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プレゼントといくつかの憂い ①

 本という素敵な贈り物をもらったのは、つい一昨日のことだ。

 熱中して読み耽っていた私は、集中を切らした瞬間にふと気付いた。あの時は本当に驚いてただ素直に喜んでしまったのだけど、一番嬉しかったのはアメデオの心そのものだったのだと。

 服飾品は必要なだけでいいと言ったから、別のものを考えてくれた。わざわざ忙しい合間に時間を作ってまで手に入れてきてくれた。

 嬉しい。気を抜くと口元がフニャッとしてしまうくらいに、今の私は浮かれている。


「あら、お嬢様ったら嬉しそう。いいですわねえ」


 専属使用人のルーチェの指摘に、私は俄かに顔面を引き締めた。


「……駄目だわ、しっかりしないと。だって私にはやるべきことがあるのだもの」


 そう、今日はアメデオへのプレゼントを求めに街へとやって来ているのだ。

 喧騒に包まれた大通りを歩きながら、私は鋭い視線をショーウィンドウへと走らせる。


「いいではありませんか。そう夢見ているようなお顔ではありませんでしたよ? お可愛らしく微笑んでいらっしゃいました。ご自分も楽しんでいるくらいの方が、良いプレゼントが見つかるというものです」


 ルーチェはもう十年も面倒を見てくれている姉のような存在だ。朗らかで皆に愛される彼女の言葉は、私にとって大いに説得力がある。


「そうかもしれないわね。ルーチェ、私は殿方にプレゼントなんて初めてだから、変なものを選ぼうとしたら遠慮なく止めてね」

「承知いたしました。ですが、ヴィスコンティ男爵なら何でも喜ばれると思いますよ」


 うふふ、と朗らかに笑うルーチェ。

 明らかにからかわれている。私はぐっと口を噤んで、視線を前から逸らさないことにした。




 紳士洋品店で品物を探すことになり、街でも老舗の店を選んで足を踏み入れた。

 贈り物の定番といえばやっぱり服飾品だ。そこまで考えついたところで、私はまたしても後悔に襲われてしまった。

 アメデオだってきっと同じように考えたのだ。それなのに。


「私は最初の頃、露骨にいらないと言って顔をしかめて……最低だわ。ルーチェ、どうしよう。服飾品なんて受け取って貰えないかもしれない」


 私は革の財布を手に取ったまま俯いた。愚かな主人の心を察したらしく、ルーチェが微笑んで首を横に振る。


「大丈夫ですよ。あれはヴィスコンティ男爵がかなり非常識だったので」

「貴女ってけっこう言うわよね」


 あまりにも切れ味鋭い言葉を繰り出したルーチェに表情を引きつらせつつ、私は手にしていた財布を棚に戻した。


「お嬢様は考えすぎです。これは私の持論ですが、お勉強のお好きな方は考えすぎるからいけません」


 そして突然の暴論だ。私はびっくりしつつ、彼女の発言を反芻してみた。

 確かに考えすぎなのかもしれない。ここ最近思い悩みすぎていることは、とっくに自覚しているのだから。


「そうね。悪いと思ったなら謝ればいいし、素敵だと思うものを差し上げれば良いのよね」

「そうですとも、お嬢様! 明るい気持ちで選びましょう!」

「ふふ。ルーチェが一緒に来てくれて良かったわ」


 ありがとうと伝えたら、ルーチェはとても柔らかく微笑んでくれた。

 店内をじっくりと見て回る。店員さんとも意見を交わしつつ、色々な品物を比べて検討する。

 ふとアイスグレーのクラヴァットが目に留まり、私は無意識のうちに手に取っていた。

 服飾品のことなんてよくわからないけど、この色は彼の瑠璃色の瞳とココアブラウンの髪によく似合うような気がする。


「あら、素敵ですね」


 ルーチェが微笑ましげに手元を覗き込んでくる。彼女の反応に背を押されて、私もおずおずと頷き返した。


「本当? 私ね、これがいいと思ったの」

「でしたらそれが一番です。きっとお喜びになられますよ」


 そうだろうか。彼の喜ぶ顔を見ることができるのだろうか。

 だとしたら私も凄く嬉しい。想像したら胸が温かくなって、熱いくらいに。


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