第6話
気づけば「手紙」を貰ってから1週間が経っていた。先週まで話していた菊池と片岡には避けられている感じがした。そう感じたのは、いつものクセで彼らの近くの席に座ってしまったとき、挨拶はなかった。話し掛けても来なかった。
講義終わり、帰る時に菊池と片岡と目が合ったが二人とも目を逸らした。避けられているのは確実だ。すると目の前に上本が通った。彼女はいつもと違う席に座っていたのだろうか。自分のことで頭がいっぱいだったため覚えていないが、離れた場所に座っていた理由を考えると完全に避けられている。だが、自然と言葉を発してしまった。
「上本さん!」
「あっ!ごめんなさい」
「いや、謝るのは僕の方です。ごめんなさい」
廊下で誠心誠意上本に対して謝った。それに応えるよう上本は許した。
「いや、もういいの」
山田は上本が怒っているのか、呆れて許しているのか分からなかった。ただ、どちらにせよ山田に非があったことには変わらないが「いや、もういいの」という言葉は、山田が上本に対して言ってしまった一言の罪を終わらせるということだと感じていた。上本との気不味い関係は終わったはずだった。
「もしかして…手紙を見てくれた?」
「手紙?あれは本当に上本さんのだったんですね」
「手紙」は、本当に上本が書いたものであった。これまで菊池と片岡のことを恨んでいたが、この瞬間その気持ちはなくなった。そして、今すぐにでも上本の気持ちに応えたいと鞄の中身から手紙を探した。だが、その手紙を見つけることは出来なかった。
「持っててくれたんだね」
「はい…あれ?」
人は探し物をしている時、ものが見つからないと、こっちはまだ探していない、無ければ、こっちはまだ探していないだろうと都合良く決めつけ探すことをループする。そして、本当に何もないと分かった瞬間絶望を覚える。
「ごめんなさい、ないです」
「…そう、分かった。ごめんね」
冬の寒い日、この日も手袋をはめていた上本は去っていった。その後ろ姿からはどこか寂しく切ない。そのような姿にさせてしまった自分を悔やんだ。
「はぁ…何をやっているんだ、俺は」
大きな独り言がここまでの不甲斐なさを物語っていた。手紙をもらってから亀澤さんに言われたレジュメを忘れ、菊池と片岡との関係も悪化。上本さんから貰った手紙も無くしてしまった。普段はしないが自然にベンチに下を向いて座っていた。思えば手紙をもらった先週も同じように過ごした覚えがある。すると雨が降ってきた。山田を心情を表すように突然の大雨、山田は屋内へ避難した。