6、人という文字は一方的に支えてもらっているが、結局のところ人は支え合って生きている
第7話改稿完了!
ちょいと真面目だで
俺は弱い。
どれだけスキルを持ち合わせていようが、速かろうが俺が持つ力が弱い。
身体の扱い方を知っていようが圧倒的な力を誇るものの前には及ばない。
剣技が上手かろうが、魔法の速度に俺の剣では追いつかない。
魔法は全てを捩じ伏せる力を持つ。
体術も弓も知能も全ては魔法の破壊力には敵わない。
この世界は力が全ての世界だ。
俺にはその適性が一切ない。
だからこそ他人の力に俺はすがるしか道はない。
剣術は護身術として習っているが、それでもあくまでも他のメンバーが助けに来るまでの時間稼ぎのための技に過ぎない。
それをアゲハの力の片鱗を見てやっと深く考えるようになった。
今までは何となく、いや気づきたくなかったからそれから目を逸らしていた。
俺は…どうすればいいんだろうか。
「クロキ殿。どうやったら呆けながらバリバリ仕事できるんですか?」
「スキルの恩恵です。イシュミールさん。仕事のやり過ぎで【社蓄】って称号を手に入れたついでに【並列思考】ってスキルを手に入れたんで考え事しながら仕事してました。仕事の効率は落ちないんで便利ですよ?」
「なんというか…申し訳ありません」
「同情するなら週休2日くれっ!!」
「迫真の叫びですがそれは私以外に言ってください」
これに関しては心からの叫びだ。
言っておくが【社蓄】の条件って二ヶ月間休日2日だけの人なんですけど。
俺、あの城下町全力ダッシュ以来休んでないんですけど?
俺を殺したいの、この国?
だがそんな会話ではあまり気は晴れなかった。
俺はあいつらの役に一体どうやって立てられるのだろうか?
そう考えると俺は何となくだがアイツらと顔を合わせづらくなってしまった。
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「でだ、アゲハ」
「どうしたの?」
俺は今、先ほど顔を合わせづらいと思ったばかりのアゲハと一緒にいた。
部屋はアゲハの個室。
クラスメイトには各々に一部屋が支給されている。
アゲハなんかは結構豪華な部屋で、家具の質もいい。
あれ? そういえば俺の部屋ってどこだろう?
…見た覚えがない。
いつも作業部屋で寝てるからか?
だが今、そんなことは関係ない!
もっと重要なことがある!
そう!
「なんでお前、俺を縄でグルグル巻きにしてそのまま俺の部屋に連行!およびなんでお前の使役してる奴ら全盛りしてんだ!!!??」
俺の状況はただ今絶体絶命!
アゲハの機嫌一つで俺の生死は変わる。
「だってこうでもしないと話してくれないじゃん!」
「だからってこれはないだろ!!」
「わーわー! 聞こえなーい!!」
「分かった! 分かったから! 話聞くから! とりあえずその周りの奴ら全員引っ込めて! 俺死んじゃうから!」
「へ? あ、ほんとだ。いつのまに出てたんだろう」
どうやらアゲハさん、無意識に出してしまう模様。
ガチでそれはよした方がいいと思う。
それ無意識にお前が人殺しになっちゃうから。
その癖を治させる、そう決意したところでアゲハは俺に尋ねた。
「それで? なんで勇馬くんは避けてたのかな?」
「ゔっ!!」
いきなりそこを聞かれると正直恥ずかしい。
だって理由がなんと言っても情け無い。
アゲハの強さに嫉妬したとか、目を背けたくなったとか…
できることならば言いたくない。
しかしアゲハのジト目!
ゆうまにこうかはばつぐんだ!
という訳で俺はその経緯を話し始めた。
自然と声は低く、小さく、目を逸らしてしまったのは仕方がないと思います。
そして話終わり一拍。
アゲハは言った。
「…は?」
めちゃくちゃ不機嫌そうに。
俺を見下し、顔から笑顔が消える。
なーに言っとるんだコイツ、的な顔をしている。
「なに言ってるの? 勇馬くん?」
あ、言われたわ。
多少ニュアンスは違うが言われたわ。
もうガクブルガクブル。
あれ? 今まで家でもっと酷い目にあったことあるはずなのに今が一番怖いや。
なんでだろ?
アゲハはしゃがみ俺の顔を覗き込む。
その顔は未だに険しく俺を責めている。
そして両手をググっと引き上げて、俺の頰にビターンっと!
っていったぁああああああーーーー!!???
