第3話
講義終わりに山田はいつも菊池と昼食を食べに行く。だが、この日は雰囲気が違った。原因は『手紙』である。
「とりあえず受け取ってやるよ、でも絶対見ないからな」
「お前あの言い方はないだろ、しかも上本さんと同じゼミだろ」
「だって本当じゃん」
「あの人と同じアパートなんだから…」
「別に何もないだろ…」
「お前のせいで俺も会うのが気まずくなるだろ」
「第一、そもそも怪しいんだよ、お前の馬鹿みたいな手紙のせいで」
「…とりあえず、あの手紙は絶対見ろ。分かったな」
「さぁー、どうかな…」
「頼むぞ…じゃあ、そろそろ行くよ」
「あれ昼飯は?」
「ちょっと用事だし、今のお前とは食べたくないな…」
自分で怪しい手紙を出しておいて、都合の良い男だなと山田は思った。いつもの調子付いた表情ではなく何かに悩んでいる、何か晴れないことがあるのか気になったが、それは少なくとも菊池自身の言動に問題があることだ思いながら、大学に併設されたコンビニで昼食を買って外のベンチに座った。なんとなく買った菓子パンを開けてちぎって口に運ぶ。前を見ていると空が曇っていることに気付いた。まさに山田の心情を表していた。
一方、山田と別れた菊池はある人物と会っていた。その人物とは同じアパートに住んでいる上本であった。
「ごめんね」
「いや、大丈夫です。とりあえず手紙は渡しておきました」
「そう…」
「上本さん、すみません!」
「えっ、どうしたの?急に」
「俺…前に山田にラブレターを渡したドッキリをしたんです、そしたら思ったよりも怒っちゃって…でもなかなか謝れなくて…もしかしたら手紙も見てもらえないかもしれません」
「そう…」
山田はいつも座らないベンチからなんとなく景色を眺めていると見たことのある二人が一緒に歩いているところを見つける。
菊池と上本だ。
やっぱりあれで噂にならない方がおかしいと思っていたが、そこにもう一人の人物が現れる。亀澤という男である。彼は、山田と上本が所属するゼミのリーダーを務めており、非常に厳しい。彼が加わると「話す」より「密会」という言葉がピッタリだ。顔がバレると手紙のことやらゼミの課題のことやら難癖をつけてきそうだと感じた山田は持っていたパンを食べ切ることなくその場から去った。
「で、ゼミはどうするんだ?」
「やっぱり今のままだと続けるのは難しいから休もうかなって思ってる」
「そうか…」
亀澤は上本の休もうかなという言葉に落胆した。
「ごめんね、発表も近いのに、こんなわがまま」
「いや、良いんだよ、ただあとは山田が手紙でなんて言うかだな…」
「やっぱりやめよう、山田くんも苦しめることになるし…」
上本のこの一言に、亀澤は強い意志を示すように否定した
「いや、俺も同じゼミメンバーに不安を抱えたまま留学は出来ない、菊池もそうだろ?」
「は、はい」
亀澤の威圧に菊池は山田にドッキリを仕掛けた重要なミスを伝えることを忘れてしまった。