【漆黒の闇の中から】
真っ暗で、静寂と孤独に包まれた世界に...男は立っていた。
いや、厳密には少し違うか。
漆黒なのは男の心だった。真っ暗な自分の中で、虚に自分を見つめていた。
よく、未来に希望を持てないことを「光がない」なんて言うが、男はその言葉の意味を痛感していた。
未来に望む気すら起きないのは、彼に過去が存在しないことも理由のひとつだろう。
彼の人生には時間の流れというモノがそもそも無かったのだ。
それがどれくらい辛いことか。
比較することも出来ず、羨むことも出来ず、男はただ苦しんでいた。
「絶望」という言葉が脳裏をよぎったが、すぐに否定する。
そもそも「望」がないなら、それが「絶する」ことはありえない。
過去や未来を知らず、望むことも知らず、自分という存在すら知らないこの男に、ある日彼は接触した。
彼がしたことは単純だった。
たったひとつの提案をしただけだった。
彼の提案は異常だった。
理性のある人間なら一言で蹴るだろう。
「非現実的」という言葉がついてくるような代物だった。
男も、それが常軌を逸していることは理解していた。
しかし乗るしかなかった。
「自分」という存在を確立させるために。
最後に彼は、旅のお供にと男に一本の武器を渡した。
深碧に輝く二本のラインの入った、不思議な形のものだった。
彼はそれを「ショットガン」と呼ばれる物だと教えた。
「目的」と「手段」を与えられた男は自分の心から出て、外の世界へと踏み出すのだった。