第1話
冷たい風が吹く二月…
空は雲ひとつなく太陽が眩しいのに寒さを感じる頃、大学二年生の山田と菊池は久々に出会い、自宅へと通ずる同じ帰り道を歩いていた。
長い憂鬱な日々であった。山田はテストを終え、菊池は留学から帰ってきた。互いに今日から迎える春休みを噛みしめるように二人は歩いていると菊池が沈黙を払うように話した。
「いやーやっと春休みだね」
山田は最初返す言葉が見つからなかったが、何か言わないといけないと思い他愛もない言葉でなんとか返した。
「そうだな、じゃあまた四月だな」
菊池もその返答に対して言葉を用意してなかったが、なんとか返した。
「おう、またね」
二人は互いに少しだけ手を振り離れていった。完全に目を合わせることはなかったが、一秒に満たないくらい顔を合わせて去って行った。ただ、一緒に帰る仲であることから、「次に会うのは四月か」とどこか寂しさを感じながら山田はアパートへ向かった。一人暮らしを始めて早二年が経とうとしている。大学からの帰り道にも郵便ポストの開け方にもすっかり慣れた。アパートに帰り、いつものように郵便ポストを開けると手紙を見つけた。
「誰だろう…あっ!」
そこには、かつて見慣れた名前が書かれていた。山田は急いで自分の部屋である203号室に入り、靴を脱いだ。リビングに入ると真っ先にその手紙を素手で開いた。
山田くんへ
こうして手紙を出すのは久々ですね。
あの時貰った手紙読みました。改めてありがとう。
今は順調に回復していて、来学期からまた復帰できるようになりました。
私は、あの時期とても辛い時期でした。
でも、最後はあなたと話せて、それまであった悲しみだけの気持ちは少し喜びに変わりました
まるで雨が降っていた場所が晴れて、虹が生まれた気がします。
今でもあなたへの気持ちは変わりません。
もし、あなたの気持ちも変わらないのであれば、また会いましょう。
上本より
手紙を読んで山田は自然と表情が緩んでいた。上本という人物は山田と同じ学部のゼミに所属する女性、学年は山田の一つ上だった。上本とは同じ課題を調べたり、発表を一緒に行ったりと他と先輩と比べて距離が近い存在であった。
だが、一年生の十二月に上本は大学から姿を消した。それは様々なものがすれ違い、取り返しがつかない程の間違いをそれぞれがしてしまったからだ。