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たとえ異世界であろうとコンプレックスは直らない件  作者: 製造物
序章、異世界召喚された王國編
11/22

9、城●内、死す!

ギリギリセーフ!

明日序章、最終回!


「絶対見てくれよな!」

 〜アゲハ〜


 胸騒ぎがする。


 ギュウッと締め付けられる心臓が痛みを泣き叫ぶ。


 嫌な予感しかしない。

 勇馬くんが離れてからすぐのことだ。

 勇馬くんが離れてから気が気じゃない。


 すると目の前から現れる剥き出しの牙。

 気がとられていて分からなかった。


「アゲハ様。油断されぬように」


 それを拒んだのはこの世に二つと無いような巨大な大剣。

 まるで壁のように視界を銀一つに染める。

 それに続くように吹き出す血のむせかえるような匂い。

 この匂いはこの世界に来てからの一つの悩みであったりもする。


 未だに殺す、という行為には慣れない。

 周りのみんなは笑顔で殺していっている。


 正直に言えば奇妙だった。

 これに関しては勇馬くんもアルベルトさんも言っていた。

 だけど勇馬くんの場合「変に腰引かれても面倒いだけだし…好都合だ」と『見せられないよ!』とモザイクがかかりそうな笑みを浮かべていた。


 そんな状況でも私たちが殺そうとするのは生きるため。

 この世界で必要とされるために、地位を確立させるために私は立っている。

 勇馬くんもそんな決意をしてたのだろう。

 私もうかうかしてはいられない!


 話はさておき、私は気を取り直した。


「すみません。次、頑張りまーーー」


 その時だった。

 落ちてもいない落雷の音が森に轟いたのは。


 あまりもの音の衝撃に私は意識を一瞬空に放り投げた。


 そこから立ち直れたのはアルベルトさんの手のおかげだった。

 倒れかけた私の腕を掴んで引き上げてくれた。


「ご、ごめんなさい! 迷惑かけちゃいました!」


「いいえ。そんなことは今どうでもいいのです。逃げましょう。ここはまずい」


「え? なんーー」


 理由は顔を見ればわかった。

 アルベルトさんの顔は油断も無くなった焦燥の表情をしていた。

 アルベルトさんですらも危険を伴う敵、私はその事実に動揺を隠せない。


「私一人ならば倒せます。しかし皆様を守りながら、など私には出来兼ねません。一旦扉まで向かいましょう。他の騎士達にも【念話】で知らせます」


 それなら勇馬くんも無事だと思う。

 胸騒ぎは勘違いで終わった。

 そう安心したところだった。


「!? ヤスルト!? 何故繋がらない!!?」


「…え?」


 ヤスルトさん。

 その人は勇馬くんに唯一無二付いていた兵士さんの名前。


 その人の返事がない。

 それは緊急事態とも言えた。


「勇馬くんは!? 勇馬くんはどうなんですか!!?」


「…事情が変わりました。アゲハ様、付いて来てください。二人の救出に向かいます」


「はい!」


 胸騒ぎは恐ろしく、けたたましく鳴り響いていた。








『条件を満たしました。スキル【直感】を獲得しました。スキルレベルは1です。』


 ..................................................


「うるせぇなぁ。団長様は。ま、返事なんかしねぇけどな」


 うるせぇはこっちのセリフだった。


 俺は耳に入ってきた言葉に吐きつけるように思った。


 走る。

 走る。

 追いかけてくる閃光との距離を図り続けながら、俺は走り続けた。


『条件を満たしました。称号【逃亡者】を獲得しました。それに従い、スキル【持久】、【逃走】を獲得しました。スキルレベルは1です。』


 ついには新たな権能も開放した。

 不名誉な気もするがその効果は俺に功を及ぼすものだろう。

 今ならば尚更、狼から逃げるのに都合がいい。


 疲れも少し癒え、逃げる速さも心なしか増した。

 ただそれでも距離を詰められそうになっているのが悪夢だ。


 狼、コイツかなりヤバイ。

 先程FPは同等などと言ったような気もするが、全くもって勘違いであった。

 微々たる差かもしれないがあちらの方が上だ。


 それでも俺が逃げられたのは一重に一つのスキルが理由だ。


「【アイテムボックス】、全開!」


 俺はそう叫んでスキルを発動する。

 なお、顔は真っ赤だ。

 小さなもの、たとえば剣程度ならば別にこんな厨二臭い言葉はいらない。

 ただし今回は取り出すものが規格外だ。


 それは王都でも使った秘技(?)だ。


 狼の進行先に巨大な岩が落ちる。

 狼の速度ではそこに辿り着いた瞬間に下敷きになる。

 それを読んでか狼は軌道を急遽変えて岩を避ける。

 俺はその間に全力ダッシュ。

 こうして俺は距離をなんとか保っている。


 俺のアイテムボックスは以前言ったように規格外だ。

 以前の騒動からさらに岩を多めに入れておいて助かった。


 …どこで経験は役に立つか分からない。

 …というか正直なところ短期間で二回も追いかけられることになって欲しくはなかった。

 一度目は貞操の危機、二度目は命の危機。

 人生何があったものか本気で読めない。


 …俺なんか悪いことしましたかね?

