06 どうして貴族に!?
「……まあ、性別のことはいいです。今の私は女ですし」
ともかく、この際性別は仕方ないこととしましょう。
今の私はファーリ。10歳の女の子。雪穂ではありません。
十年分の人生は、女性としての自我を確立するのに十分すぎました。
ある日突然、男性であった頃の記憶を取り戻したところで、人格まで男性に変わってしまうわけではありません。
ですが、切実な問題があります。
「ところでカミさま。どうして私はダズエル子爵令嬢という身分に転生したのですか。しかもトラブル体質の方は、私の十年分の記憶をたどる限り、治っていないように思えるのですが!?」
そうです。問題は二つあります。
まず、私の身分。
ダズエル子爵とは、王都近くに存在する比較的小さな領地、ダズエル領を治める子爵のことです。
私のパパ、ギルベルト・フォン・ダズエルこそがこのダズエル子爵です。
そして、ダズエル領を代々治めてきたダズエル家。
代々武術や魔術に秀でた家系で、数々の優秀な武人を輩出してきました。
もちろんパパもその一人です。
その武力、つまり子爵領が抱える騎士団と軍の戦力は極めて高く、王都のそれよりも強く屈強であると言われています。
次第によっては闘争で権力をもぎ取ることさえできそうな、強い力を持っているわけです。
なのに、ダズエル家は代々、どの貴族よりも篤い忠義を示し、王国に使え、市民、領民を守り続けてきました。
故に『情熱のダズエル』という異名を頂くほど、有名なのです。
そして、ダズエル家は王家の信用も篤いのです。
発言力だけで言えば、公爵にも匹敵すると言われています。
何が言いたいかというと……そんな特別で、ものすっごいお家に生まれるのはおかしいと言いたいのです。
だって私、前世は平民ですよ?
日本の普通の大学生ですよ?
奨学金借りて大学留年してたカスだったのですよ?
明らかに、身分が高く尊くなりすぎています。
「そんなの、ユッキーが望んだからに決まってるでしょ?」
カミさまは、まるでそれが当然、というふうに言ってみせました。
「私が望んだって、どういうことですか!」
「ユッキーが望んだのは『平穏で幸せな毎日』であって、『平民の身分』じゃないでしょ?」
「……あ」
言われて、私は目が点になりました。
そうです。確かに私は転生前に身分については具体的に要求しませんでした。
いや、むしろ要求は『平穏で幸せ』という抽象的なものをカミさまに伝えていました。
「ファンタズムは、剣と魔法の中世ファンタジーな世界だからね? 街を一歩出れば、モンスターだって徘徊してるんだよ? 平民程度じゃ『平穏で幸せ』な生活は約束できなかったんだよね」
「ぐぬぬ……一理ある言い訳と認めるのです」
カミさまの言い分に、隙はありませんでした。
恐らく、わざと狙ってそういう解釈をしたのでしょう。
けれど、理屈には筋が通っています。
では、もう一つの方の問題は?