10、邪神との邂逅
改稿終了ですね!
あくまでも序章だけだけど。
〜アゲハ〜
目の前にはあり得ないぐらいに大きな岩が立ち塞がっていた。
入り口の目の前。
初めて入った時にはこんなのなかったのに。
ふと足が前に進んだ。
間を縫って誰かの声が聞こえた。
「罠かもしれない」なんていう声が。
でも私には、そんな罠なんて気にもかからないことだった。
そんなことよりも数倍も、数万倍にも大切なことがあったから。
岩に触れる。
いつのまにか降っていた雨のせいだろうけど岩はすごく冷たかった。
ただ私にはその冷たさは別のものから来ているように思えた。下にいる、温もりのない死体。
それが岩が持っていた熱を奪っていったのかと、そんなバカな妄想。
でも、目の前のとてと嫌な現実は妄想であってほしかった。
「…バカ」
バカだ、私。
守るって言ったのに。
助けるって言ったのに。
勇馬くんの情けない笑顔を思い出した。
たしか「女に守られるとか情けない」って言ってたと思う。
それでもなんだかこしょばそうな顔は勇馬くんの照れ隠しだったと思う。
守りきれなかった。
目を離した。
それだけでも簡単に命が奪われた。
とても、とっても大切な人の命が。
離れてほしくなかった人が消えた。
岩の合間から手がはみ出てた。
それは…華奢な勇馬くんの手だった。
「う、うっ、うわぁあああああーーーーー!!!」
声を出して泣いた。
大げさだけど私には耐えきれなかった。
岩に爪をかけて引っ掻く、何度も何度も。
角のついた岩は爪にかかってヒビを作らせていく。
指に不快な熱が溢れるけれど、もう我慢ができなかった。
殴るように何度も。何度も。
周りのみんなは止めなかった。
みんなの気遣いはありがたかった。
結局その日は泣き叫んだのも精神的なショックも大きかったんだと思う。
すぐに眠ってしまった。
..................................................
〜北村〜
「ハハハハハハハハ!!! 最っ高の気分だ! …ただ自殺ってのはムカつくなぁ!!」
『仕方がないではないか。貴様が弄び過ぎた。それだけのことよ』
「…これからしばらくは支配下を増やせねぇんだよな?」
『うむ。当然だ。契約してすぐに能力を発動させたのだ。これ以上やって貴様があの男同様死にたい、というのであれば別に良いが…そうではなかろう?』
「当っ然だ! 俺はアゲハを手に入れる! クラスのムカつく野郎どもも跪かせてやる! 王様も騎士団長も!! アイツを肯定しやがる! それがとてつもなく許せねぇんだよ!!」
『ならば…今は休め。己の力を伸ばすべきだ。生憎のところ何人か手練れはいる。下手に動けば今の貴様の力では殺されるだろうな。故に、俺が与えた…【独裁】の力を使うなよ。これは我の命令である』
「…了解だ。まぁ、いずれ俺は全ての上に立つ。そのためにテメェを使う。それだけだ」
『…ふ。全くもって不遜な言動であるが…許そう。貴様のことはそれなりに気に入っている。貴様の中にある狂気、俺と同等以上のものだ。ならばこれから先を見てみたくなるのも道理であろう?』
「知るか。俺が望むのは…」
北村は頰に指を食い込ませる。
その肌はつい先ほどのような悍ましい血の色を見せていない。
普通の…健康的な肌の色をしていた。
北村は指に力を込めていく。
「俺自身の世界だ」
狂気の乗った爪を乱暴に己の頰に振るった。
..................................................
