ずっと伝えたかった言葉 ①
アメデオにプレゼントをしようと思ったら、渡す前に本人の手に渡っていた。
……ええと。目の前の現実が信じられないんだけど!?
目眩がしてきたわ。己の間抜けぶりに歯止めが効かない。いつの間にか無くなっていたから、どさくさに紛れて誰かに蹴飛ばされてしまったかと思っていたのに……!
「アメデオが持っていたのですか……!?」
ど、どど、どうしよう!? かっこ悪い! 物凄くかっこ悪い!
頬が熱い、恥ずかしくて仕方がない。だけどもうさしあげられないのは確かだし。泥の中に転がしたようなものを、たとえ中身が無事でもプレゼントなんてできる筈ないもの。
ああでも、紳士物なのはバレバレよね。ここで返してもらってもアメデオ宛なのはすぐに察してしまうのではないかしら。
そもそもプレゼントを返してもらうってなんだかおかしいわ。失礼に値するのでは? ああそれに、こんなことじゃまた好きって言える流れではなくなってしまって。
「あ、あの、それっ! それは!」
駄目、頭が真っ白。どうしよう。どうし——。
「そんなに慌てなくても、責めたりしないよ」
ふとアメデオが微笑む。その瑠璃色の瞳が切なげに揺れていて、私は何もわからないなりにはっと口を閉ざした。
責め……え、なに?
「いいんだ、誰にあげたって。貴方は何でもこなしてしまうくせに、こういう事になると急に不器用になるんだな。ありがとう探してたのって、笑って受け取っておけばいいのにさ」
え? え?
「……疲れただろう? あんな目にあったんだ、今日は早めに休んだほうがいい」
アメデオが私の手を取ってプレゼントを握らせた。泥はすっかり拭い取られていて、ひしゃげた形だけが騒動の余韻を残している。
彼がどうしてそんなに寂しそうに笑うのかがわからない。私は足を止めてぼうっとしてしまったのだけど、先を行く広い背中を見ていたら、ようやく閃くものがあった。
もしかして。誰か別の人に贈るんだって、思われたの……?
「待って!」
咄嗟に出てきた声は切羽詰まってひきつれていた。
アメデオがぴたりと足を止める。振り返ったその顔は不安と困惑が入り混じっていて、胸の奥深くが鋭く痛む。
違うの。そんな顔をさせたかったわけじゃないの。アメデオ、私は。
「これは、貴方にあげたかったの……!」
今更のように実感する。私の気持ちなんて少しも伝わっていなかったのだ。プレゼントを用意したら、他に想う相手がいるんだと思われてしまうほどに。
当たり前だ。一度も言葉にしてこなかったのだから。
「でも、こんなに、ぐちゃぐちゃになってしまって。もう、あげられない。……迷惑ばかりかけているのに。お礼すら、まともにできないなんて」
やだ。何泣いてるのよ、私。
感情を抑えるのは得意だったはずなのに、止められない。
涙のせいで彼の顔が見えなくなってしまったけど、きっと呆れてるわ。子供みたいに喚いて困らせて、馬鹿みたい。
「ごめんなさい、アメデオ。行かないで……」
どうして、こんなにうまくいかないのかしら。
こんな酷い顔を見せたくなんてなかった。泣きたくなんてなかった。
世の女の子たちみたいに素直に気持ちを口にして、素直に甘えて、微笑んで。そういうことができる可愛い女の子になれたなら、きっと。
「キーラ!」
私は俯いて必死に目をこすっていたので、いつのまにかアメデオが目の前に来ていたことに気付いていなかった。
名前を呼ばれて反射的に顔を上げようとしたのだけど、その前に抱きしめられてしまって、私は涙で重くなった睫毛を上下させた。
「ごめん、ごめんな……! 誤解して悪かった!」
忙しなく背中を撫でる掌が力強くて、温かい。
抱きしめてくれたことに安堵して、むしろ涙腺が緩んでしまった。堪えきれずにしゃくり声を上げると、アメデオはますます慌てているようだった。
「キーラ……っ! くそ、馬鹿か俺は。せっかく貴方が用意してくれたのに……頼むよ、泣き止んでくれ。貴方が泣くと俺は息の根を止められた気分になるんだ」
彼の声は後悔に掠れていた。
相変わらず涙は止まらなかったけれど、私はゆっくりと顔を上げた。痛ましげに細められた瑠璃色が、目を合わせた途端にもっと細くなる。
「あ、呆れて、ないの……?」
「何に呆れるんだ!? キーラお願いだ、許してくれ。貴方を傷つけるつもりは! 俺は、最低だ……!」
全ては私がうじうじしていたのがいけなかったのに、アメデオは後悔限りなしと言わんばかりに肩を落としている。
優しい人。ごめんなさい、私が泣いたりしたから。
「ちがう、わ。アメデオは、なにも悪くない。私がいけなかったの」
「……キーラ?」
「私、ずっと、言えなかったけど。す……すっ……!」
駄目だわ、こんなの全然脈絡がないじゃない。
きっと伝わらない。いきなり何言ってんだって目で見られたらどうするの。
でも、私はいい加減に言わないといけないのだ。こんなに悲しい顔をさせてしまったのに、この上自分の何を守ろうと言うの。
「好きなのっ……! アメデオのことが、好き!」




