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【ここは魔法と剣の世界】 part4

走る。走る。走る。


命のため、友情のため、彼女はただひたすらと走る。


「もうやだ!こんなの嫌だ!!キョウカちゃん...」


高い塀で囲まれていて、学校に出口は他には無い。どこへ走ろうと無駄だった。


しかし彼女には走るしか無かった。無我夢中だった。


戦闘音は先程よりも激しくなっている。


生徒こそまだ居ないが、教員たちが襲われ、戦っているのだ。

そして彼女がもう少し冷静なら気づいただろう。()()()()()()()()()()()()()()()



幼い少女の体力は限界を迎え、塀にもたれかかるようにして倒れ込む。


男達が追ってくるのが見える。何が何でも皆殺しにするつもりなのか。


(もう...いいや...)


後ろには高い塀、少女の越えられるものでは無い。


そして敵は、プロの魔法使いだったジュンコ先生すら倒す程の集団。


助かる...はずが、ない。


(ごめんね、キョウカちゃん...私もそっちに逝くから...)


少女の目からは涙が次々と溢れ出る。


賊はもうすぐ近くだ。


それは逃れられない死。


死が近づいてきているのだ。


非常で冷酷な剣が、キエルの首を斬り落と...





「え」


さなかった。いや、それを遮る者が居たのだ。


キエルの目の前にはいつの間にか黒いロングコートに身を包んだ一人の男が立っていた。


彼が数々の剣を、不思議な形の深碧に輝くラインが二本入った謎の物体で受け止めていた。


賊も彼の瞬間的な登場に驚愕しているようだ。


動揺し、つい、一瞬力が抜ける。


コートの男はそれを見逃さない。


彼らの剣を彈き、奴らを蹴り飛ばす。


男たちは吹き飛び、校舎へと激突する。


「貴様何者だ!」


後続が尋ねる。仲間の撃退を見て、敵は次々と集まってきている。


「知るか」


「殺せ!!」


十数人もの男達が一斉に剣を抜き、襲いかかる。


数の暴力!まさに死が迫り来る。


プロの魔法使いすら簡単に殺す圧倒的絶望。


だが、黒コート男も剣を抜く。


それは戦う意思。


構わず、斬撃が男を襲う。


カキィーーーン!!


剣と剣が交わる金属音が鳴り響く。


しかし敵は一人ではない。


第二第三の剣撃が男の首を狙う。


しかし()()()()()()()()()()()()()


慌てて上を見上げる。


ロングコートをはためかせ、男は空にいた。


カチャリ。と例の不思議な武器を構える。


0676(ゼロロクナナロク)式破壊式術式.....」


滅紫の光の帯がギュイーンと唸り、武器先に集まっていく。


未知の武器と不気味な男に賊らは動揺し、逃げようとする。


「始動!!」


ズババァァァァドゥゥゥーー!!!!!


巨大なエネルギー砲が男たちを横なぎに襲う。


片っ端からそれらの体は燃え上がり、一瞬にして焦げ尽きる。


地面はえぐれ、数本の焦げた骨だけがそこには残った。


スタッ


男は着地すると、今度は校舎へ向かって、もう一度構える。


今の今まで度肝を抜かれていたキエルははっとし、慌てて男に駆け寄る。


「やめて!中には先生たちも居るの!」


「もう居ないさ」


「え。」


あのエネルギー砲が再び放たれる。巨大な(いかづち)が校舎に衝突するや否や、壁が次々と崩れ落ちる。


まるで冗談のように簡単に崩れる様があの武器の恐ろしさを物語る。


崩れる校舎からは、数々の人がこぼれ落ちるのが見える。


彼らは皆、大地に激突し、瓦礫に飲まれていく。助かる術はないだろう。


ものの数秒で、名門ジュノークの立派な校舎は瓦礫の山と化した。


これを一人の男がやったと思うと、身の毛がよだつ。


そしてさらに恐ろしいことに、沢山の人を殺しておきながら男は、何食わぬ顔で立ち去ろうとしている。まるで感情が死滅しているかのようだ。


「...待って」


彼女の心の中はぐちゃぐちゃだ。一瞬にして親友、日常、学校を失った。


「待ってよ!!」


しかし彼女は言わずにはいられない。この目の前の殺人男(マーダー)に向かって。


「殺すことなんてなかったじゃない!しかもあんなに残酷に...。拘束して警備に引き渡せば良かったじゃない!校舎の破壊もそうよ!中には先生たちが居た!まだ生きていたかもしれないのに!丸ごと破壊するなんてあんまりよ!あなたがしたのは人助けなんかじゃない!ただの自己満足よ!!」


「...」


彼女はただ悲しかった。キョウカの仇とかはどうでもよくなっていた。目の前にいるこの男がしたことは、あの賊と何一つ変わらないのだから。


人殺しを人殺しでやめさせるなんて間違っている。それは悲しみのスパイラルをうむだけだ。


「お前の言う通りだ」


「え?」


「俺は人助けをした覚えはない。全ては俺の目的のため」


「目、的...?」


「...。

街は丸ごと崩壊している。賊はもう一人も居ないが、一応気をつけろよ」


そう言い残し、男はあっさりと走り去っていく。あまりの速さに、まるで消えたかのようだ。


その場には孤独な少女の、絶望と号哭のみが残ったのだった。

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