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六話:黙する銃弾

 屋上で昼食を食べていた愁たちが菜月たち調理部の面々と挨拶をしていたその時。

 小夜が雄真の姿を見つけて顔を真っ赤にしていたその時。

 愁が丁度食べ終わって持っていた文庫本を読もうとしたその時。






「・・・・・」


 風蓮飛鳥はとある廃工場にいた。












「・・・・・魔物の発見情報か」

「うむ。情報ギルドにいる知り合いからの情報だから、百パーセント間違いない」


 以前、桜花が愁の事について聞いた部屋にいる飛鳥と恵。

 二人は研究員のような白衣を身につけているが、所々がぼろぼろになっており、更に薄汚れていた。髪の毛も愁ほどではないものの、結構ぼさぼさになっていたりする。外に出ないから、という理由で二人とも身なりには全然気を使っていなく、普段ここにいるときは大抵こんな恰好をしている。

 二人がいるこの部屋は一応司書たちの集まり場という事になっており、外部からの来客や雄真が何人かに霽月館宛てに来た依頼などの説明をする場所でもある。

 といっても、ここの用途は実のところあまりない。その理由は、この霽月館に所属している全ての司書には絶対一つは自分の部屋というものを与えられ、普段はそこで仕事をしていることが多い。一応、さっき言ったようなことは何度かあるが、殆ど談話室的な存在になりつつある。


「それは雄真には・・・・・」

「言っていない。というよりも、この情報が入って来たのはついさっきで、雄ちゃんは学校だからな。

愁ちゃんと桜花ちゃんと一緒に」

「そうだな。となると、手の空いているのは俺だけか」


 飛鳥は小さく溜息をつく。

 この霽月館に所属している人数は、館長である雄真を含めて全員で九人。桜花が司書候補になったため一応十人になるのだが、ついこの間まで一般人であった桜花を戦力に加えることはない。ということで九人になる。そのうちの三人はまだ学生。こういった平日の活動時間はかなり限られている。そして残りの六人のうち、飛鳥と恵、冬実を除いた三人は今この場にいない。地方などに出現した強力な魔物の討伐や、書籍館同盟に入っている他の司書たちとの合同調査などで出払っているのだ。

 とは言え、いくら霽月館であろうと一々地方の遠いところまで出向いていたら体がいくつあっても足りない。

 そこで登場するのが、『ギルド』と呼ばれる組織である。

 よくゲームなどに出てくるように、様々な専門分野を得意とする者たちの集まりがギルドである。先程、恵が言った情報ギルドを始め、職人ギルド、討伐ギルド、商業ギルド、などといったものが複数存在する。そういったギルドと霽月館は協力関係にあり、あらゆる情報、技術などを共有しているが、基本的に霽月館に優先されている。これは、やはり実力の差というものであり、決して不平等というものではない。

 書籍館に勝てるギルドは存在しない。

 これは未だに語り継がれていることであり、現に二十年前、あるギルドが書籍館に対して反逆にも似た行為を行った所、そのギルドの存在自体が抹消されるという事があった。それ以降、反逆などという言葉すらも存在しなくなる。

 まあ、基本的には両者の関係は友好であり、そういったものはごく一部のみなのである。

 

 話を戻す。更に、残った三人の中で恵は戦闘の分野においてはかなり不向きであり、魔物討伐の依頼などは基本的に受けない。

 で、更に残った二人――飛鳥と冬実なのだが


「ふゆみんは別の依頼で出払ってるからな。で、丁度良く残っていた飛鳥ちゃんに頼もう、ってわけだ」

「それはどうも、だな」


 恵の言葉にちょっと不貞腐れる飛鳥。それを見た恵は可笑しくなって笑ってしまう。


「ははは。まあ、そう不貞腐れるな。最近ずっと部屋に籠りっぱなしだった飛鳥ちゃんには丁度いいじゃないか」

「まあ、確かにそうと言えばそうだが」


 恵の言葉の通り、ここ一週間の飛鳥の日常スケジュールは


 午前六時、起床。

 午前八時、研究開始。

 午後十一時、研究終了。同時に夕食を食べ風呂に入る。

 午前一時、就寝。

 翌朝、同じように午前六時、起床・・・・・


 といったものをこの一週間続けていたのである。

 だから服がボロボロ、というのもあるが普段からあんななので実際はあまり関係ない。

 因みに、司書ごとに扱う内務職が異なり、それぞれ自分の得意分野を行っている。飛鳥は魔術と科学の融合についての研究を恵と共に行っており、例を上げると、物質に術式の力を宿したり、機会の動力に術式を使って出力を何倍にも上げたり、などなど。そのせいか、二人の仲は結構良かったりする。まあ、霽月館全員の仲は良好だが。


