05 ファーリ、目覚める
僕――ではなく、私ことファーリ(10歳)は、その場に座り込み、頭を抱えてうめき声を上げていました。
「あああああ……まさか、そんな、本当に転生するなんて」
「うふふ、その様子ですと、思い出してくださったようですね♪」
私は声のした方を振り向きます。その声には聞き覚えがありました。
ちょうど、私の真後ろに――見覚えのある、真っ白な髪の少女が立っていました。
「神さま!? マジなんですか!? 私、前世から転生しちゃった感じの子なんですか!? っていうか、要望が何一つ通ってない気がするんですが!?」
私は一気に神さまへ捲し立てます。
けれど神さまは、どうどう、と私を落ち着かせようとしてきます。
「まあまあユッキー、落ち着いて」
「ユッキー!? 急になれなれしくありませんか!?」
「いや、ユッキーから見ればそうかもしんないけど、私から見たら十年間ずっと見守ってきた相手だからね? 赤ちゃんのころのお漏らしから、6つになったころのお漏らしまで、全部見てきたんだからね? 馴れ馴れしくもなるよね?」
「うわあああ……やめてええぇ、恥ずかしいのです!」
私は、神さまに言われて真っ赤になった顔を手で覆い隠します。
「それで、神さま! どうして私、要望とはぜんぜん違う感じに転生しちゃったんですか! 説明をお願いするのです!」
私は顔を隠したまま、神さまに言葉で追求します。
ですが神さまは、とぼけた顔で話をずらします。
「まあまあユッキー。まずは私のこと、名前で呼んでごらん?」
「お名前を存じ上げないのです」
「私、この世界『ファンタズム』ではカミーユと名乗ってるんだよね。ほら、呼んでみ? 可愛い可愛いファーリちゃんのお口でカミーユ様と呼んでごらん?」
「じゃあ、略してカミさまで」
「ぬ、手強いですねえ」
カミさまは眉をしかめました。いや、今はそれどころじゃありません。
「カミさま。どうして私はこんな姿に――女の子に転生したのですか。そのまま転生するのではなかったんですか?」
そうです。
今の私は、名前をファーリ・フォン・ダズエルといいます。ダズエル子爵家の二人目の令嬢、つまり次女です。
どう考えても、前世と違いすぎます。
前世では一般家庭のヘボい男子大学生でした。
それがどうして、貴族の娘に?
「ユッキーの要望どおりだけど?」
カミさまは、なんでもないといった様子で言います。首を傾げて、可愛らしく。
けれども、どこかわざとらしくもあります。
「私、そのまま転生って言いましたよね?」
「だから、ステータスは可能な範囲で前世の数値をそのままこちらの世界に持ってきたんだよ? 性別を決定するパラメーターもそのまま。だから、男女比が1:20のこの世界では、ユッキーは自然と女の子になっちゃうわけ」
「ぐっ……」
そう。理由は、私も十年の人生で経験上知っていることでした。
この世界――ファンタズムは、女性の比率が圧倒的に多い世界です。男性は二十人に一人にギリギリ満たない確率でしか生まれません。
だから私も、この世界に転生する時に自然と女になって生まれてきてしまったのでしょう。
男性に生まれる確率は5%未満。これでは、女性に生まれても仕方ありません。
ただし、そこに何の意図も絡んでいなければ、の話です。
「でもカミさま! そのままって言ったら、普通は男に転生させませんか!? 男女比とか、性別決定のパラメーターがどうかとか、そういうのうまく調整できたんじゃありませんか!?」
「えーでもそのままって言ったのユッキーだし~」
この言い草。
どうやら分かっててやった様子です。悪質な……。