表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/68

1-28 誤解されたかもしれません

「ルーシー、能力値を見てくれ!!」


 ひとつの可能性に思い至り、賢人はルーシーを急かした。


「え? あ、うん」


 戸惑いながらも、ルーシーは加護板をスワイプする。

 そして……。


「ええーっ!?」


 大声を上げ、加護板を見る目をこれでもかというほど大きく見開いた。


**********

【攻撃力】H→G

【防御力】H

【魔力】H

【精神力】H

【敏捷性】H

【器用さ】H

【運】S

**********


 攻撃力が、HからGにランクアップしていた。


「な、な……なん……で……?」


 加護板を凝視したまま、ルーシーはカタカタと震えだした。

 額には汗がびっしりと浮き上がり、見開いた目にはじわじわと涙が溜まっていく。


「こ、こんな、こと……これまで、いち……いちど、も……」

「ルーシー?」


 身体の震えが大きくなり、言葉が細かく途切れる。

 徐々に呼吸が浅く、早くなっていくのが見て取れた。


「ルーシー!」


 賢人はルーシーの肩をがっしりと強く掴んだ。


「落ち着け、ルーシー!」

「ひっ……はっ……ぁ……はぁっ……」


 顔を上げたルーシーは、苦しそうに口を開閉しながら、救いを求めるような視線を賢人に向けた。


「息を吐け、思いっきり!」

「はぁっ、はっ……ふぅっ……ふぅぅっ……!」

「胸が空っぽになるまで、とにかく息を吐け! 吸うことは考えなくていいから、とにかく吐き続けろ!」


 背中をさすってやりながら、賢人はルーシーに息を吐かせ続けた。


「ふぅぅっ……ふぅーっ……! ふぅっ……ひゅっ……!」


 少しずつ、息を吐けるように鳴ったルーシーは、なんとか肺が空になるまで息を吐き出すことができた。

 息を吐ききってしまえば、意識しなくても肺に空気は入ってくる。

 吸うことを意識していないルーシーだったが、息を吐き出すたびにヒュッと音を立てて空気を取り込んだ。

 そのペースはやがて遅くなり、ほどなく呼吸も落ち着いてきた。


「はぁ……ふぅ……もう、大丈夫……ありがと、ケント」


 少し落ち着いたところで、ルーシーはケントを見て微笑んだ。

 その拍子に、目尻に溜まっていた涙があふれ出して流れた。


「いや、その……ごめん」


 十数年まったく動かなかった能力値が、変化を見せた。

 【運】の値の意味が判明したことや、【SP】という未知の項目が現れたことよりも、彼女にとってそれは衝撃だった。

 呼吸の仕方を忘れるほどに。


「なんで、ケントが謝るの?」


 まだ少し虚ろなままの瞳が、じっと賢人を見つめていた。


「それは、その……俺が、勝手なことをしたから……」


 虚ろな瞳に、光が灯った。


「ケントが、したの……?」

「あ、ああ。【SP】を使って、ルーシーの【攻撃力】が上がらないかなって思ったら、【SP】が減って【攻撃力】が――おわぁ!?」


 もの凄い力で襟首を締め上げられたかと思うと、賢人は仰向けに倒された。

 そして彼の上には、ルーシーが覆い被さっていた。

 視線を上げると、必死の形相で自分を見下ろすルーシーの顔があった。


「もっと、して……!」

「え?」

「もっと、いっぱい、してっ!」


 腹のあたりに跨がる彼女の体温や重みが、妙に生々しく感じられた。


「わ、わかったから、ルーシー、ちょっと落ち着いて――」


 ――ガチャリ。


 部屋のドアが開いた。

 ルーシーはそちらに背を向けていて、気づいていない。

 賢人が入り口のほうをのぞき込むと、女将の姿が見えた。


「ちょっとあんたら、朝っぱらから騒がし――」

「もっといっぱい、してよぉっ!! ねぇ、ケントぉっ!!」


 賢人にまたがったルーシーは、喚きながらゆさゆさと身体を揺らした。

 それを目にした女将が、ぽかんと口を開ける。


「あー……お楽しみのところ、悪かったね。ただ、もうちょっと静かにしてくれるとありがたいんだけど……ま、なんというか、ほどほどにね」


 ――バタン。


 扉が閉まり、女将は姿を消した。


「ぁ……ぅぅ……」


 視線を戻すと、賢人の襟首を掴んだまま、ルーシーは顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

 押さえ込んでいた力は、かなり弱くなっている。

 どうやら、声で女将の存在に気づき、自分の姿勢や動き、言動がどう見られたのか、ということに思い至ったようだ。


「と、とりあえず、落ち着こうか」


 襟を掴んでいた手に触れると、彼女があっさりと解放してくれたので、賢人はゆっくりと身体を起こした。


「えっと、どいてくれると、嬉しいかも」

「ぁ……ごめんなさい……」


 蚊の鳴くような声でそう言いうと、ルーシーは少しよろめきながら立ち上がり、ベッドに腰掛けてうなだれた。


「えっと……吸う?」


 いたたまれなくなった賢人は、懐からシガレットケースを取り出し、ミントパイプをひとつつまんでルーシーに差し出した。

 彼女をそれをチラリと見ると、無言で頷いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

「おもしろい!」「おもしろくなりそう!」と思っていただけたのなら、是非ともブックマーク、評価、そしてレビューをお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