流石は異世界バグ!
頰が痛い!
激しく内出血!
ドンドン腫れる!
痛っ!? 痛っ!!!??
手で頰をさすろうとしても縄で身動きさえできない。
誤魔化すために地面を転がるものの、痛いものは痛い。
アゲハはそんな俺を見て一言。
「弱いからなんで悪いの?」
弱いのが悪い理由!?
決まってる。
何も守れないからに決まってる!
力無いものは全てを奪われる。
この世界ではそれがさらに明確なものとされてしまっている。
だからこそだ!
だがアゲハは続ける。
「きっと勇馬くんのことだから色々考えて迷ってそう考えたに違いないよね。それが勇馬くんにとっては最善なのかも知れない。それはそうなんだろうなって思う」
「だったら!」
「でもね。それは違うよ!」
自信満々に俺の言葉を遮り、反論する。
そこには確かな意思があり、反論などさせないという意思も感じる。
「人と人はね! 支え合ってできてるんだよ、勇馬くん!」
「あれか…あれって一方的に支えてもらってるよな…」
「そんな些細なことは別にいいんだよ!」
「…いいのか」
いつのまにかアゲハの表情はとても柔らかいものとなっていた。
俺の頰を優しく撫でて、言葉を零す。
「勇馬くんは自分のこと、無力だって思ってるの?」
「ああ。そうだよ。誰一人として守れない。そんな風な意識しか俺にはない」
「ほんと勇馬くんって自分のことになるとてんでダメだね! やれやれだよ」
「これは過小評価じゃない。現に俺は護身術程度しか持っていない」
そう。これはいくらアゲハが否定しようと変わらない真理だ。
剣は魔法に及ばず。
これは普遍的な思想であり、事実だ。
これを超越するのは極一部の人間のみであり、俺では夢のまた夢だ。
だからこそ俺は戦力にはならない。
俺では誰一人として守れない。
すると再度頰に平手打ち!
痛っ!!?
またっ!!?
「そしたら園田くんと蓮ちゃんも使えないことになっちゃうけど?」
「あいつらは問題ない。園田は数学の普及に勤しんでるし、蓮は王宮への信頼を娯楽によって高めている。どっちもこの世界には欠かせない」
たしかに園田と蓮は非戦闘員だ。
しかし二人の持つ力は秀でている。
園田は【数学者】で計算などに長けている。
あちら世界でも遥かに標準を超えていて数学オリンピックで小学生で圧倒的に優勝。
こちらは経理の力をさらに高めており、これによって見つかった不正な金の運用がいくつあったことか…
ただし俺の仕事も増えた。
また蓮も蓮で普段は人見知りな乙女なのだが劇場に上がると堂々とする。
そこから王子的な信仰を女子から受けているのとをアイツは知らない。
だがこの世界では明確な娯楽というものが非常に少ない。
そのため蓮が演劇を広めることは城の信頼を自然と高まるものとなる。
俺ではできない、唯一無二の役目をあいつらは持っているのだ。
だからこそあいつらは違う。
俺のように裏方としても戦闘員としても役を果たせない俺とは話が違う。
「でも勇馬くんだって必要でしょ?」
「…ブラックな活動しかしてない俺がか?」
言っておくが何かをやった覚えはない。
ただただ目の前の仕事を片付ける事だけだったような気がする。
「でも最初に私たちの環境を整えてくれたのは勇馬くんだし、ほかの人たちと同等の権利を持ててるのも勇馬くんのおかげ。さらに言えば城下町での人気もあるし、王宮の人たちなんて癒しって言ってたよ」
「…後半の辺りは聞きたくなかったな」
「そうやってまた照れる〜」
「照れてねぇよ!! ていうかつつくな! つつくな!」
ただ内心、本気で照れている。
なんというか…すごく恥ずかしい!
親友に褒めちぎられるとかマジで恥ずい!
内心顔真っ赤っかだ!
「だからね。勇馬くんは私が守る! だから勇馬くんは頭で私たちを助けてよ。ここでそういうのできるの…たぶん勇馬くんだけだから!」
アゲハはまっすぐ俺を見据えて話す。
声自体は緊張感のへったくれもないものだったが、その中にある重みは違った。
アゲハもアゲハなりに考えてのこの答えだろう。
初めて会った時とは全くその瞳は違った。
ブレていなかった。
だからそんな感動も織り混ざって、俺が出した言葉は…
「…女に守られるなんて恥ずかしいつーの」
結局、こんな照れ隠しの言葉だったのだった。