【ここは魔法と剣の世界】 part2
学校のチャイムが辺りに鳴り響く。一年で新学期初日のみに流れる、特別なチャイムだ。
近所の人々は、街の新たな顔になる若者を見ようと、家々から覗き出ていた。
テンションの高い者の中には、生徒に呼びかけたり、手を振ったりしている者も少なくはなかった。
キエルも珍しくはしゃいでいた。
普段なら絶対しないだろうが、おばちゃん達に手を振り返したりなんかしている。
「ヤホ!合格おめでとー」
「キョウカちゃんおはよう!合格おめでとう」
校門の前で、知っている癖毛が待っていた。
残念ながらクラスは違ったようだが、友達と一緒に学校に通う喜びに、キエルは頬を染める。
色々なことを話しながら、二人はジュノーク学園の階段を上がる。
友達といえど、まだお互いのことをあまり知っている訳では無い。
(クラスも違うし、ちゃんと仲良くなれるか不安だな)
今まで経験しなかった分、キエルは良い友達になれる自信がなかった。
話す機会もどんどん減っていって捨てられて、また一人になるのではと心配しているのだ。
「じゃあな!放課後待ってろよ?一緒に帰ろーぜ」
「え!?うん!!また放課後ね!」
どうやら杞憂になりそうだ。
折角こんないい子と友達になれたので、大事にしていこうと思い、キエルは教室へと入る。
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〜そして〜
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「私が担任のジュンコちゃんだ。これからよろしく!」
クラスの担任は明るく、気さくそうな人だった。
これなら人見知りな自分でも楽しく過ごせそうだと、キエルは胸を撫で下ろす。
「うちは名門という肩書きに支配されているから、早速初日から授業だ。一時間目は「魔法学」よ。座学になるけどがんば〜」
この学校の先生は全員が全員、一流以上の魔法使いだ。ジュンコも適当そうに見えて、本当はかなりの魔法使いなのだろう。
事実、彼女の授業はとても分かりやすく、一時間があっという間に過ぎた。
「今日の授業はここまで、次は別な先生で「数学」よ。六時間目はお楽しみの「魔法実技」だから、それまでがんば〜」
手をヒラヒラと振って彼女は教室を出ていく。
(流石名門校...)
初日からのテンポにキエルは目を回す。
でも確かに実技は楽しみだし、座学も面白そうだ。元々勉強は好きだったし、苦にはならないだろう。
彼女の予想通り、数学、読み書き、魔物学、歴史と、あっという間に一日は過ぎ去った。
中でも面白かったのは「魔物学」だった。
野生に数多く生息する様々な魔物達から身を守る術を教えてもらった。
可愛い魔物も沢山載っていたので、お気に入りの授業になりそうだ。
そして六時間目の「魔法実技」の時間となり、彼女達は校庭へと集合させられた。
待ちに待った時間だ。
実技が面白そうだというのもあるが、理由がもうひとつある。それは...
「ヨッ!息してるか?」
「元気だよ、キョウカちゃん」
実技は広い校庭で行う。よって、全クラス合同なのだ。
小学生の頃トラウマだった、「好きな子と二人一組になりなさーい」に立ち向かえるようになっただけで素晴らしいのに、キョウカと一緒ならなんだって楽しそうだ。
例によって二人組みを組まされ、準備体操へと入る。
「あたいさー、今まで友達とかあんまりいなかったから、こういうの初めてで嬉しいっ!」
「え?キョウカちゃん友達多そうなのに。話しかけてきたのもキョウカちゃんだったし」
「あれはお前があまりに面白いことしてるから、つい」
照れくさそうにキョウカは笑う。
そうか、とキエルは思う。
(キョウカちゃんも私と同じだったんだ)
彼女が抱いた気持ちは初めてのものだったが、心地の良いその感情に心がふわふわする。
準備体操も終わり、早速実習へと移行する。
「いいかい?空気中のマナと、自分の中の魔力をシンクロさせるんだ」
教えてくれるのはリンヌ先生。雑誌など、いたるところで取り上げられている有名エリート魔法使いだ。
今日は初日なので、魔法のそもそもの発動のさせ方をやるようだ。
先生の言う通りに、目を閉じ、集中する。
大気に点在するマナ。幼い頃から何となく感じてきたそれに、今一度向き合う。
(何となくだけど、感じる...!マナの強いエネルギーを)
すると体内からまた違ったエネルギーが湧いてくるのがわかる。これが先生の言っていた、自分の魔力に違いない。
「どうかな?感じた子も居れば、わかんない子も居るかな?こればっかりは感覚だ、じきに慣れるさ」
見るとキョウカはまだ手こずっているみたいだ。
後で教えてあげようとキエルは思う。
これでまた二人の時間が増えるぞ!
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〜そして〜
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放課後、二人は約束通り一緒に帰った。
実技でキエラに負けたことをキョウカは気にしていたようで、まるで漫画のキャラクターみたいに口をとんがらせている。
「明日早く来て一緒に練習しようよ。私も付き合うから」
その言葉に、キョウカの顔はぱぁーと明るくなる。
「ほんと!?じゃあ明日家まで迎えに行くから、ちゃんと起きてろよ?」
「家...」
「あれ、やだった?」
「ううん!違うの。明日は一緒に登校できるんだなって、嬉しくて」
「ははー!そんなことなら毎日だって迎えに行くぜ?一緒に登校しよう」
「約束だよ?」
「あいあい、約束だ。じゃあまた明日なぁ!」
「またね」
キエルを家まで送り届け、キョウカは自分の帰路へと着く。
家は近いのだろうか?今度遊びに行ってみたいな。
そんなことを思いながら、彼女は家へと帰る。