第4話
次の日、山田はゼミを受けに大学まで来ていた。昨日上本にはとんでもないことを言ってしまった。今日もし来たら謝らないと…。そのことだけを頭にゼミ室へ向かった。
始まるや否や今回のテーマをまとめる一学年上の荒木が話しているが何も頭に入ってこない。
「山田くん」
「はい?」
自分がなぜ発表の司会・荒木から呼ばれているか分からなかった。戸惑っているとペンを落とす音がゼミ室に響いた。ペンを落としたのは上本である。この日も手袋をしていた。隣にいた亀澤がすかさず拾い上げる。
「あーごめん」
「大丈夫か?」
上本が大丈夫という頷きを終えた後、視線は山田に集まっていた。
「山田、先週言ったレジュメ持ってきたよな」
亀澤の言葉で山田は今日レジュメを提出しなければいけないことを思い出した。何せ今日の山田の目的は上本に謝ることであったからだ。
「あっ!すみません、忘れました」
「お前、来週の発表どうすんだよ」
亀澤の逆鱗を抑えること、そして上本に早く謝まるために事態を早急に終わらせようとした山田は適当に返答した。
「はい、来週には必ず持っていきます」
しかし、この一言が更に逆鱗に触れてしまったと分かるように亀澤は机を叩いた。
「来週発表なんだからそれまでに持ってこないとダメだろ!」
いつも厳しい人が山田に向かって訴えていた。だったら自分でやれよと少し思い、今は亀澤さんより上本さんに謝らないといけないとも少し思った。そうやって聞いているフリをしていると説教は終わっていた。
「いいか!ちゃんと持って来いよ」
「はい、すみません」
「頼むぞ」
タイミングよく講義時間が終わり、亀澤が捨てセリフを吐くようにゼミ室から出て行った。そして、後を追うように隣にいた上本がゼミ室を出ようとする。そこで山田は呼び止め、謝ろうとした。
「あっ、上本さん…昨日は」
「ごめんなさい!」
上本はゼミ室から出ていった。謝る機会さえ与えてくれなかったという怒りと自分が言った一言がいかに軽率且つ上本さんを遠ざけてしまった言葉であったと反省するように山田はため息をついた。