「とまあ、そんな訳で飛鳥ちゃん、ここはイっチョよろしく頼むよ」

「了解した・・・・・十五分後、現地に向かう」


 いつものポーカーフェイスでそう答えると、飛鳥は恵に背を向けて部屋を出て行こうとしたが「それともう一つ」と恵の言葉に止められる。


「これはまだ不確定な情報なんだが・・・・・飛鳥ちゃんには言っておこうと思ってな」

「・・・・・なんだ」


 一瞬、話すのをためらった恵であったがそれも本当に一瞬であり、いつもとは違う真面目な顔になると

「実はな・・・・・」











 といった感じで、飛鳥は霽月館がある公文書館から最近買ったバイク(飛鳥はバイク好きで、今乗っているのはYAMAHAのYZF-R1というタイプ)で走って約二十分、魔物が確認されたという廃工場に来ていた。

 魔物はこういった昔は人がいたような所を基本的に好む。それは未だに良く分かっていないが、人の負の感情とでもいうのだろうか。想影のように、魔物たちもそういったものに引き寄せられているのかもしれない。といっても、普通に街中に現われて人を襲うなんてことはもう珍しくもなんともない。

 だからこそ、と飛鳥は思う。

 ――俺たちはいつも、常に命の危険に晒されていると言っても可笑しくない。それは魔物の事に限ったことだけではなくて、普段の日常にだって危険は数えれば幾らでも見つかる。ただ単に自分たちが気づいていないだけであって、実際は危険だらけだ。

 だが、魔物が関与する危険は、俺が防ぐことが出来る。

 俺が持つ力は、そのためだけにあるものだ。私欲なんかのためにあるものじゃない。誰かを救うためにある力。


「それが、俺に出来る唯一の事だ」


 そう言うと飛鳥はバイクを止め、自分の装備の確認をする。

 腰にはホルスターに納められた銃がある。が、その形がとても奇妙で、グリップの部分はリボルバーだが、重心がオートマチックのように太い。グリップから重心の先まで約40センチほどのそれは、飛鳥が独自に開発したものであり、言いかえれば、この世でただ一つの銃である。

 その他にも、色々な装備が腰に取り付けられてあり、中にはどんな風に使うのか分からない物もある。

 銃を抜くと、飛鳥は何の躊躇もなく、昼間なのに薄暗い廃工場へと入って行く。

 当然と言ったら当然なのだが、飛鳥以外に人の気配はなく、所々寂れた感じが何処か安っぽいお化け屋敷を連想させた。

 

「・・・・・奥にいるようだな」


 人の気配はない。が、魔物の気配はある。

 これはもう鍛錬でしか身につけることが出来ず、飛鳥はそれに従って奥へと進んでいく。

 恵が暮れた情報によると、この工場が閉鎖されたのは二十年くらい前で、重工を扱っていて割と賑わっていたが、不景気の波によってやむなく閉鎖になったらしい。いかにも魔物たちが好ましそうな場所である。

 進む、進む、進む。

 見取り図は先程頭に全て入れてあるので、迷わず奥へとすいすい進んでいく。が、進んでいくのは良いのだが、肝心の魔物の姿がどこにもない。こういった場所なら魔物だけでなく、想影が出てきても不思議じゃない。逆に何も出てこないというのが不気味である。

 何かある。飛鳥は周囲を見回しながらそう思った。

 更に奥へと進む。何も現れない。気配はあるのに一向に現れない。様子をうかがっているのかと思ったが、この気配から察するに、そこまで知能が高いやつとは思えない。見つけたら即刻襲うはずだ。なのに、それをしない。


