2-2 加護ってすごいです
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ルーシーの戦闘シーンを加筆
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でくくられているところが主に加筆部分で、前後も少し修正しています
ウサギがドロップした魔石を、賢人はつまみ上げた。
「小さいな」
小指の先ほどしかなかったゴブリンのそれより、さらにふたまわりほど小さいだろうか。
そこに落ちていると知らなければ、間違いなく見落としてしまうだろう。
「まぁ、ラビット系の魔石だからしょうがないわね。ひと山いくらでしか引き取ってもらえないから、銃に使ったらどうかしら?」
「これを? 使い物になるかねぇ」
ゴブリンの魔石ですら、大した威力は出なかったのだ。
あれより小さい魔石に、いったいどれほどの効果が期待できるだろうか。
「ジャイアントラビットの魔石は、あえて拾わないっていう冒険者もいるわ。見失ったら探すほうが手間だし」
いまさらだが、あのウサギはジャイアントラビットというらしい。
「魔石って拾わずに放っておくとどうなるんだ?」
「半日くらいで地面に溶け込んじゃうわね」
「へええ」
「そういう魔力が巡り巡って新たな魔物になる、なんて言われてるわ」
「じゃあ拾ったほうがいい?」
「一応はね。でも、放置してなにかペナルティがあるわけじゃないから、どっちでもいいわよ、ほんと」
「ふぅん」
せっかく拾った物でもあるので、賢人はその小さな魔石を短筒に装着した。
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「次は、あたしの番ね」
薬草採取を進めていると、ふたたびジャイアントラビットに遭遇し、ルーシーは剣を抜きながらそう告げた。
「上がった【攻撃力】を、試したいから」
心なしか息が荒い。
口元にも隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「ああ、まかせるよ」
ルーシーは頷くと、腰を低くしたまま音もなく移動を始めた。
少し大回り気味に風上から敵へと迫る。
あと5メートルというところで、ジャイアントラビットが頭を上げ、ルーシーのほうへ目を向けた。
それと同時に黒髪の猫獣人は大きく踏み込む。
「――っ!」
ふわり、と浮くように軽やかなステップだったが、5メートルの距離は一瞬で縮まり、ジャイアントラビットは首を飛ばされ、ほどなく消滅した。
「おつかれ」
戦闘の終了を確認した賢人が駆け寄り、声をかけたが、ルーシーは剣に視線を落としたまま、無言で立ちつくしていた。
「ルーシー?」
「……すごいわ」
「ん?」
顔を上げたルーシーは、賢人を見て興奮気味な笑顔を浮かべる。
「【攻撃力】が、凄く上がってるの!!」
「ああ、まあ一気に3段階も上がったわけだし……」
「ジャイアントラビットを斬ったとき、ほとんど感触がなかったのよ! まるで豆腐を切るみたいに!!」
「お、おう、そうか……」
生返事をしながら、どうやらこの世界にも豆腐があるらしいことを、賢人は知った。
「ふ、ふふふ……あはは……! これなら、怖いものなんて……!」
誰に言うでもなくそう呟きながら、ルーシーはビュンビュンと剣を何度も振った。
賢人は若干引き気味に、その様子を眺めていた。
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「ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃって……」
あのあとルーシーが落ち着くまでしばらく待ち、そこから軽い休憩を取った。
「ふぅ……それじゃあ、このまま森を目指しながら進みましょうか」
休憩を終え、立ち上がりながらルーシーが告げる。
「大丈夫か?」
森には草原よりも強い魔物が出るはずだ。
「いまさっき戦ってみてわかったけど、【攻撃力】が飛躍的に上がってるわ。ほんと、加護の恩恵って凄いのね」
そう言ってルーシーは微笑んだが、そこには喜び以外の複雑な感情が見て取れた。
これまで彼女は冒険者として強くなるため、鍛錬などに勤しんできたのだろう。
そうやって筋力をつけ、戦闘技術を磨いてきたが、そんな努力が馬鹿らしくなるほど、【攻撃力】上昇の効果は絶大なものだった。
先ほどまでは強くなれたという事実に興奮していたが、ふと冷静になってみて、いままでの苦労を虚しく感じてしまったのかもしれない。
「それにしたって、ルーシーの素の能力があればこそ、活かされるものだろ?」
だからといって彼女の努力が無駄になるわけではない。
これまでの鍛錬や経験によって手に入れた力は、これから先も活かされ続けるのだ。
「ふふ……それもそうね」
少しだけ吹っ切れたように笑ったあと、ルーシーはすらりと剣を抜いた。
「いまのあたしなら、たぶんオークとだって戦えるわ」
それは過信でもなんでもなく、事実だろう。
出会ったとき、まったく相手にならなかったオークだが、最初のうちは圧倒できていたのだ。
最初の連続攻撃でしっかりとダメージを通せたと考えれば?
