15、餓死しかけたら人は悟るようです
前回の日記風に言うならば今日は16日目だ。
日頃ならば俺はまた修行に勤しんでいたことだろう。
本来ならば今日は【剣術】と【闘術】の訓練をするつもりでいた。
あの二つは重要な上に全然レベルが上がんないので仕方あるまい。
しかし今、俺は【並列思考】、【天眼】、【持久】、【千里眼】、【追跡】を同時展開している。
ちなみに【千里眼】と【追跡】はつい先ほど天の声さんによって称号【狩人】と同時に手に入れたもの。
【千里眼】は愛坂が元々持っていたので知っている。
遠くまで視線を飛ばせるというスキルだ。
何ならば上空にも飛ばせる。
ただ普通の視界も保持しなければ走ることもできないので今は片目だけ使用している。
【追跡】は言葉のニュアンス的に使用している。
恐らくは獲物を追いかけることに補正をかけるスキルだろう。
使っていて損は無いはずだ。
さて、それでは何故俺がこんなにもスキルを使用しているのか。
そして何故俺は…
「待てやぁ!! このイタチィいいいいいいい!!!!!」
こんな風にバーサークしているのか。
それは多少過去を振り返る必要性がある。
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アレは朝の走り込みとして枝と枝を飛び交っていた時だ。
ーーシュッ!!
ある一瞬、俺と交差するように何かが脇の方を通っていった。
攻撃か?
そう思ったもののダメージは一切なく、ほっと軽めに一安心。
しかし俺の【直感】は何かを警告していた。
まるで「そこじゃない!! 見るべきところはそこじゃない!!」と訴えかけてきているようだった。
そんなわけでとりあえず【アイテムボックス】でも確認するか、そう開ける。
パン×200→0
…ホワッツ?
これはあくまでも俺が丁寧にアイテムボックス内を整理していたからこそわかることだった。
そう、パンが入っているはずのスペースに何もないのだ。
そこに手を突っ込んでも、なんなら逆さにしても何もない。
まるで取り出した財布の中身が何もなかったような絶望感だった。
いや、そこまで大袈裟か? と思われる方も少なくはないかもしれない。
しかし考えても見てほしい。
ここ、森。
ここ、敵強いのばっか。
ここ、野菜(大体果実)ならある。
ここ、最近は鹿なら狩れる。
ここ、小麦ない。なんなら米もない。そして芋もない。
そんな中で何故貴重な炭水化物だけが無いんですか!!?
何故そのピンポイントを狙ったんだよ!!?
まだ火を起こそうにも起こせそうにない肉か取り放題の野菜ならまだしも!!
何故手軽にカロリーが取れるパンを狙ったぁーーー!!!?
慌てて後ろを振り返る。
そこに何かがいる。
パンを取った何かがいる。
俺の『食の恨みは恐ろしいセンサー』がそう言っている。
すると…
『キチチッ』
岩の上で呑気にパンを一個もぐもぐもぐもぐしている見た目灰色の玉、又の名をイタチがそこにはいた。
何ともムカつく表情で、かつ煽ってくるように笑った。
そしてタッと軽い音を立てて、森の茂みに隠れるように去っていった。
取り残された俺。
ここで俺は理解した。
アレハテキダ
と。
『条件を満たしました。称号【狩人】を獲得しました。それに従いスキル【千里眼】、【追跡】を獲得しました。スキルレベルは1です。』
天の声も告げている。
アレを殺せ、と。
状況にピッタリの力をくれたのだ。
そうに決まっている。
早速俺は足を踏み込んだ。
スキル同時展開オーン♬
及びSP全力で使いま〜す♡
瞬間、木の枝は盛大な軋む音を鳴らす。
「…シネッ!!」
純粋な殺意が…イタチに襲いかかる!!
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そんなこんなで俺は今、持ち得る全ての心血と能力を使いイタチの狩りを行なっている。
追いついたらすぐに【闘術】を使用して、首を捻じ切る所存ですとも。
だが追いつくにはまだ距離がある。
どうやらあのイタチ、中々のスピードファイターらしい。
もっともあの狼さんは軽めに走って当時の俺レベルなのでバグってますけども。
「ふ、ざけ! んなー!! あのイタッ! チィーーー!! 追いついッ!! たら、三枚に下ろしてくれるわーーーーー!!!」
こんな感じで俺は全力ダッシュ。
木の上だろうと、その下になんかヤバげなモンスターがいても気にしない!
白米がない世界でパンも奪われたら地獄だしね!!
そんなこんなで走っていると森が一気に開けた。
いつもの俺なら光景の変化に警戒するのだろうが…この時の俺は冷静ではなかったので無理です。
故に仕方がなかったのだ。
「……………へ?」
まさかその先が谷になっているなど考えなかったのは。
イタチはキチンと踏み込んでいたようで向こうの端まで追いついている。
また『キチチッ』と笑っているのが非常に腹立たしい。
だがこちらはどうでしょうか。
驚きによる浅い飛び込み。
及び飛行体勢も整っておらず。
極め付けに未だにフリーズ中な思考。
その結果はもちろん単純。
「ぎゃぁああああーーーーーーー!!!!!????」
落っちまーす!!
重力さんによる自然落下!
空気抵抗などなんのその!
真っ垂直に落ちるその様は割と綺麗!
ヒュルルルルー
そんな擬音を奏でながら勇馬さんは落ちていくのであった。




