1-21 なにやら事情がありそうです
「はぁー……まったく」
ダメージから回復したバートは、呆れたようにため息をついて立ち上がった。
そして表情を改め、真剣な表情でアイリを見た。
「ルーシーでは力不足なのだ。わかるだろう?」
バートの言葉に、ルーシーは自嘲気味な苦笑を漏らす。
「でも、ドロップ減ったよ?」
「僕たちにとって、それは大した問題じゃない」
「貧乏なのに?」
「ぐっ……!」
痛いところを突かれたのか、バートが一瞬顔を赤くしたが、軽く咳払いをして持ち直した。
「そ、それもダンジョンをもう少し進めば解消する問題だ」
「でもルーシーがいたらもっと儲かるよ?」
「それはダメだ。Fランクの彼女をダンジョンに連れて行くわけにはいかない」
真剣な表情でバートはアイリの言葉を否定する。
対するアイリはずっと無表情だった。
ダンジョンという新しい言葉に少し困惑する賢人だったが、しばらくは黙って様子を見ることにした。
「あはは、あたしゃ金づるかい」
冗談めかしてルーシーが言うと、アイリは慌てたように顔を上げた。
「ちがう! ちがうのルーシー! ドロップはただの口実! ほんとはルーシーと一緒にいたいだけ!!」
さっきまで無表情だった彼女は、いまにも泣き出しそうになっている。
「冗談冗談。わかってるから、そんな顔しないの」
「ダンジョンになんか行かなくていいから、ルーシーと一緒がいい」
「だめよ、そんなこと言っちゃ。ほら、バートのところにいきなさい」
「ルーシーが一緒じゃなきゃいや!」
ルーシーに抱きつくアイリは、駄々っ子のように頭をふるふると振った。
「ねぇルーシー、いい加減冒険者をやめてくれないかな」
アイリの対応に困るルーシーに、バートは少し冷たい口調でそう告げた。
バートの言いように驚いたのか、一向にルーシーから離れようとしなかったアイリも抱擁をといて彼に向き直る。
「バート、なんでそんないじわる――」
怒ったように抗議するアイリを、バートは手を挙げて制した。
一方のルーシーは、困ったような苦笑を浮かべたままだ。
「ルーシーが冒険者を続けていると、アイリが君のことばかり気にかけて迷惑なのだよ」
「あはは、そんなこと言われてもね……」
「それに君もいい加減気づいているんだろう? 自分が冒険者に向いていないことを」
「さぁて、どうかしら……」
「レベルが上がっても能力値は上がらないし、【運】の値はおかしいし、それにそろそろ年齢だって……」
そこでふと、バートはルーシーの近くに立つ賢人に目を向けた。
「あー、実はさっきから気になってたんだけど、君はだれ? あまり見ない顔だけど」
「えっとね、彼はケントといって――」
「なるほど! そういうことかっ!!」
ルーシーの説明を途中で遮ったバートは、なぜか嬉しそうな表情を浮かべて賢人に歩み寄った。
「そうかそうかそういうことか。その出で立ちからして……うんうん……」
そうして彼は、賢人の姿を値踏みするようにじろじろと見たあと、ルーシーに向き直った。
「ルーシー、そういうことなら早く言っておくれよ!」
「えっと、そういうことって……?」
「ようやく見つかったんだろ? この人がそうなんだろ?」
「あの、バート? あんたいったいなにを」
困惑するルーシーの肩を、バートがトンと叩く。
「おめでとう! やっと身請けが決まったんだね!!」
「身請け?」
「ちょ……あんたなに言って――」
身請けという言葉に首を傾げる賢人と、抗議しようとするルーシーを無視して、バートは得意げに語り続ける。
「いやー僕は心配していたんだよ。ここで何年も活動しているっていうのに、いつまで経っても芽が出ないし、でも時間は無情に流れていて、これ以上歳を重ねると引き受け手が――ぐぉぉおお……!?」
突然、バートが自分の脚を押さえてうめき声を上げた。
(うわぁ……あれめちゃくちゃ痛いやつだ)
賢人は見ていた。
得意げに語るバートのもとへ銀髪のメイドがつかつかと歩み寄り、装甲に覆われていない太ももめがけ、迷いなく膝蹴りを放つ姿を。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
「おもしろい!」「おもしろくなりそう!」と思っていただけたのなら、是非ともブックマーク、評価、そしてレビューをお願いします!!