おそらくルーシー単独でオークに勝つことも可能だろう。
「もしなにかあっても、あたしがケントを守ってあげるよ。だから、森に向かいましょう!」
そう言って剣を鞘に収めたルーシーは、にっこりと笑った。
それから森にたどり着くまで2時間ほどかかった。
道を逸れ、採取ポイントを回りながらだったので、ただ歩くのに比べて倍ほどの時間を要したのだ。
ジャイアントラビットとも数回遭遇したが、上がった【攻撃力】に慣れておきたいからと、すべてルーシーが倒した。
「ゲギャゲギャ」
「ギギギ」
「ギャッギャッ」
森に入ってすぐのところで、ゴブリンの群れを発見した。
向こうはまだ気づいていないので、奇襲は可能だ。
「能力にも慣れてきたし、ここからはケントも戦闘に参加してもらおうかしら」
「わかった。じゃあ俺が牽制で一発撃つから、怯んだやつから仕留めていってくれ」
「わかったわ」
ルーシーが駆け出す。
見蕩れそうになるほどしなやかなフォームで、素早く距離を詰めていくが、あいかわらず足音はまったく聞こえない。
そんなルーシーを視界の端に収めながら、賢人は立射片手射の構えで群れの1匹に狙いをつけた。
雷管に取り付けられたのは、ゴブリンのものよりも小さな魔石だ。
威力はかなり弱いだろう。
軽く仰け反らせる程度のものだろうが、隙を作ってやればあとはルーシーがとどめを刺してくれるはずだ。
その間に、自分はMPを使って2匹目を仕留める。
残る1匹は、状況次第でどちらかが倒せばいい。
――カチリ。
そんなプランを立てながら、賢人は撃鉄を上げた。
ルーシーが一番近い個体を間合いに捉えそうになったところで、引き金を引く。
――バスッ!
「ゴゲァッ!?」
「えっ?」
こめかみに弾丸を受けたゴブリンが、短い悲鳴を上げて倒れ、そのまま消滅した。
予想外の結果に賢人は困惑し、残る2匹のゴブリンもうろたえていたが、ルーシーだけはこうなることを予想していたように迷いなく踏み込む。
「はぁっ!」
「ゲギッ……!」
ルーシーが剣を薙ぎ、ゴブリンの首が飛ぶ。
そして剣を振り切るが早いか、彼女は身体の向きを変えた。
「せあっ!」
「ゴブォ……!」
2メートルほどの距離を一瞬で詰め、軽やかに振り下ろした刃が、最後の一体を両断した。
「おつかれさま」
「あ、ああ……」
戦闘を終え、ドロップアイテムを拾うべく自分のもとへ駆け寄ってくる賢人の様子に、ルーシーは首を傾げた。
「どうしたの? なんだか困ったような顔してるけど」
「いや、なんか、銃の威力があがってないか?」
最初にルーシーと出会い、森を抜けるまでのあいだ、賢人は何度かゴブリンと戦った。
そのときはゴブリンの魔石を使って、なんとか一発で仕留められるといった具合だった。
しかし先ほどの戦闘では、より威力が劣るはずのジャイアントラビットの魔石で、ゴブリンを一発で仕留められたのだ。
「そりゃそうでしょうよ。だってケントは冒険者の加護を受けて【攻撃力】が上がってるんだもの」
こちら本来明日投稿予定の話を間違えて投稿してしまいました…
申し訳ないのですが本日執筆時間が取れませんので、明日は更新を休ませていただきます