心地いい。
いや、死んでますけど。
死んだはずですけど。
あ、黒輝 勇馬です。
なんで意識あるのか分からんお年頃ですね。
…うん、あの時俺は最後の刃として【アイテムボックス】を強引に使用した。
それが原因で俺は自身の命を削り切り、死亡。
恐らくはあの程度で北村を殺さないだろう。
あの岩はただの岩だ。
魔法には勝てはしない。
普通の岩と魔法の岩を同質量、同速度でぶつけても魔法の方が勝つ。
そんな非条理な世界なので当然北村の魔法なり、狼の突進なりで岩は砕けるだろうし、最悪の場合避けることもできる。
わざわざ壊すまでもないと逃げるというのが確率として濃密だろう。
本当に嫌なまでにファンタジーだ。
どこまでも俺に甘くない世界だ。
「独り言が過ぎます。流石の私も多少[憤怒]を隠せませんね。はい」
耳に吐息がかかる。
声が間近で聞こえた。
思わず背筋を伸ばす。
その後、その場を飛んで距離を取る。
「私としたことが申し訳ありません。多少[怠惰]でしたね。殿方を後ろから驚かせてしまうなどあってはならないことでしょうね。反省しております」
「…いや、誰?」
「すみません、これはまた[怠惰]なことをしてしまいました。私の名前はヨルムンガンド。貴方方が倒そうと企んでいる【魔王】のうちの一人です」
この【魔王】と名乗る女、外見に関してはなかなかの奇天烈ぶりだ。
髪の色はプラチナゴールド、眼は真紅、上品かつ威圧的な雰囲気を纏う女だ。
ここまでは一切問題ない。
気品漂う知識溢れる美女、といったところだろう。
「すみません。私の【魔王】発言は無視でしょうか? 流石の私も[憤怒]ですよ」
だが彼女の目の下には隈が!
まるで炭でも塗りたくられたように!
凄く親近感が湧いた!
物凄くだ!
彼女も俺が親近感を抱いたのに気がついたのかサムズアップ!
恐らくは俺以上のブラックな人だ!
姉御と及び申し上げたい。
しかしそれ以上に気になるのは彼女の服装。
…ゴスロリである。
黒を基調とした、リボン、フリル、果てにはクマのぬいぐるみのアクセント。
可愛いとは思うが…それを服として、しかも使い古した感じで着てしまっている。
ミステリアスで妖しい女性なので違和感がことごとく働いている。
何というか…その…すごい…着る度胸が。
「違います!」
すると俺の多少引いた感じを敏感に感じたらしい。
食い気味で、しかも赤面で訂正。
…こんな姉御、みたくなかったよ…
「誰が姉御ですか!!? もう私の部下になった気ですか!? [傲慢]です! いえ、そうではなくこの服は私の[怠惰]により強引に着させられてしまったものです! 無駄に高性能な呪いがかけられており、脱ぐことすら叶いません! 何年もお風呂にすら入れていないのです!」
「…そんな無駄な呪い。いったい誰が作ったんですか?」
なんか…もう同情してきた。
無理矢理嫌な服を着させられる感覚には身に覚えがある。
学園祭とかでメイド喫茶で…いや、あの話はよそう。
もう鳥肌立ってきたし。
たとえそれは別世界でも性別が違っても強くても弱くても同じなんだなー。
すごい勢いで同情してきた。
すると俺の言葉を聞いて姉御は思い出したように咳払いを一つ。
「改めて死亡なされた貴方がここにおられる理由。それとついでに私をこのような姿にした犯人をお見せ致しましょう」
すると俺の前に扉が開かれた。
虚空から出現したそれは無駄に装飾がすごい。
多分魔法だろうが…無駄じゃね?
「カッコいいじゃないですか」
アンタ、まさかの厨二か!!?
あとさっきからちょくちょく心を読むのをやめてくれ!
だがとりあえず俺は扉に手をかける。
扉を両手で押して、その先の光景が姿を現わす。
山積みの漫画にグラビア、ついでにR18な本。
テレビはいくつもあってパソコンも厳重準備。
ソフトはコレクションのように本棚に添えてある。
フィギュアは横倒れなど一部のものを除いて痛むような感じで置いてある。
そして鬼のように用意されたポテチとコーラの箱の数々。
その中央にそびえるは大仏ポーズで脂ぎった手でコントローラーを握るボサボサで生い茂っている髭と髪が混ざり合ったような男。
…いや、なんか最近殺伐としたシリアスしかなかったから多少の安心感あるわ。
突っ込ませる気満々だけど今むしろ癒されてるわ。
ボケまくりな平和な部屋ですんごい和むわ。
男はこっちに気がついた様子で顔だけをこっちに向ける。
そして呑気な顔で自己紹介。
「はよはよー。俺ん名はロキ。地上最悪、全ての【魔王】の生みの親ー。どーぞよろよろー」
………今度はスルーしきれないんですけど?
え、目の前の存在まさかのラスボス説?
このいかにも『オタ』から始まり『ク』で終わりそうなこの男が?
