41 思わぬ大物
オークの巣をしばらく見張っていると、やがて2体のオークが巣に帰還しました。
どうやら動物を狩ってきたようで、その肉を焚き火で焼いて楽しそうに騒ぎ始めます。
モンスターというのは、ある程度の知性があります。
人間ほどの賢さを持つモンスターはほぼいませんが、今のオークのように、焚き火で肉を焼いたり、窪地を作って巣にしたり、とある程度の知恵が働くものがほとんどです。
オークは2メートルほどの長身に、筋肉質でガタイの良い身体つきのモンスターです。顔は人間よりは猿やゴリラに近く、下顎の鋭い牙と尖った耳が特徴的です。
巨体と筋肉を活かした、パワフルな動きが得意なモンスターですが、頭はそれほど良くないので、倒すのは難しくありません。
なので、恐らく全部で5体というのが分かった以上、様子見も切り上げてそろそろ何か仕掛けるべきでしょう。
ただ――やはり様子が変です。
巣の大きさがやはり小さいのです。
今は全部でオークが5体も居ますが、それでもまだ巣に余裕があります。
「……どうする、仕掛ける?」
お姉さまが全員に問いかけます。
「待つにゃ。やっぱり匂いが気になるにゃ。獲物の匂いとは違う気がするのにゃ。もっとこう、こびりついているというか」
「つまり、オークの他にも何か住んでいるのです?」
「それにゃ」
私の推測を、アンネちゃんが肯定します。
「それなら、この変な匂いにも説明がつくにゃ」
「しかしオークと共生するようなモンスターなんて聞いたことが――」
その時、巣の方に異変が訪れました。
急にオーク達が騒ぐのをやめ、何か慌てだしたのです。
そして――私たちも、異変を感じました。
大きな音が遠くから聞こえます。
足音? それと、木をへし折るような音です。
音は次第に近づいてきます。
そして、地面が揺れ、何者かが森の中から姿を現します。
「――アレは、サイクロプスだね」
お姉さまが呟きます。
巨大な肉体は、6メートルは越えています。
腕は辺りの木々よりも太く、全身が筋肉質です。
そして何よりも特徴的なのは、顔の中央の巨大な一つかぎりの眼です。
それがぎょろぎょろと、オークの巣を見回しています。
「にゃるほど、あいつの匂いだったんだにゃ」
「けれど、生態として不自然ですわ。サイクロプスは温和で、群れでの行動を嫌うはずですもの。それがわざわざ異種のモンスターと共生しているなんて」
リグの疑問に、お姉さまも頷きます。
「もしかすると、共生ではないのかもしれない」
「どういうことですの?」
「サイクロプスは他のモンスターよりも知能が高いからね。オークを仲間ではなく、ペット、家畜とみなしているのだとしたら……」
お姉さまの言葉は途中で途切れます。
私たちの目の前で、答えに近い光景が繰り広げられたからです。
オーク達は、先程まで自分たちで食べていた獲物をサイクロプスに差し出します。
サイクロプスはこれを一口で平らげてしまうと、不満そうな荒い息を漏らした後、オークの一匹を蹴り飛ばしました。
途端に、オーク達はお手製の棍棒を武器に取ります。
しかし、サイクロプスに襲い掛かるわけではないようです。
オーク達は、走って森の中へと入っていきました。
蹴られて負傷したオークもまた、棍棒を持って森へと入ります。
サイクロプスはその様子を見届けると、巣に寝転がります。
「……見た通りの状況のようだね」
お姉さまのつぶやきに、誰もが頷きます。
「この様子ですと、あのサイクロプスはかなり気性の荒い個体のようですわね。そして、力でオークを従えているのですから、あの個体自身が人間に危害を加える可能性もありますわね」
「それに、サイクロプスの知性は高い。下手をすれば、オークのコミュニティをもっと拡大して、巨大な群れを作るかもしれない。そうなると、厄介だね」
リグとお姉さまの予想どおりになるとすれば、とても危険な状況です。
このサイクロプスを放置してはおけません。
「……決まりだ。ファーリ、すまないけれどサイクロプスのステータスを見てくれないか?」
「分かったのです」
私はお姉さまに言われ、スーパーサーチでサイクロプスのステータスを確認します。
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サイクロプス
ライフ:19258
パワー:1867
攻撃力:3805
防御力:920
魔法力:57
敏捷性:286
技能:怪力(C)
魔法適性:
魔法耐性:
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かなりの攻撃力です。技能も見たことがないものが一つ。
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怪力:攻撃力のステータスを上昇させる
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なるほど、つまりサイクロプスの攻撃力はこの技能込みの数値ということでしょう。
「どうだい、ファーリ?」
「攻撃力とライフがかなり高いですが……私たちの攻撃は通りそうですし、技能も変なものは持ってないのです。敏捷性がかなり低いですから、攻撃さえしっかり回避すれば大した相手ではないのです」
「回避すれば、ね。信頼どうも」
つまり、前衛のお姉さまとアンネちゃんにリスクを強いることになるのです。
お姉さまの苦笑いも当然のことでした。
「相手は一体だけですわ。アンネさんの不意打ちで足の筋の一本でも断ち切ってしまえば、後はわたくしとファーリの魔法で致命打を狙いながら、クエラさんとアンネさんで奴を足止めして頂けたら問題なく勝てるはずですわ」
「確かに、先手必勝というわけですね、リグレット様」
「了解なのにゃ」
こうして、私たちはサイクロプス退治を開始しました。