 神様よ?

 逆恨みならば貴様を殺す。


 そんな感傷に至っていると…あ、ちなみにたった今は【並列思考】を発動してるだけで、それ以外の意識は全部狼向き。

 当然です。

 適当にこんなことばかり考えてたら死んでしまうわい。


 遥かな先で希望の道筋があった。

 扉だ。

 どれほど待ち望んで分からなかった扉がそこにはある。


 あと少し逃げれば一先ず俺の勝ちだ。


 そんな油断からだろうか。

【並列思考】を一時的に切ってしまった。


 だが警戒していても油断していてもこの結果は変わらなかっただろう。

 本当に一瞬の出来事だった。


 稲光が一層森を照らす。

 希望の扉が凶悪な雷の色の光沢を映す。


 刹那、目にも止まらぬ稲妻の刃が迸る。


 ふと目に差し込んだそれはあっという間に俺の横を過ぎていった。















「…あ?」


 俺の左腕を奪った上で。


『条件を満たしました。スキル【雷撃抵抗】を獲得しました。スキルレベルは4です。』


 焦げた灰が俺の頰に貼り付いた。

 粘つきがあるそれは一部が赤い原形を保っていた。


 血肉が焦げ付いた末路。

 それであった。


 その後、忘れたように遅れてやってくる激痛。

 身体の痺れが更に俺の体を打つ。


 初めて理解した。


「…クソッタレ」


 ここは本当に良くも悪くもファンタジーな世界である、と。

 無慈悲な幻想の刃を持つ世界なのだと、改めて理解する。


 だが喚かない。

 引いてはやらない。


 俺は弱い。

 何度もその言葉は自分の中で反芻した。


 だから下なんか向いてやらない。

 意地汚さならば、俺が他の奴らを上回る自信があるから。


「【アイテムボックス】ぅうっ!」


 狼が跳ねるように体を翻す。

 次で決めるつもりだ。

 脚は地面についた瞬間、爆発させる準備が出来上がっていた。


 距離はある。

 だがそんなもの奴の前では意味がない。

 逃げるにしても今の狼の速度は優に俺を捉えるだろう。


 痛みはある。

 だがそんなもの()()()()()()()()()()()()()()

 それらは攻撃への集中力の熱に巻き込まれた。


 右手の剣を狼に伸ばす。


 俺の全力の必殺。


「最大輪! 解放!」


 狼が跳ねた。

 火花のようなスパークがその場に風を生み出す。


 超速の牙が迫る。


 目には見えない。


 だが見えなくても十分。


 立ちはだかるは岩の巨壁(・・)

