06 カミさまとクエラ
「あ、どうも。さっきも自己紹介したけど、私カミーユって言います。ユッキーの普通の友達?」
「ユッキー?」
「私の愛称のようなものなのです。こいつが勝手にそう呼んでいるだけなので、気にしないでほしいのです」
カミさまの言葉に首を傾げたお姉さまに、私はすかさずフォローを入れます。
「そっか、ファーリの友達なんだ」
「そ、そうなのです」
「人間じゃないのに?」
お姉さまの目が、少し鋭くこちらを見たような気がします。
びくり、と驚いて私の身体が跳ねます。
「言っておくけれど、僕は『眼』も吸血鬼のものなんだ。見れば、そこの方が人間とは異なる存在だっていうのははっきりと分かる。感覚的なもので、サーチ魔法みたいに詳細までは分からないけどね」
お姉さまに言われて、思い出しました。
確かに、お姉さまは昔から良い眼を持っていました。
人に化けて屋敷に侵入していたモンスターを真っ先に見破ったこともありました。
……どうしましょう。半端な嘘はつけません。
「それなら安心してよクエラちゃん。私はユッキーの守護精霊みたいなもんだから」
「守護精霊? へぇ……面白いね、それは。精霊とはまた違った感じがするんだけど」
「みたいなもんだからねぇ。でも、私は10年間ずっとユッキーのことを見守ってきたんだよ? 眼が良いなら、見覚えはないかな? ほら、こんな感じの力」
言うと、カミさまは急に手を出して――そこに、魔力の光を生み出します。
いいえ、恐らく魔力とは別の力なのでしょう。
その光には、私やリグレットさんの使う魔法とは異なる感触がありました。
「――ああ、思い出したよ。ファーリが馬に蹴られて10メートル吹っ飛んだ時のアレか!」
「そうそう、それだよそれ~」
「それなのですか!?」
私は驚き、お姉さまに確認します。
「あの時、不思議な力が僕の眼には『見えて』いたんだ。それがファーリの身体を守ってくれたお陰で怪我もなく済んだ、っていうのも理解できた」
「その通り。いや~、さすがに笑ったけどね。馬に蹴られてポ~ンって飛んでくファーリを見たときは」
「いや、僕もちょっと、あの吹っ飛び方は面白かったと思うな。思い出すと笑いそうになってしまうよ」
「お姉さままで!?」
「まあまあ、とにかくこの……カミーユさん? は、どうやら本当にファーリのことを守り続けてくれた存在らしいね。ありがとうございます、カミーユさん」
「いやいや~趣味も兼ねてるので感謝されるほどのことでもないよ」
カミさまにお礼を言うお姉さまと、それに気を良くするカミさま。
なんだか癪ですが……カミさまは本当に、私のことを守ってくれていたようです。
「……ありがとうなのです、カミさま」
ここは素直に、感謝しておきましょう。
「おっ、ユッキーがデレたね? やっぱデレるユッキーも可愛いなぁ、いいなぁ、ねえ写真に撮っていい?」
言いながら、カミさまは平然とこの世界に存在しない道具……私の前世の記憶にあるデジタルカメラというアイテムを取り出し、私に構えます。
「ダメに決まってるのです! というかソレなんなのですか!?」
「ユッキーの成長記録が残された不思議な箱だよ?」
「ぐぬぬ……」
デジタルカメラでしょう、とはツッコむこともできません。
前世のことを口にできない私の弱みにつけ込んできやがったわけです。
「仲良しなんだね、ファーリとカミーユさんは」
「そんなことないのです!」
お姉さまに勘違いされてしまい、私は全力で否定しておきました。




