴しているかのようである。

 それが完全に出てくると、男はまるで人形劇で使われている人形の糸がプツリと切れたように、だらんとしてその場に崩れるように倒れた。


「・・・・・ふむ、やはりこの男では役不足だったか。だがまあ、得られる者は得られたから良しとするか」


 黒い化け物口から呟くように漏れ出した言葉。それは中年男性の渋く低い声で、何故だろうかその姿ととても合っていた。


「さて、次の宿り主を見つけるとするか・・・・・」


 そう言ってこの場から去ろうとした刹那、




「悪いけど、そう言う訳にもいかないな」




 いつの間にか愁が、その化け物の眼前に飛び出るように迫っており、そして、

 バーンッ!!

 化け物の頭部を思い切り横から殴りつけていた。

 あまりにも突然の事に化物は何の対応も出来ず横に吹っ飛ばされ、傍にあったコンクリートの壁に勢いよくぶつかり、その場に崩れる。ぶつかったその壁は一部がそこだけ爆発したかのように粉々になっている。

 愁はその場に綺麗に着地し、化物の方を見る。その右手には先程までには無かったある物が握られていた。


「愁さん・・・・・学校に十手じってなんて持ち歩いていたんですか?」


 ほんの少し呆れるような雄真の声。愁はそっちの方を見ずに返答する。


「流石に刀を竹刀と偽って持ち歩くのはキツイけどな。十手だったら鞄とか袖の下に入れておくだけでいいからな」


 それは時代劇などで出てくる岡っ引きが使用している十手と呼ばれる武器で、化物相手にはいまいち心もとない物ではあるが、愁が使うと刀並の威力をはっきし、刀を持っていないこういった状況で大いに愁の相棒となっている。


「それにしても、下校途中でとんでもない物と出くわしたな。流石にこれは非日常すぎる」

「まあ、今に始まった事ではないとはいえ、確かにこれは酷いですね」


 そう言った時、崩れていた化物がゆっくりと、頭や腕を垂らしたまま立ちあがる。


「・・・・・」


 愁と雄真がそれを見ている中、怪物は突然、垂らしていた頭をぐわんと上げる。

 その表情は、明らかに敵意で満ち溢れていた。




お久しぶりです! そして長らくお待たせしました! 

何故にここまでかかったのか、それには言い訳をすれば色々とあるんですが、投稿がここまで伸びるとは・・・・・申し訳ないです本当に。

一応、活動報告にも書くので、興味がある方はそちらの方ものぞいてみてください。

それでは、また次回。

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