第7話
外が見える場所から山田は雨が降りしきる光景を見ていた。昼ごはんの時間だからと思って買ったなんとなく選んだパンも食べることなく呆然と構内にあるベンチに座っていた。それを搔き消すように山田の携帯に着信音が鳴り響く。相手は亀澤であった。山田は見た瞬間ため息をついたが、出ることにした。
「もしもし」
「亀澤だ、もうレジュメは出来てるだろうな」
「あー今日すぐ持っていきます」
「分かった、それとお前に渡すものがある」
「渡すもの?」
「いいから、早くレジュメを持って来い」
亀澤の手元には、「手紙」が握られていた。
レジュメを手に持ち山田は密会へと向かう。行きたくないが、これが終わらなければ少しも気持ちは晴れない。山田は眉間にシワを寄せながら亀澤と約束した人気のない場所へ。既に亀澤がその場所にいると分かり、少し走りながら彼の元へ向かった。
「すみません、遅れました」
山田はレジュメを渡した。これでまた何かを言われたら…と思ったがどうやらそれはクリアしたみたいだ。そう本題はこれではない。
「やっとか、まぁ座れよ」
「はい」
密会を始めようと言わんばかりの緊張感を持ちながら亀澤の隣に座った。
「どうやら上本から貰った手紙を見ていないようだな、なぜだ?」
ここまで悩んでいた上本との関係を見透かされていたかのように亀澤に問われた。山田は答えに迷ったが、正直に答えることにした。
「あれは友達から貰ったものだったので、上本さんの手紙だとは思いませんでした。でも、さっき上本さんの手紙だと知りました」
「菊池から貰ったんだろ、友達なんだからすぐは見なかったのか?」
「菊池には…ラブレターのドッキリを受けていて、ちょっとそれが…」
「だからか、菊池もやけに口数が減っておかしいと思ったんだよ、あいつとは一緒にホームステイするから今の内に話しておきたかったが、この間も何かに怯えて」
山田は、それは亀澤の雰囲気ではないかと思った。亀澤はそのまま話を続けた。
「そうか、ただな…あのことで上本は相当落ち込んでいたからな」
「そんなに重大な手紙だったんですか?」
「さっき俺に渡されたんだよ…だから、はい」
これまで比較的仲が良かった上本からの手紙、なぜ直接言葉で伝えることなく手紙だったのか、そして山田が無くした後に上本を何を書いたのか。
「なくしたんだろ?上本から聞いたぞ」
もうドッキリに恐れる必要はない。山田はすぐさま『手紙』を開いた。
山田くんへ
こうして手紙を書くのは、前にもありましたが今回で最後になりそうです
実は今年中に大学を休学にすることを決めました。というのも以前から私は手が震えるようになってしまい、とても今の状態では学べる状態ではありません。本当は今学期終わりまでと決めていましたが、もう限界です。亀澤くんと菊池くんに相談したところ、彼らは来月から留学してしまいます。そこで名前が挙がったのがあなたでした。ただ、なかなか直接言えることが出来なかったので手紙には助けてほしいというお願いをしていましたが、それもよく考えると図々しいお願いですね。私にとって山田くんは、とても大きな存在でした。例えると飛べない鳥のような私に翼をくれるような存在でした。でも、こういった文章、あなたは嫌いですね。
申し訳ありません。
上本より
読み終わると山田は自然にため息をついていた。自分の不甲斐なさに呆れたからである。亀澤はこの遠回しの手紙に追記を加えた。
「菊池は実は面と向かって告白できない上本を支えていた、上本にとって菊池は唯一の幼馴染みだからな」
「えっ、そうなんですか?」
「なんだ、知らないのか…」
「でも、菊池はお調子者だし、上本さんはどうぜ嫌われたと思ってたし…」
「そうやって人を決めつけるのはよくないぞ、お前はなんでも決めつけているから相手の気持ちが分からないんだよ」
「いや、だって…」
「自分から相手のことを知ろうとしているか?」
「…でも、話を」
「何かを言い返したい気持ちは分かる、でも、現実は違うんだ」
このとき山田はこれまでの相手に抱いていた感情は全て自分で決めつけていたものだと分かった。自分が度々避けられていること、手紙を嘘だと決めつけて見なかったこと、そして亀澤のことを悪く思っていたこと、全ては山田自身が会話なく勝手に答えを出してしまったことで、すれ違いを生んでしまった。
「まずは相手の話をしっかり聞いてあげることが大切じゃないか」
「はい」
「ただ、そんなお前を認めてくれる人がいるんだ、お前もちょっとは気になってたんだろ」
「まぁ、はい」
「しっかり気持ちを伝えないとな」
「はい」
亀澤さんは本当に人のことをよく見ていると感じた。何から何まで見透かされていたし、通りで人が集まる訳だ。山田は明日上本にこれまでの反省も込めて、思いを伝えることにした。