「いったいどうなっているんだか」


 そう呟いた刹那。止まっていた歯車が動き始めた。

 ガタンッ、と背後で大きな音がしたかと思うと、暗闇の中から突然何かが飛鳥目掛けて飛び出してくる。

 飛鳥はそれを反射的に横に跳んで避け、引き金を引く。

 バアンッ! という大きな音と共に、飛び出してきた何かに当たり小さな爆発を起こす。瞬間、それは黒い霧上になって消えた。


「とうとう出てきたか」


 表情一つ崩さずに、何か――想影が出てきた所を見つめる。

 今の突撃が合図なのかのように、十数体の想影が出てきた。


「想影だけ・・・・・?」


 目撃された魔物がどこにもいないことに不信感を抱いたが、とりあえずそれは置いておく。

 再び引き金を引く。先程と同じ轟音。爆発が二体の想影を巻き込み、消滅させる。が、その間に一体の想影が飛鳥目掛けて爪を振り下ろす。それをなんなく避けた飛鳥は、そいつに向って銃口を向け、放つ。近くで起こった爆発にちょっとばかし衝撃を受け地面に座ってしまったが、何事もなかったかのように立ち上がる。


「数が多いな。炎弾だけでは少し無理があるか・・・・・」


 言うや否や、手に持つ銃のリボルバーを開く。そこには本来なら入っているはずの弾ではなく、何か文字が刻まれている別の塊が入っている。赤色で書かれた文字の物が発射される位置になっているのを、緑色で書かれた文字の物に変え、入れる。それが済むと銃口を想影に向け、引き金を引く。すると、今度は先程の爆発するものではなく、まるで風が塊になって連続して放出される。それに当たっても先程のような威力はないが、あたった場所が丸々くり抜かれたように無くなっている。弾数と同じ六発までが連射の限度だが、それでも十分すぎるくらいの威力を持ち、しかもリロードの必要がない。

 飛鳥は精密すぎるほどの狙撃で相手を打ち抜く。次第に想影の数が減っていき、五分も経たないうちにすべて消滅してしまった。


「・・・・・すまないな」


 誰に言う訳でもなくただ呟く。そしてまた歩き始めようとしたが、その時になって近づいてくる別の気配を感じる。


「ちっ、まぎれていたか」


 思わず舌打ちしてしまう。相手にではなく、気づくことが出来なかった自分に。

 そいつはすぐに現われた。いや、飛び出てきた。

 牛のような体躯に血のような赤色の毛。巨大で歪んだ形の二本の角。毛と同じ真っ赤な目。

 恵の情報通りの魔物。下級のため固有名称はないが、下級の中では一番のやつだった。

 あの角に貫かれたら一巻の終わり。

 

「くっ!」

 

 横に飛び込もように避ける。常人よりかは運動能力は高いが、戦い方が戦い方なので愁のようにアクロバットじみた動きは出来ない。いまのはかなり焦った。

 目標を見失い、まっすぐ突っ込んで壁に衝突する魔物。前転して体制を整えた飛鳥は左の方の腰にぶら下げていた刃のようなものを取り、それを銃身に取り付ける。銃剣(ガンソード)になったそれを剣を持つような持ち方に変え、ヒュンッ、と横に薙ぐように振る。

 それをした途端、シャキンッ! という金属音がしたかと思うと、刃の部分が高温を帯び、赤く染まる。低い体制をとり、それを大きく振りかぶるように上段で構える。

 こちらも体制を取り戻したのか、魔物が闘牛のように構えるとものすごいスピードで突っ込む。

 飛鳥は避けない。いや、避ける必要がなかった。

 上段に構えた銃剣を、一気に下へと振りぬく。


 魔物の顔にそれが食い込む。と、まるで愁が切るように綺麗に切断される。


 ガッ! と強い衝撃があったが、踏み留める。

 やがて高温を帯びた剣が切り裂くと、魔物の体が灰になり、崩れる。


「・・・・・依頼完了、なのか」


 ほんの少し首を傾げ、飛鳥はそう呟いた。




学校が始まるとやっぱり更新は難しいですね。割と時間がなくて結構大変です。でも、諦めずに更新し続けますよ〜(もう一方の方は止まってしまっていますが・・・)

飛鳥の活躍、どうだったでしょうか。ちょっと少ない気もしますが、そこら辺はご勘弁を。

それでは、また次回。

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