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異世界転生してもステータスはそのままでって言ったのですが!?  作者: 桜霧琥珀
序章 ファーリ、転生を自覚する
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04 転生するなら、ステータスはそのままで!

「転生と言っても、正確には雪穂さんのデータを新しい世界に最適化して、移し替えるだけなので。特に難しいことはありません。やることはこちらで全部やっちゃうので、雪穂さんは何もしなくてもいいんです」


 神さまに言われて、少しホッとする。

 よくある異世界転生ものみたいに、トラック事故で死んだりするのはまっぴらごめんです。

 そこで、もう一つ疑問が浮かびました。


「あの、神さま。異世界転生するにあたって、僕は何か利益というか、見返りというか、そういうのってないんでしょうか」


 そう。

 異世界転生の定番である。

 なりたかった存在――ゲームの主人公になるとか。

 女の子にやたら好かれるハーレムものの主人公みたいなモテモテになるとか。

 あるいは、定番のチート能力。

 そういうのが無いのか、気になってしまったのです。


「はい、もちろんあります」


 神さまは頷いた。


「異世界転生するのは、私が楽しむ為ですから。雪穂さんが簡単に死んでしまってはつまらないですし。なので、雪穂さんが望むなら可能な限り、望んだ通りの力をお与えします」

「僕が望んだ通り、ですか」

「はい。では雪穂さん。あなたはどんな力をお望みですか? 世界最強の力ですか? どんな女の子でも虜にしちゃうチャームパワーですか? それとも、富と権力と美貌を兼ね備えた新たな自分ですか?」


 神さまは、好き放題言ってくれます。

 確かに、そのような力を得られるのは魅力的でしょう。

 けれども、僕はそのどれも――必要としていません。


 いえいえ。

 すべて持っているのだ、とか傲慢なことは言いません。

 実際、僕はただの留年大学生。二十四歳のヘボい兄ちゃんです。


 しかし僕には、どうしても譲れないことがありました。




「異世界転生するなら――ステータスはそのままでお願いします」




 僕が言うと、神さまはめちゃくちゃ驚いた顔をしました。


「えっ!? 雪穂さん……そのままって、つまり、今のままでいいってことですか!?」

「はい。むしろ、出来るならトラブル体質とかその辺は削ってもらいたいぐらいなんですが」


 僕が言うと、神さまは頭を抱えて悩みだします。


「えぇ……ちょっと、その要求は予想外ですね。理由を聞かせてもらってもいいですか?」

「いえ、単に僕は今以上になにか欲しいものはありませんし。むしろ、トラブルに巻き込まれるのはあまり好きではないので……できれば、今よりも平穏に、幸せに暮らしたいのです」

「な、なるほど。さすが私の惚れ込んだ人です。予想を上回ることを言ってくれますね」


 どうにか平静を装う神さま。

 けれど額には汗。きっと、困っているのでしょう。

 何しろ、僕の要求を飲めば神さまの目的が達成できません。

 僕のトラブル体質を直して、今のままの能力で転生すれば、きっと何も大したことは起こりません。多少僕の性格がアレで、変なことを言ったりするとしても、です。


 なので、僕はこの要求は通らないと思っていました。

 実際、暫く神さまは考え込んでいる様子でした。きっと要求を断る建前を考えているのでしょう。


 ――しかし。

 急に、神さまは不敵に、いやらしく笑います。


「……ふふふ、そうです。その手がありました」

「どうしましたか?」

「はい。雪穂さんのお願いをもう一度確認しますね。異世界転生におけるあなたの能力調整の要望は、今よりも平穏に、幸せに暮らしたい。その為に、ステータスはそのままで転生を果たしたい、ということですね?」

「そうです。できればトラブル体質も改善してほしいのですが」

「分かりました。その要望、可能な限り飲みましょう!」


 なんと、神さまは太っ腹のようです。

 僕の望みを聞いてくれるらしいのです。


 ちなみに、この時点でも僕は神さまの言うことを信じていませんでした。

 なにしろ、ただの女の子が目の前で変なこと言ってるだけですからね。

 神さまであるという証拠がありません。


 そう、最後まで。神さまのことを信じていませんでした。


「では、雪穂さん。異世界転生の作業に入りますね。今日はありがとうございました。次にお会いするのは……そうですね、雪穂さんが転生後、十年ぐらい経ってからにしましょう。その時に雪穂さんの前世の記憶も戻るように調整しておきます」


 神さまは言うと、その場で立ち上がります。

 すると僕は、急に眠くなってしまいました。

 突然の睡魔は異常に抗い難く、僕はあっさりと、前のめりに倒れてしまいます。

 そして、意識を失う寸前。

 最後に見たのは、神さまのニッコリ笑う笑顔でした。

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