 俺と狼の間を割くようにある壁。


 厚さ10メートルの岩の障害物に振動が襲いかかる。

 狼が衝突した証だ。

 それであってもこの巨壁にヒビの一切は見られない。


 アイテムボックスはSPやMPの消費をしない。

 そうであっても襲いかかってくるこの疲労感はどうしようもないものだろう。

 本来のスキルの許容を超えたからだろうか。

 体が悲鳴を上げている。


 だが今、狼の脅威はない。

 壁はしばらくは壊されることはないだろう。


 俺は扉に手をかけた。

 いち早く退散することが今の最善策だ。


 すると頭に声が響いた。


『ユーマ様ですか!!?』


「ああ、アルベルトさんですか」


『ヤスルトは!? ユーマさんはご無事でしょうか!?』


「俺は無事でーー」


 扉を開けた。


 それだけのはずだった。














「いらっしゃぁい」


 鳥肌が毛立つ。


 たった一言のはずだった。


 それにも関わらず、俺の本能は狼を目の前にした時よりも激しく警鐘を鳴らした。


『どうされましたか?』


 頭で何かが響く。

 俺はそれを声として認識できずにいた。

 その後、何やら雑音のような音がして、通信が切れたがそれすらも俺の記憶には残らない。


 暗くて黒くて禍々しくその笑顔は俺の心臓を鷲掴みにした。


 知っている顔だった。

 それどころかここ最近、嫌にでも覚える出来事があったばかりのはずだ。


 だというのに俺は同一の人物とは見なせなかった。

 前から危うさはあった。

 それでも今の姿よりも理性はあった。

 罪悪感はあった。


 今の彼は怪物だ。

 ある意味ではなによりもニンゲンだ。


 人間の欲を集め、煮たようなドロドロとした穢れ。


 確かめずにはいられなかった。

 本当にソレ(・・)が俺の思う人間なのか。


 だからこそ口に出してしまった。


「お前は…北村、なのか?」


「ハハぁッ…その通りだぜぇええええぇぇええぇぇええええぇぇええぇぇええええぇぇええぇぇええええぇぇええぇぇええええぇぇえ!! 黒輝 勇馬ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああぁあぁぁ!!!」


 血眼をギョロリと剥き出しにし、引っ掻き傷によって顔は傷だらけ。

 肌には黒い斑点のようなシミと指にこびりつくドロドロとして滴る血。

 全体的に纏う空気そのものが違ってしまっていた。


 まるで『帝王』のような邪悪な強いるような圧倒的な狂気。


 違っていた。

 俺の知っている男とは。

 数日で変われるはずがないほどに豹変していた。


 動揺していたのだろう。

 だからあっさりと俺の胸に添えられる手を許容してしまったのだ。


「【炎槍(えんそう)】」


 炎が俺の腹を容易く貫いた。

 魔法に対する防御力が0に近いこともあるのだろうが、俺の意識は一気に揺らいだ。

 身体は虚しく地面に放り出された。


 よく思えば腕一本、無くなった時点で死ななかったのが異常なのだ。

 あれも魔法のはずだというのに、死ななかった。

 そして今も。


 この世界は身体の機能とか関係なしにHPがゼロになればその時点でゲームオーバーだ。

 俺は魔法に対して極端に弱い。

 強力であるはずの魔法を二発食らって死ななかった時点で死んでいない。

 これはあまりにもおかしい。


 つまり…


「手加減してたって…そういうわけか」


「その通りです。ユーマ殿」


 その声は北村のものではなかった。


 壁が貫かられた。

 稲妻によって。


 雷の鎧が剥がれ、狼が姿を現わす。

 その目は…濁っていた。

 その後ろに立っている男の目も。

 北村と同じように。


「『王』、正体はお前か…北村」


「ビンゴだぜぇ!! 黒輝ぃ!!」


 北村は覗き込むようにしゃがんで顔と顔を近づける。

 北村の後ろにはまた騎士が一人立っている。

 その騎士の目もまた暗く悍ましい。


 俺の体はもう動かな

 何かしらの抵抗をしようもアイテムボックスはすでに先ほどの一撃で限界を迎えたらしい。

 しばらくは発動はできないようだ。


 つまりのところ手詰まりだ。

 どの手この手を使おうにもこの状況を打開する策は見当たらない。


「なっさけねぇなぁ!! 黒輝ぃ!!? なぁ!! 格下に見てた奴に地面転がされる気分はどうだ!!!? 殺される気分はどうだぁああああ!!!!!??」


「どうもこうも…ねぇよ。最悪だ」


 本気で異世界チートやだわ。


 俺がどんだけ工夫しようとも、全力を尽くしても勝てんとか無理がある。

 アゲハたちには悪いが俺はここでおさらばだ。


「どれもこれも俺の女に手を出したからだぁああああぁあああああああああ!!!!! アゲハは俺の、オレのoléのののものなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 …は?


 なんて言った、コイツ?


 アゲハ?


 ()()()


 巫山戯ろ。


 アイツを好き勝手になんてさせない。

 アイツはアイツ自身の道を選ぶ。

 それの邪魔なんてさせはしない。


 諦めモードな自分、ごめんなさい。


 俺はコイツを、命を賭してでも全力で殺す。


 全身の痛み、疲労感も俺の眼中には入りはしない。

 命すらも費やして、俺は叫ぶ。


「【アイテムボックス】…最大輪、解放!!」


 その瞬間、なにかが弾けた。

 俺の中で、俺の脳の中で、胸の中で。


 潰れてひしゃげて、粉々になって…


 この時点で俺の人生は死んでいた。


 空に浮かぶ岩石の鉄槌。

 どうかこれが奴に、届きますように。


 それが俺の、最後の願いだった。

文字数(空白・改行含む):5546字

文字数(空白・改行含まない):4900字


行数:422

400字詰め原稿用紙:約13枚


…これは…なかなか…

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