4、逃走ちゅ◯!〜絶対に逃げ切れ!!〜
5話目改稿終了!
順調ではないですかね!
「ここが城下町か…」
俺は開けた門の先を眺めた。
あまりにも雄大な街。
巨大な聖堂。
鐘を鳴らす塔。
街は石造りで中性的な見晴らしであった。
俺たちがいた世界とは違う景色を見て、やはり違う世界だと再度認識した。
一応いままでも理解はしていたが、ブラックすぎて周りを見渡すことすらも許されなかったのだ。
仕方がないことだと思う。
胸に高揚感が宿る。
見渡す限りが未知のものばかり。
こればかりは興奮せずにはいられない。
三人も高揚感が隠しきれない様子。
今に走りだそうなほどに待ちきれない様子だった。
それは俺も同じではあるが。
「それじゃ、張り切っていきましょーう!!」
「「「おーー!!!」」」
アゲハがそう言った。
その瞬間、俺たちは駆け出した。
待ちきれなかったためか、全員が坂道をダッシュで下り始める。
この時から俺たちの観光は始まったのだ。
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「…なぁ、アゲハ」
「うん…勇馬くん。気づいた?」
俺とアゲハは店と店の間、死角となる狭い道で壁にもたれていた。
アゲハは息が荒く、心臓を抑えている。
全力で長時間走ったためだろう。
一方の俺も体力自体はないので、結構キツイ。
FPがいくらあっても体力が尽きそうになっては意味がないことがよくわかった。
王都観光を始めて20分ちょっと。
俺たちは今、多大な問題を抱えている。
声を潜めて言った。
「「園田(くん)と蓮(ちゃん)がいない…」」
これである。
「いつだ? いつ分断された?」
「わからない。…でも、襲われてないかな? 二人とも」
「やられてしまってるかもしれないな………黙祷」
「…死んでないよ。……きっと」
「いや、分からん。あいつらの目見たか? 俺、あれ見て鳥肌がすげぇたったよ」
「すごく真っ赤っかだったよね。怖かったよ」
「ああ。あれじゃあ襲われてる可能性も十二分にあり得るぞ」
「…否定しきれないのが怖いよね」
「しかもあいつらの場合パラメーターも低いし、役に立つスキルもあの状況じゃない。生き残った可能性は非常に低い」
「…まさか、こんなところで死人が出ちゃうなんて…」
「ああ…悲しい事件だったな」
俺とアゲハは上を見上げる。
そこには青い色彩が広がっていた。
なるほど、世界は本来こんなにも色鮮やかなのか。
あれさえいなければ…。
そう。
「「ナンパな狂戦士さえ…いなければ」」
大体こいつらのせいであった。
というのも城下町に降りてすぐのこと。
とある声から事件は始まった。
『何あそこ。レベル高っ!!?』
『話しかけてみようぜ』
『そこの可愛こちゃ〜〜〜ん! 俺たちと遊ばな〜〜〜〜い?』
それは俺とアゲハに掛けられた言葉であった。
ただ非常に顔の造形はなんとも不細工で非常に気持ちの悪い雰囲気をまとっていた。
あと女扱いして来たことに関してはムカついたが、イミスに「お主、ガチでやめろよ! フリじゃないのじゃよ! ガチでやめろよ!!」と途中からキャラを忘れるほどに注意されたのでなんとか息をぐっと飲み、堪えた。
しかし気持ちが悪いことに関してはアゲハも同意見だったのだろう。
結局、不本意ではあったが一番波風が立たない方法を俺は使用した。
「「友達といるので無理です」」
と。
いつもならば蹴り飛ばして「俺は男じゃーー!!」というところなのだが、そうなるとガチでイミスがキレそうなのでやめておく。
だがこうしてスルーしようとした時だった。
『なら俺と!』
『いや、ワシと遊ぼうぞ!!』
『ふん、君たちのような人間では駄目だとも。この僕と踊りましょう、マドモアゼル』
『俺様といっちょ酒飲もうぜぇーー!!』
どんどん来た。
わんさか来た。
鳥肌もわんさか来た。
俺とアゲハはあまりもの気持ちの悪いナンパに腰が引けたがなんとか堪えて先ほどと同じ言葉で断っていく。
すると誰かが言った。
『その友達って誰のこと?』
と。
いや、周りにいるでしょ。と言おうとした。
しかし見渡した先にあったものは…
→女がキャーキャー言いながら集まっている箇所
あ、あそこだ。
しかもなかなか遠いな。
なんだか悲鳴も聞こえてくる。
「きゃーー!! 私女です!!」とか「ちょっ!? 蓮に手出すな!! ていうか誰だ!? さっきからほっぺ触りまくってる奴!!?」という感じの。
言い訳はもう通じなかった。
俺たちの心の焦りを読んだのか周りの視線が粘り付いている。
だがそこから俺たちの判断は早い。
ーーーよし、逃げよう。
こうして俺たちは人垣を持ち前のFPで飛び越え逃走を開始した。
ちなみに園田たちには見向きもしなかった。
あそこからあいつらを引き抜く間に野郎どもに捕獲される。
自分の命大優先です!
「「さらばだ! 友よ!」」
「「ちょっ!? いたのお前ら!!? 助けてくれーー!!」」
「無理!!」
「私の身が可愛い!!」
「「クソがぁーーーー!!!!」」
きっとお前たちなら自力で逃げられるよ!
非戦闘員だからパラメータ一般市民程度だけど!!
そう思い俺たちは全力でその場から離脱した!