無いわー。
「フハハハハー。よく言われるー。つーか、やる気もねーし。ま、舐められるの上等ってやってねーとこんなことやれねーし」
「えーっと、ヨルムンガンドさんでしたっけ? 俺が呼ばれた理由ってこれで終わりですか?」
「あれっ!? 無視なの? じーみにヒドイぞー。少年くん!」
「一応[怠惰]の権化みたいな邪神ですけどこれでも考えてることは考えてるんです。ただ遊び十二割ですけど」
信頼一切できねぇじゃん、それ。
「あー、ところで勇馬くん? 君あの世界戻りたくね?」
……んんん?
すごい軽い感じで大事なこと言ったぞ? コイツ?
え? 生き返れんの?
俺ってリバースできんの?
なんで?
「貴方の疑問も最もたるものです。ですが貴方には利が勝るかと。私の駄主君の考えは先程言いましたように相当[傲慢]にして[怠惰]にして[強欲]にして[色欲]にして[暴食]にして[嫉妬]にして[憤怒]ですから」
「ねー。ヨル〜、俺のこと貶してね? つーか七つの大罪コンプリートしてね? 俺泣くよ?」
「貴方の涙に私を影響させる力はございません」
「ひっどー」
…まぁ、こんな上司なんかに影響力のクソもねーわな。
あったらあったで悲劇だな。
主にヨルムンガンドさんが。
「んで、なんだっけ? 俺がお前を生かす理由? 単純ですな。面白そうだから。この一点に尽きるぞ」
「………はいっ?」
この瞬間、怖気が立った。
北村の時とは違う、底の見えない恐ろしさ。
深淵の底を覗こうとしたような気持ちの悪さ。
何もわからない。
邪神。
人を人と見ない、玩具を見るような娯楽。
酷く漂う無邪気な悪。
俺には一切手が届かないような絶対的なまでの力の差。
「んで? 転生すんの? しねーの? なんならチートあげるけど?」
「…本当に企みは無いんだな?」
いや、あるとは絶対思うけど…そして言わないと思うけど…
それでも聞かずにはいられなかった。
「うんうん。ないなーい。だからいってらっしゃーー「最も貴方方をこの世界に連れて来たのは他でもないロキですが」ってなんで話まとまりそうな所でお前邪魔してくんの!?」
「邪神の不幸は全人類的には蜜の味、なんですよ」
「それ、たった今作ったろーが!!」
「待て。つまり異世界召喚はお前がしたのか!?」
だがそれじゃあ話は合わない。
たしか召喚したという認識はイミスたちにはあった。
にも関わらずその真犯人がこのダメ男?
ダメだ。意味わからん。
俺は視線でヨルムンガンドに続きを求めた。
ヨルムンガンドはそれに頷いた。
「正確には異世界召喚が成功するように仕組んだ、というべきですね。彼らの魔力の量ではとても召喚できるようなレベルではありませんでしたので」
「なんで全部バラすかなー。もー」
「それも…楽しむためか?」
俺は再度尋ねた。
すると邪神は屈託のない笑みで、
「勿論だが?」
とドヤ顔で。
一瞬イラッとな。
そして次に殺意が湧いた。
平穏無事な世界を奪った張本人がいる。
その事実に俺はかすかな動揺を隠せなかった。
「やめておきなさい。腐ってもロキは最高神の次席。敵うと思うのであれば大変な[傲慢]です。恥を知りなさい」
「…分かってる」
「んで? そんなの別にいいけど…どーすんの? 行くの? 行かないの?」
「行かせてもらうよ。邪神様」
「ちなみにチートは?」
「いらん」
「また早さしか取り柄のない人間に逆戻りか?」
ロキの言うことは確かだろう。
俺は弱い。
この魔法至上主義の世界でそれはよく分かった。
だが、それでもだ。
「お前、面白いものが見たいんだろう?」
「ん? ああ、そーだな。見せてくれんの?」
「ああ、勿論だ」
口の端を歪め、笑う。
そして殺意を信念に変えて、邪神に告げる。
「テメェに見せてやる。弱者が成り上がって強者たるお前を倒す、そんな光景をな。覚悟しろ、邪神」
「ふ、ふははははははは!!! 面白ぇええ!!」
ロキは笑った痛快そうに。
それは底の知れない不気味な笑いではなく、一本抜かれた、そんな笑い声だった。
「だったらここで待っといてやる! 死ぬなよ、黒輝 勇馬!」
ああ、勿論だ。
心の中でそう返事し、俺は再びあの世界へと戻る。
クッソみたいなファンタジーの世界へ。
次からは一章です。
孤独な勇馬の旅が始まる!
…それはともかく邪神コンビはやっぱ好きだわ。




