32 愛称で呼びましょう
「はぁ……可愛い尊い……」
「あの、リグレットさん!」
「は、はい!? 何ですの!?」
リグレットさんが何かを言っていたようですが、今はそれどころではありません。
「えっと、私たちお友達になったのですから、せっかくですからそれらしいことを何かやりませんか?」
「それらしいこと、ですか」
リグレットさんは考え込みます。私を抱きしめる力が弱まりました。
この調子で話を逸らし続けましょう。
「例えば、どんなことですの? わたくし、そういうことには疎くて……ファーリは何をしたいのです?」
「えっと、そうですね……私は、お互いに愛称で呼び合う、とかしてみたいのです」
仲の良いお友達同士だけに許された、愛称でお互いを呼ぶ行為。
前世の私も含めて、ずっと夢だったことの一つです。
「愛称ですか……わたくし、ファーリのことはファーリとお呼びしたいのですけれど。素敵なお名前ですし、響きも好きですわ」
「えっ、あっ、その、それじゃあリグレットさんはそのままでもっ!」
好きと言われてつい顔を紅くしてしまいました。
「では、ファーリがわたくしの愛称を考えてくださるのかしら」
「はい! 任せて下さい!」
とは、言ったものの。
愛称なんて、一度も作ったことがありません。
私は前世でも友達が少なく、本当に仲が良かった人などほとんどいませんでしたから、良くて名前呼び。大抵は姓を呼びあうだけの関係でした。
今世に至っては、今まで友達が出来たことすらありません。
未知の領域。
良い愛称を考えるのは困難を極めます。
「……では、『リグレっち』というのはどうでしょう!?」
「なんだか、間抜けな響きですわね」
「あうう……」
でも、リグレットさんの言うとおりだと思います。
リグレットさんの素敵さ、優しさ、華麗さ、美しさを表現できるような愛称にしなければ!
「ナイスジェントルスプレンダービューティーガールリグレット様! というのはどうでしょう!?」
「それ毎回言いますの? というか、バカにしていません?」
「い、いえ! 真面目に考えすぎただけなのです!」
「そう……」
ああ、リグレットさんを不機嫌にしてしまいました……!
これはいけません。
「……リグっち!」
「ダメですわ」
「リグたん!」
「たんって何ですの」
「リグリグ!」
「それ、一回でよくありませんこと?」
「じゃあ、リグ!」
「……まあ、悪くありませんわね」
おっ、好感触です。
「では、これからはリグとお呼びしますね」
「早速ですの? まあ、ファーリのお好きになさいな」
「ありがとうなのです、リグ♪」
「……っ。やっぱり、少し恥ずかしいですわ! ちょっと心の準備をする時間を下さらない?」
「ダメですよ~リグ~」
「うぅ……何なんですの貴女は、その、わたくしを困らせてばかりで! こうしてやりますわ!」
「えっ!? ……あひゃあっ!」
リグレットさん――いいえ、リグにお腹や脇の下をくすぐられて、変な声を上げてしまいます。
その後暫く私とリグの騒ぎ声は部屋に響き続けました。
寮監の方が怒って見回りにくるまで、私とリグのくすぐりあいっこは続いたのです。
次から2章が始まります!
ナイスジェントルスプレンダービューティーガールリグレット様のことを可愛い、もしくはママみが深いと思ってくださった方、あるいはこの作品を面白い、続きが気になるなど思ってくださったならブックマークや評価の方をよろしくおねがいします!




