俺の婚約者はいつも可愛い
艶めくストロベリーブロンドに、宝石すら敵わない輝きを秘めたエメラルドの瞳。伸びた背筋は凛として、ライラックのドレスが薄紅色の頬に映える。
彼女の口元が弧を描いて、手元のカップから立ち上る湯気に揺らいで見えた。そのあまりに綺麗で可愛い笑みに魂を抜かれた俺は、無遠慮にもほどがある視線をキーラに注いでしまった。
「……本当に、貴方は可愛らしく笑うよな」
直球にすぎる賛辞に、キーラは真っ赤になった顔を上げる。
「急に何をおっしゃるのですか」
キーラ・メルクリオ侯爵令嬢。大切な大切な、俺の婚約者。
この人はどうも、自身のことを感情を隠すことに長け、口数も少ないつまらない女だと思っている節がある。
全然そんなことはないのにな。エメラルドの瞳は何よりも雄弁にものを語り、小さな笑みは喜びを伝えてくれる。
「うまかったか、それ」
「は、はい。美味しいです」
「そうか、良かった。貴方が喜んでくれると、俺は心底嬉しいんだ」
キーラは真っ赤になって口をパクパクさせたあと、ストロベリーブロンドの長い睫毛を伏せた。
はあ……可愛い。死ぬほど可愛い。俺の贈ったドレスとアクセサリーを身につけてくれたことが嬉しくて、つい先ほども出会い頭に絶賛したら同じ反応が返ってきたんだよな。
俺は伸びきった鼻の下を隠すために、今この時のために用意された最高級の紅茶を啜った。
そう。今日は何と、キーラが俺の家に初めて遊びにきてくれているのだ。
婚約者殿の訪問につきもてなしの準備をするよう使用人達に告げたら、雇って一年の彼らはそれはもう張り切って用意を整えてくれた。俺は茶だの菓子だのはどこに行けば売っているのかすらわからないので、正直に言って本当に助かった。
何せこうしてキーラの笑顔を拝むことができたのだから。
「久しぶりに会えると嬉しいもんだな。俺は今、自分でも呆れるくらいに浮かれてる」
年が明けた頃から仕事が忙しくなり、最後に顔を見た時から一ヶ月以上が経過していた。
以前なら毎日でも贈り物をしていたところだが、それは困るとはっきり言われてしまって打つ手がなかった。世間では婚約者をそんなに長く放置していたら関係の危機に陥ると思うんだが、俺とキーラに常識は当てはまらない。お互いに少々変わり者と言うこともあるが、何よりキーラは俺のことを何とも思っていないので、会えなくても彼女の方から寂しがるようなことはないのだ。
……駄目だ。自分で考えておいて凹んできた。
キーラのような深窓のお姫様が、俺みたいなのと結婚してくれると言うんだ。凹んでいる暇があるなら好きになってもらえるように努力すればいい。それだけだ。
「あの……! 私、さ、さび」
何かを決意したように目を合わせてくれたと思ったら、キーラはすぐに続く言葉を言い淀んだ。
さび……錆? なんだ、何かの言い間違いか?
「さ……むい、と言おうとして、噛みました」
キーラは蚊の鳴くような声でそう述べると、肩を小さくして目を逸らしてしまった。
暖炉も焚いて準備万端だと思っていたんだが、キーラには寒かったのか。大変だ!
「悪い、気付かなかった! 暖炉の前に行こう!」
俺はキーラの手を取って立たせると、すぐに暖炉の側へと連れて行った。
窓辺の椅子を持ってきて座ってもらい、取り急ぎ膝掛けで上半身を包んでやる。顔色は悪くなさそうだが大丈夫だろうか。
女性は冷やしちゃいけないって言うもんな。何よりも大切な人に寒い思いをさせるなんてとんだ失態だ。
「まだ寒いか? 毛布を持ってくるか」
「いっ、いえ……! これで十分です。あの、お手を煩わせてしまって、ごめんなさい……」
キーラは何やら落ち込んだ様子で俯いてしまった。そんなに遠慮することはないのに、俺の気が利かないせいでなかなかうまくいかないな。
「謝るようなことじゃないだろう? むしろ俺が悪かったんだ」
「そんなこと! とても丁寧なおもてなしを頂いています。お茶もお菓子も、大変美味しいです」
「その辺は俺の手柄じゃないよ。けどまあ、そうだな。そう言ってくれるなら……貴方の隣に座ってもいいかい」
キーラは少しだけ戸惑うように瞳を揺らした後、すぐに微笑んで頷いてくれた。
はあ……。俺の婚約者が相変わらず天使だ。




