【ここは魔法と剣の世界】 part1
カタカタカタ...
通りから聞こえる馬車の車輪の音に、少女は夢から覚める。
いつもの彼女ならこんな音で起きたりはしないのだが、今日は特別だ。
魔法使い育成高校への入学試験という予定を控えた彼女は、期待と不安から眠りが浅かったようだ。
「あら、キエル!もう起きてきたの?ご飯すぐ作るから待ってなさい」
「おはよう、ママ」
台所のテーブルに着き、目の前に置かれたパンフレットを今一度開く。
「セイント・ジュノーク・学園」、彼女が今日受ける学校の名だ。先月十四歳になった彼女は、待ちに待った魔法学校への入学条件を満たしたのだった。
そして今日、その試験に合格すれば、彼女も魔法使いへの道に進むことが出来る。ねぼすけが治るには十分な理由だろう。
「行ってきます!」
「頑張るのよ、応援しているからね!」
朝食を食べ終え、キエルは揚々と玄関を飛び出す。
この世界はあまりにも残酷だ。自分の身を自分で守れない者に待つのは死のみだ。
だから、生活に余裕のある家は子供を学校へと入れる。
魔法学校や剣術学校、今やその種類は様々である。
高まる需要に、学園の立場はかなり強いものへとなっていった。
そんな中でも、数々の名のある戦士を出した学園は「名門校」としてその地位を絶対のものにしていった。
もはや政治家に並ぶレベルである。
そんな名門校はとても人気があり、キエルを含めた街中の若者の憧れの的だ。
実際、この日の街はジュノーク学園に向かう受験生達でいっぱいだ。
(こんなに沢山の人が受けるんだ。私大丈夫かな)
ライバルが多いほど、受かる確率は下がる。
しかし弱気になっていても待っているのは負けだ。
頬をパンパンッと叩き、キエルは自分を鼓舞する。
「ははー!あんた緊張しているの!?可愛いね〜」
ハイテンションで話しかけてきたのは同じ歳ぐらいの女の子だった。
彼女は小柄なキエルより頭ひとつ分ぐらい背が高く、オレンジ色の癖毛が特徴的だった。
歩く方向と見た目の年齢から、彼女もまた受験生であることが推測できた。
「昔から不安になりそうな時はこうするんだ。なんかシャキッとするよ」
「そうなの?どれ、あたいも」
真似をして、彼女も自分の頬をパンパンッと叩く。
「ね、するでしょ」
これは彼女の母が教えてくれた取っておきのまじないだ。彼女はどうだと言わんばかりに胸をはる。
「いや〜あんまりかな!」
「そ、そう...」
「あんた面白いね!名前は?」
「私はキエル。キエル・クロスエンドよ」
「あたいはキョウカ・スティファズてんだ。気軽に名前で呼んでよ」
「よろしくね。あなたも受験生?」
「そ!お互い頑張ろうぜ」
いきなり友達ができて、キエルは内心で喜びの舞を舞う。
彼女は基本内気なので、昔から友達があまり出来なかった。
キョウカと一緒なら楽しい学園生活が待っているだろう。
暫く彼女と話していたら、学校の校門が現れた。
「じゃ!あたいの受験教室あっちだから」
「うん、またね!」
今朝は不安と期待が半々だったが、今は違う。
友達との楽しい学園生活、それだけが彼女の心を埋め尽していた。
「よしっ!頑張ろう!」
受験室の扉を勢いよく開ける。
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〜数日後〜
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「凄いじゃないか!おめでとう!」
「おめでとう、キエル」
「パパ、ママ、ありがとう!2人が応援してくれたおかげだよ!」
無事に合格通知が届き、一家は大盛り上がりだ。
最初、通知を見た時はあまりの嬉しさに母親とキエラは泣き出してしまった。
帰宅した父親は号泣する家族に驚いたが、事情を聞いてほっとすると、夕食にご馳走を作ってくれ、今やちょっとしたパーティーのようだ。
「パパは心からお前を誇りに思うぞ。楽しい学園生活になるといいな」
「私は少し心配だわ。この子内気だから、友達とかちゃんとできるかしら」
「友達ならもうできたよ!その子も合格だって」
「あらほんと?なら尚更楽しみね」
「うん!私わかる。絶対に、楽しい日々が待っているんだって!最っ高な学園生活のスタートよ!」
主人公はpart4で出ます。どうか一話切りせずに、雄大な心で読み進めてみてください。序盤が地味なのは心得ておりますが、世界観の説明のために仕方ないのです。゜(。≧△≦。)゜。