08 パパ VS 私
扉を開いて、決戦の地へ向かいます。
と言っても、ここは私の住むお屋敷の敷地にある騎士訓練場。
見慣れた景色ですから、そんなに畏まったり、緊張したりすることはありません。
いや、どちらかと言えば、転生したことを思い出したり、カミさまがいろいろクソだったりしたせいで、多少のことが気にならなくなってしまったのですが。
「――ほう、ファーリよ。良い顔をしておる」
不意に、太い男性の声が響きます。
それは訓練場の中央――そこに立つ私のパパ、ギルベルト・フォン・ダズエルが発した言葉でした。
「どうやら俺の想像以上に肝は座っておるようだな」
「ありがと、パパ。でも根性だけで強くはなれない――ですよね?」
「そのとおりだ、我が娘ファーリよ」
そして、パパは剣を構えます。
パパの本来の得意武器は、実は剣ではなく槍です。その槍術の腕前は、国内はもちろん、大陸全土でも敵う者はいません。
しかし、剣の腕前も超一流。ダズエル領騎士団の団長さえ容易くいなし、稽古をつけてやるような調子で試合に勝ったこともあります。
武術に関する腕前は、誰もが認める超一流。
それが私のパパなのです。
もちろん、今日は10歳の私が相手。
手加減はするのでしょう。でも、だとしても一筋縄でいく相手ではありません。
私は、子供でも扱える軽量な特注のショートソードを構えます。
「――試合開始ッ!」
どこからか、声が響きました。
審判をする、騎士団の人の声でしょう。訓練場の、少し離れた場所からこちらを見ています。
巻き込む心配はありません。
私は全力で駆け出し、剣を振るいます。
「ハァッ!!」
斜め下から、振り上げるような剣閃。これを、パパは容易く受け止めます。
体格も違いますが、何より技術、速さが違います。私の最速の一撃を、パパは見てから防いだのです。それも、より安定した体勢、反撃しやすい姿勢をとって。
無言のまま、パパの剣がごうと唸ります。私ごと、組み合った剣を払い飛ばします。
無理に踏ん張れば体勢が崩れるので、私は後ろに跳んで逃げました。
けれど、パパは空いた距離を一瞬で詰めてきます。上段から振り下ろされる剣閃。
ガキィン! と、金属の打ち合う音が響きます。
私は、かなり無理な体勢をしていました。ショートソードを地面に突き立て、その下に滑り込むような姿勢で、地面に背を付けていました。
パパの剣を自分の腕力、体格では受け止められないと考えたのです。
なので、剣を斜めに地面へ突き立て、地面の支えの力込みで、パパの剣を受け止めたのです。
しかし、こんなものは付け焼き刃。すぐにパパは二撃目を放つ姿勢に入ります。
この格好では、パパの剣の餌食になるだけです。
私は――剣を握ったまま、足を伸ばしてパパの腕に絡ませます。
「ぬぅッ!?」
パパが剣を振り上げるのと同時でした。パパの力でショートソードは地面から引き抜かれます。当然、私も一緒に腕に引っ張られます。
このままではパパに捕まるだけです。私はショートソードが抜けた瞬間、飛び退きます。
まさに不意をつく挙動。まさか、自分の腕に捕まってくるとは思ってもみなかったでしょう。
私は、これはチャンスだと思いました。
パパに一撃を決めるチャンス。
私は宙に飛び上がった状態で体勢を変え、パパに向けて落下する姿勢を整えます。
そして、剣を振り上げました。
「いっけえええええええッ!!!」
声を上げ、全力で振り下ろします。