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未だに言えないのです

 近頃アメデオと会っていない。

 仕事が忙しくなるのでしばらく失礼すると告げられてから早一ヶ月。婚約してからの二ヶ月を彼と過ごした私はどうやらすっかり賑やかさに慣れていたようで、驚くべきことに寂しいとすら感じてしまっている。

 やりたいこともやるべきことも沢山あるのに。なんとなく空虚で、手持ち無沙汰のように思えるのだ。


「恋ですね……」


 と言うようなことを話したところ、妹のロレッタが目を細めて呟くので、私はつい頬を染めてしまった。

 私たちはサンルームでお茶を楽しんでいる。真冬の昼間でもこの場所は暖かく朗らかな日差しが照らしてくれるので、私たちの幼い頃からのお気に入りだ。

 ロレッタは私より二つ年下の十七歳で、ブロンドの髪と若草色の瞳を持った明るくて気さくな女の子。怖そうな印象が先立つ姉と違ってとても可愛らしい妹は、既に婚約が決まって一年後には嫁ぐ予定になっている。


「姉様も変わりましたね。すっごく可愛いです!」

「ロレッタ、からかわないで」

「からかってません、本当のことを言っただけですから。あのバカ王子と結婚しなくて済んで本当に良かったですね」


 ロレッタは時々とんでもなく口が悪い。陰口を言うのも馬鹿馬鹿しかったので、私から婚約中に王子殿下について話題に上らせることは殆どなかったのだが、その分まで妹がこき下ろしてくれていたのは記憶に新しい。


「お幸せそうで良かったです。恋って素敵なものでしょう?」


 なんのてらいもない笑みを浮かべるロレッタを前に、私は言葉を詰まらせた。

 ロレッタと婚約者のサンテ伯爵とは家同士の決めた政略結婚になるのだけど、そもそもが愛し合っている同士だったのでとんとん拍子に話が進んだらしい。

 私と第一王子殿下の冷え切った仲を慮って、かつてのロレッタは恋人についての惚気をほとんど口にしなかった。その気遣いに思い至ったのは最近になって話してくれるようになったためで、我が妹ながら素敵な女性だなと感動したものだ。

 この子のようにさっぱりとして素直な女性が恋人だったら、サンテ伯爵も毎日が楽しいことだろう。いいな。美形同士お似合いで、愛し合う爽やかなカップル。


「……私って、自分のことをもっと勇気ある人間だと思っていたわ」


 反対に、私の何とも臆病ででうじうじとしたことか。

 さっさと好きと言えばいいのに、未だに勇気が持てずにまごついているのだから。

 言い訳をさせてもらうならば「今なら言える!」という時もあったのに、何故か邪魔が入ったりもしたのだけど、後から言い出せなかったのは私が臆病風に吹かれたからだ。


「そのくせ、寂しいなんて思ってるの。こんなの甘えだわ。情けない」

「何ですかもう、姉様ったら本当に可愛いんだから」


 何なら説教してほしいくらいだったのに、はしゃいだように微笑まれてしまい、私は肩透かしを食らった気分になった。


「……あの、ロレッタ? 私は落ち込んでいるのだけど」

「だからそれが可愛いんですよ。ああもう、ヴィスコンティ男爵に見せて差し上げたい……!」


 どうしよう、妹が何を言っているのかまったくわからない。こんなうじうじしたところを見せたらめんどくさいと思われるに決まっているのに。


「こんなところ、見せられないわ」

「それならせめて寂しいの一言でも言うべきです。絶対喜ばれますよ」

「……そういうものなの?」

「ええ、そういうものです。その時の気持ちを伝えるのって、すごく大事なことですから」


 ロレッタはとにかく自信満々な様子だ。妹とはいえ恋愛の先輩たるお方の意見、ないがしろにするわけにはいかない。

 私は人に甘えることが凄く苦手なのだけれど、確かにその時の気持ちを口にすることくらいできないと、よね。


「それができたら……す、好きって、言えるようになるのかしら」


 私は赤くなった顔を伏せる。子供じみたことを言って恥ずかしい……と思っていると。


「だから可愛すぎですってば!」


 ロレッタが立ち上がって、突如として私の頭を掻き回してきた。両手でものすごい勢いで撫でられてしまったので、メイドが上手に結いあげてくれた髪型も台無しだ。


「何するの、ロレッタ!? 絶対大変なことになってるでしょう、これ!」

「ごめんなさい、耐えられませんでした! 大丈夫です、姉様は可愛い! 自信を持って下さいね!」


 髪の毛が爆発した状態で言われても説得力がないのだけど。妹のいつもの豪快さに、私はつい吹き出してしまった。

 ロレッタは公の場ではきちんとわきまえている。こんなことをするのは私の元気がない時限定だ。


「うんうん、そうやって笑っておくのが一番ですよ。それで、次はいつお会いするのですか?」

「それがね、明日なの」

「そうでしたか、楽しみですね。思いっきりお洒落して行くといいですよ」


 ロレッタの表情は優しくて、応援してくれていると思うと勇気が湧いてくる。

 そうね、お洒落を頑張ってみよう。彼がくれたドレスを着て、アクセサリーをつけて。久し振りに会えると思うと、少し緊張するけど……やっぱり嬉しいもの。


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