「「あそこに合法百合がいます!!」」
『『『『『マジで!!?』』』』』
「「追手がぁーーー!!!!」」
「「死ねば諸共!!」」
「「クソがぁーーーー!!!!」」
…
…
…
…
「大体こんな感じの経緯だよな?」
「私たちに非はないね」
「ああ、俺たちは頑張った」
「全くだよ」
ああ、頑張ったものだ。
アイテムボックスから何個巨大な岩を取り出して道を塞いだかはわかりはしない。
ちなみにアイテムボックスは召喚された人間が全員持っていたスキルだ。
効果はきっと想像通りだろうが、俺の場合レベルMAXなのでほぼ無限大に物が入る。
故に岩が何個も入っている。
他にも剣とか火気厳禁なものとか罠的なものとか色々入っている。
便利なんだよ、このスキル。
俺はアイテムボックスからフード付きのマントを二つ取り出して、アゲハにも渡す。
これで騒ぎにはならないはずだ。
「なるほど、完璧な作戦だね」
「ああ、これで安心して散策できる」
こうして細い道を抜ける。
俺たちの観光はここから始まーーー
『『『『『出てきたぞーーーーーーーーーーーー!!!!』』』』』
「………」
「…すまん、こうなるとは思ってなかった」
まさか細道に入ってる時点で包囲されてるとか誰が想像するでしょうか?
だからアゲハさん。
どうかそんな目しないで。
ブラックホールみたいな目しないで。
そんな呆ける時間はないらしく、男たちは鼻を鳴らしこちらを見る。
女の人もいるが『お姉様ぁー』とか『合法百合…つまりアレもあるわけで…』とヤベェことを言っているのでまず逃げよう。
しかしアゲハの体力はもう限界っぽい。
逃げるには難しいだろう。
一方俺はまだ余裕がある。
と、言うわけで…
「アゲハ。ちょいと失礼」
「え? ってええーーーーー!!! ちょっ!? まっ!!?」
「いくぞ! 全力で逃げるぞ!!」
「ちょっと降ろしーーーぁああああ!!!」
FP2800は決して伊達ではない。
その場の視線を置き去りにするが如く、俺は空へとかける。
「こうなったらヤケだ! 張り切ってやる!! エンジン全かぁーいっ!!」
「なんかハイテンションになってないーー!!??」
こうして俺たちは逃げる。
すんごく逃げる。
『すげぇ、百合だ百合』
『凛としたお姫様が少女をお姫様抱きで逃亡…ふむ、絵になる』
『王子様みたいねー』
精一杯、逃げるんだよーーー!!!
…こうしてあいにくながらショッピングもままならず。
ストレスが溜まる観光であった。
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「「「「疲れたーーー」」」」
どっと門の前で溜息を四人は吐く。
ここまで来るとイミスの権威に恐れをなしてか追手は来ない。
…最初からここに逃げ込めばよかったんだなーー。
「「…そんで反省の言葉は?」」
「「??」」
「まじで心当たりないのか!!?」
「私たち、悲しかったんだよ!」
「俺たちのこともお前ら売っただろうが」
「「え? 死ねば諸共…」」
「怖えよ!!」
「結局、何も買えなかったねー」
「「「本当にそれな!!」」」
結局あの後も逃げて逃げて逃げて逃げーーーー、とそんな感じだったので買い物はできていない。
俺の場合、腕も足も全身もプルプル震えており、体が酷使されたことがよくわかる。
…休日だというのに休めない俺とは如何に?
「どうやら不幸神は勇馬くんぽいので次は三人で行こ? 蓮ちゃん、園田くん」
「「異議なし!」」
「あるわ! アホたれども!!」
俺そんな不幸にあって…ねぇ……よ?
「ま、さすがに冗談だけどね」
「次ガチでどうやって逃げるんだ?」
「いい案ある? 勇馬君?」
「もう最初からマント被るしかなくね?」
「「「ええーーー」」」
「だだこねない!」
こんな余談ばかり繰り返して門の前まで辿り着く。
ここを超えると俺はまた残業だらけのブラック生活に逆戻りだ。
…オレニゲタイ。
そういえば一つやる事忘れてるような…
…あ。
「ちょっと町の方一旦戻るわー! すぐに帰って来るから待っとけ!」
「「「え? ちょっ? 早っ!!?」」」
〜数分後〜
「ただいま!」
「「「早っ!!?」」」
何度今日はこれで驚かれるんだろうか。
多少気になってきた。
だが今はそれどころではない
「アゲハ。誕プレだ。やるよ」
俺はアゲハに小箱を放る。
アゲハもそれをきちんと両手で受け止める。
「え? ありが…もしかしてさっき走ってきたのって…」
「おう、買ってきた」
「「「(絶句)」」」
そんなおかしい事はやっていないはずなのだが…
何故だろうか、こいつらの俺を見る目が奇怪なものを見たような感じを出している。
だがすぐにアゲハは顔を赤く染めて、笑顔になる。
「ありがと!」
「どーいたしまして。開けろよ」
「また開けるのは別の機会にでも!」
「何故!!?」
「別に理由なんていいじゃん! それでいいでしょ?」
「まあ、アゲハがいいならそれでいいが…」
「ふふ。元気なくなったら開けるね」
「そんな過度な期待すんなよ。ただの小物だ」
こうして俺たちの休日は終わりを迎えた。
もっとも休日というにはあまりにも波乱の日ではあった。
しかしこれから彼らが経験することに比べれば…
それはただの日常に過ぎないのであろう。
長々と楽しく書いた結果4000行った